元ジャズ批評編集長、音楽評論家の原田和典さんより太陽肛門スパパーン新譜「円谷幸吉と人間」にコメントいただきました
元ジャズ批評編集長、音楽評論家の原田和典さんより太陽肛門スパパーン新譜「円谷幸吉と人間」にコメントいただきました。皆さん、熟読玩味の上、今すぐ太陽肛門スパパーン新譜二枚組LPレコード「円谷幸吉と人間」と先行シングル「東京おらんピックcw時間・場所・存在<すべて」を購入しよう!!
メシを食うこと、恋をすること。これなしには生まれた甲斐がないというものだ。
円谷幸吉は恋をすることを禁じられた。せいぜい彼をファストランニングマシーンぐらいにしか思ってなかったであろう、どこぞの体育学校長に。まわりの人々も含めて強烈な恫喝を受けたことが、レコードに添付されている「すごろく」の七番を読むとわかる。
どんなにつらかったろう。どんなにやるせなかったろう。ひとの恋路を邪魔する奴は犬に食われてナントカというが、そいつは何に食われることなく(おそらく)ノーノーと生きて、円谷は自刃した。最後の帰省時に家族ととった食事を思い起こしながら。
遺書で7回繰り返される、美味しうございました。でも命を絶たなければ、もっといろんな美味しい食事に出会えていた! なのにメシより死を選んだ。そのくらい、生きるのがしんどかったんだ。
ああ、かきむしられる。この、胸の奥から湧き上がる、後を引く苦みはなんだ。私はこの2枚組LPを聴いて、アンダー・コロナ状態のなかで相当、内にこもっている自分にもまだいくらかの寄り添いが残っていることにハッとして、いささか人間のここちを取り戻した自分と対面した。高い演奏力と幅広い音楽性を持つ音楽家たちが有する“サウンドの引き出し”は尋常をはるか遠く見おろして、テンポや曲調の突如のチェンジは、業師のまぐわい、あるいはジェットコースターを彷彿とさせる(といっても私が最後に乗ったのは平成初期だが)。コントラバスとドラムスが織りなす心地よいコンビネーションと、おそらく独特の倍音を持っているのであろう花咲政之輔の男臭い歌声が互いを輝かせる。楽器がどんなに白熱しようとも、歌詞のひとことひとことがクッキリ聴こえてくるのもいい。
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