音楽評論家の村井康司さんから太陽肛門スパパーン新譜2枚組LPレコード「円谷幸吉と人間」に素敵なコメントいただきました

音楽評論家の村井康司さんから太陽肛門スパパーン新譜2枚組LPレコード「円谷幸吉と人間」に素敵なコメントいただきました。東京オリンピックは我々の力及ばず強行されてしまいましたが、パラリンピックの阻止そして近代オリンピック自体の廃止を勝ち取る闘いはまだ端緒についたばかりです。

全ての皆さん、ぜひ村井さんのコメントを熟読玩味し、円谷の叫び

に耳を傾け、今すぐ2枚組LPレコード「円谷幸吉と人間」+先行シングル「東京おらんピックcw時間・場所・存在<すべて」を購入/予約しよう!

村井さんのコメントは以下となります。

太陽肛門スパパーン『円谷幸吉と人間』について

村井康司

 これほどに聴き応えがあり、こちらのさまざまな感情にストレートに訴えかけてくる音楽を聴いたのは久しぶりだ。
 トラックごとにメンバーの異動はあるものの、ここでの太陽肛門スパパーンは多数の管楽器と弦楽器、それぞれ個性的な複数の声、気持ちよくグルーヴするリズム・セクションを擁する一大オーケストラであり、花咲政之輔はそのすべてをグリップするコンダクター、コンポーザー、アレンジャー、メイン・パフォーマーだ。
 それにしても、このアナログ2枚組の中に、いったいいくつの種類の音楽が、それもひとひねりもふたひねりもした形で取り込まれているのだろう。フリー・ジャズ、ビバップ、ブルース、プログレッシヴ・ロック、アフロビート、フォーク、ラップ、R&B、シティポップ、クラシック、バーバーショップ・コーラス、日本民謡……。ありとあらゆる音楽が撹拌され解体され、生き生きとした有機体として立ち現れる。私はこのアルバムを聴きながら、あるときはアート・アンサンブル・オブ・シカゴを、あるときはカーラ・ブレイの『エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル』を、あるときはフェラ・クティを、あるときはローランド・カークを、あるときはUKのシード・アンサンブルを、そしてあるときはビブラストーンを想起した。
 もしこの作品がまったくわからない言語で歌われていたとしても、私は高く評価することだろう。しかし、この作品は日本語によって歌われ、「円谷幸吉」という一人の人間を主人公として、日本社会のどうしようもなさ、オリンピックと国家主義の構造的癒着に対するアンチを、鋭く激しく、そして哄笑と共に突きつけている。円谷幸吉という名前をオリンピックの影の部分を象徴するものとして記憶している世代は徐々に減りつつあるのかもしれないが、1940年に福島県に生まれ、オリンピックのメダルを獲るために自衛隊体育学校に配属させられ、64年東京オリンピックマラソンで銅メダルを獲得するも、68年メキシコオリンピックの9ヶ月前に自死を遂げたこの悲劇的人間を、私たちは忘れてはならない。
 この大作で花咲政之輔が構想し提示してみせた「円谷幸吉が2021年のオリンピック開会式に原子力の炎を掲げて国立競技場へ進撃する」というストーリーは、すばらしい音楽の力によって、見事なリアリティを獲得している。

 優れた表現者というものは、時として同じような卓抜な発想を、それぞれが担っている分野で具現化するようだ。時代を鋭く撃つ歌人、藤原龍一郎の歌集『202X』(2020年3月刊)より一首を引こう。

新国立競技場のトラック喘ぎつつ夜ごと円谷幸吉走る

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