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他人のPC使いマイニング 最高裁で逆転無罪【2022年1月20日破棄自判】

2022年1月9日最高裁口頭弁論

ウェブサイトを閲覧した人のパソコンを無断で使って暗号資産のマイニングをする 「コインハイブ」と呼ばれるプログラムを設置したとして、 ウェブデザイナーの男性が不正指令電磁的記録保管の罪に問われている裁判の弁論が 9日、最高裁で行われ、弁護側は「法令の解釈に重大な事実誤認がある」として無罪を主張しました。

この事件では
1審が無罪判決でしたが、2審で罰金10万円の有罪判決が下されています。

弁護側は、コインハイブがパソコンに顕著な悪影響を与えるものではなく 「社会的に許容されていなかったと断じることはできない」と改めて無罪判決を求めました。

一方、検察側は「他人のコンピューターのリソースが空いているから、これを勝手に使ってよいという理屈が成り立つはずがない」として上告の棄却を求めました。

被告のウェブデザイナー「検察官も一般的に見て法律に反するかどうかを見ているというが、1審と2審で評価が分かれている状態で何が一般的なのかと感じた」 最高裁の弁論手続きは2審の判断を見直す際に必要な手続きのため、 2審の有罪判決が見直される可能性があります。

2022年1月20日最高裁無罪判決

仮想通貨を獲得するため、他人のパソコンを作動させるプログラムを設置した罪に問われたウェブデザイナーの男性の裁判で、最高裁は20日、有罪とした二審判決を破棄しました。無罪が確定することになります。

無罪が確定するウェブデザイナー 諸井聖也さん
「日本のインターネットに対して汚点となるような判例を残さずに済んで、本当に安心してほっとしています」  

判決後、笑顔で語るウェブデザイナーの諸井聖也さん(34)。

2017年、運営する音楽サイトを閲覧した人のパソコンを勝手に作動させ、仮想通貨を獲得する「コインハイブ」と呼ばれるプログラムを設置した罪に問われました。  

適用されたのは、コンピューターウイルスなどの保管を禁じた法律である「不正指令電磁的記録保管罪」。

ただ、諸井さんのプログラムは、一般的にイメージされるコンピューターウイルスと違い、プログラムを書き換えたりデータを流出させたりというものではありません。

一審の横浜地裁は、こうしたプログラムを不正とするには「合理的な疑いが残る」として無罪としましたが、二審の東京高裁は一転して不正性を認め、罰金10万円の逆転有罪判決を言い渡しました。

●1審、2審判決は

裁判では、ウェブサイトを閲覧した人のパソコンを無断で使って暗号資産のマイニングをする「コインハイブ」と呼ばれるプログラムが意図に反し不正な動作をさせるものかが争点となっていました。

1審横浜地裁は、反意図性を認めましたが、不正性については「男性がサイトに設置したコインハイブが社会的に許容されていなかったと断定することはできない」と認定。コインハイブが不正な指令を与えるプログラムだと判断するには「合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡しました。

2審東京高裁は、1審と同じく反意図性を認めた上で、不正性についても「賛否が分かれていることは、コインハイブのプログラムコードの社会的許容性を基礎づける事情ではなく、むしろ否定する方向に働く事情」などと判断。故意や目的も認め、罰金10万円の逆転有罪としました。

●最高裁の判断は

第一小法廷山口裁判長は罰金10万円の支払いを命じた2審・東京高裁判決を破棄し、無罪と判断しました。裁判官5人全員一致の意見です。

最高裁は判決理由で、
「プログラムを不正」と判断する際には、▽動作の内容▽情報処理に与える影響の有無や程度▽プログラムの利用方法を考慮する必要があるという判断を初めて示しました。

その上で、ウェブサイトについて、「運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みはウェブサイトによる情報の流通にとって重要」と指摘。諸井さんのコインハイブプログラムの利用方法はウェブサイトの運営者として収益を得るためのもので、「男性がプログラムを設置した影響は、ウェブサイトを閲覧した人が変化に気付くほどのものではなかった」「ウェブサイトの運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは情報の流通にとって重要であり、本件プログラムは社会的に受容されている広告表示プログラムと比較しても影響などに違いはなく社会的に許容し得る範囲内といえる」と認めました。

マイニングによりPCの機能や情報処理に与える影響は、「サイト閲覧中に閲覧者のCPUの中央処理装置を一定程度使用するに止まり、その仕様の程度も、閲覧者がその変化に気付くほどのものではなかった」と指摘。

原判決について、「不正指令電磁的記録の解釈を誤り、その該当性を判断する際に考慮すべき事情を適切に考慮しなかったため、重大な事実誤認をしたものというべきであり、これらが判決に影響を及ぼすことは明らか」として、「破棄しなければ著しく正義に反する」と述べました。

20日、判決後に会見を開いた担当弁護士は、二審の逆転有罪判決を次のように批判しました。

平野敬弁護士  
「検察のロジックで違法にすると、グーグルアナリティクスや広告プログラムはどうなのか。明確な線引きができない。これを許せば日本の技術開発、特にプログラム開発は萎縮してしまって諸外国にますますおいていかれるだろう」  
「最高裁によって具体的な解釈論が示されたことで、警察が乱用的に取り調べや取り締まりを行うことは減るだろう」  

一方、諸井さんは「クリエーターが収益を得ることに好意的、必要なことだという判決文をいただいてうれしい」と評価しました。
(2022年01月20日19:44)

【ソフトウェアは悪用も有効活用も】

新しい技術と捜査の関係をどう考えればいいのか。
ポイントとなるのは、ソフトウェアは、使い方によっては、悪用もでき、有効利用もできるというものが多いということです。

例えば、コンピューターを遠隔操作する技術、または、通信内容を暗号化するソフトウェアです。
これらは、企業などのコンピューターに不正アクセスして情報を盗み出したり、犯罪グループが身元を隠したりするために悪用できます。
しかし、遠隔操作ソフトは、リモートワークをするために利用できますし、暗号化ソフトはプライバシーの保護には欠かせません。
悪用することが可能だからといって、そのソフトを開発・利用することを安易に犯罪と認定してしまうと、時代のニーズに応じた技術を生み出すことはできません。
もし、今回のコインハイブのように、モラル違反のプログラムを防ぐには、いきなり犯罪と認定しなくても、セキュリティーソフトを入れて、自分のコンピューターでは動かないようにすることもできます。
違法かどうか議論となっている技術に関しては、まずは技術的な防止方法を示し、その後、必要があれば、社会が納得できる法解釈や、法律の改正をしたあとで取り締まるべきだと思います。

現代社会にとって、サイバー犯罪は重大な脅威です。
明らかに不正なウイルスは摘発すべきですが、どこまで広げるのかは慎重に判断すべきで、今回の最高裁の判決は、重要な目安となります。
捜査機関には、新しい技術に与える影響を自覚した上で捜査にあたってもらいたいと思います。


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