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心の島 小笠原−9 島に住んでいたときに書いていた 外来種のプチストーリー(1) グリーンアノール

2009年5月から2010年8月まで小笠原・母島に住んでいたときは、世界遺産登録に向けて外来種対策が一気呵成に行われていた時代。ある種、てんやわんや、人間の気持ちがついていかないぐらいのスピードだった。そのときに感じたことを、外来種小話のようにして書いていた。その1つを掲載してみる。しかし、これはグリーンアノール対策が成功して、島からいなくなったという前提で書いているから、実情と合っていない。彼らはまだ島にいっぱいいるし、世界遺産に登録されて以後(2013)に、それまで入っていなかった兄島でも生息が確認されている。もちろん、対策は今も続いているが、なかなか難しいようだ。


小笠原との関わりは30年以上になる。
取材で、個人の旅で、もう何十回行ったかわからない。コロナ禍の3年を除いて行かなかった年はないし、一時期は住んでもいた。その間に見たり、感じたりしたことを1つずつまとめていってもいいかなと思い、書き始めた。本当の雑記だが、興味あったら幸いです。


ぼくらのともだち

ヤツは、いつでもぼくらの近くにいた。
名前は、グリーンアノールっていう。
茶色だったり、緑だったり、色を変えるトカゲだった。

庭や、校庭や、学校に行く途中の道、森の中、ときどき家の中にもいた。
ぼくらにとって、かっこうの遊び相手だった。
なげとばしたり、ひっつかんでシッポを持ってふりまわしたり、
ときにはふんずけたりもしてたかも!

ヤツは怒って、ハーッっていいながら、手にかみつこうとした。
小さな、とげがいっぱい生えたみたいな前足をふりまわして、
ぼくにむかってきた。

「なにを!なまいきな」

ぼくは笑いながら、ヤツの胴体を強く持って地面にたたきつけた。

らんぼうするなって?

それがぼくとヤツの付き合い方さ。
のどを真っ赤にしてふくらましたって、ぼくはこわくないよ。

道を歩けば木のかげから、ぼくらをそうっとのぞいているのが分かる。
だからぼくはヤツに気づかれないように、後ろから回り込んで、
ヤツの背中をガシッとつかむ。

ヤツはジタバタていこうする。
かまうもんか、つかんで空に投げ上げる!

いつだって、やつはぼくらの近くにいた。
家のまわり、道のはしっこ、草むらの中。
鮮やかなグリーンの体は、いつも見なれた風景だった。

ヤツはいつもねらってる。
時にはすごくすばやく動いて、虫にとびかかり、食べている。

ある秋には、木の上から「ジジジジジジィ!!」って声がして、
見上げるとヤツが、ヤツの何倍もあるセミを口いっぱいにほおばって食べていた。

あきれるほど腹ペコで、食いしん坊だ。

ぼくは大きくなって、中学を卒業するときに、東京のおばあちゃんちに行くことになった。
東京の学校に通うことになった。

最後にヤツを見たのは、島を出る前の日の夕方。
ハイビスカスの垣根の上で、なぜか堂々と、夕日を浴びて影になって、
じっと海を見ていた。

3年たって、ぼくは島にもどってきた。

なつかしい道を歩きながら、ヤツを探した。

ヤツはどこにもいなかった。

ヤツは、アノールホイホイや、寝ているところを網でつかまえられたりして、
この島からいなくなったんだという。

たくさんの、虫を食べすぎて、そのことが問題になったんだってきいた。

しょうがないよね、ここは自然がゆいいつの財産

それをヤツは食い荒らしていたってわけだ。

それでもぼくは、山を歩くたび、庭に出るたび、道を歩くたび、
ヤツの姿を探してしまう。

ひんやりしたヤツの体を、手ざわりを思い出しながら。

2010年 小笠原・母島レモン荘で書いた小話でした。

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