見出し画像

心の島 小笠原‐29   5年がかりの本が出版された

昨年10月末に、小笠原に関する6冊目の本を上梓した。
『ネコがくれたしあわせの約束』あかね書房 
小学校3年生以上の人が対象の、児童図書だ。
これは「小笠原ネコプロジェクト」をドキュメンタリータッチで書いた2018年の『小笠原が救った鳥〜アカガシラカラスバトと海を越えた777匹のネコ』(緑風出版)の子どもバージョン。
上記の本を読んだ、知り合いの編集者の方が「子ども向けに書いてみては?」と出版社を紹介してくださって始まった、ありがたい話だった。


小笠原との関わりは30年以上になる。
取材で、個人の旅で、もう何十回行ったかわからない。コロナ禍の3年を除いて行かなかった年はないし、一時期は住んでもいた。その間に見たり、感じたりしたことを1つずつまとめていってもいいかなと思い、書き始めた。本当の雑記だが、興味あったら幸いです。


以下は、あまり他所では言えない裏話。
『ネコがくれたしあわせの約束』は、本当はもっと早く、2020年ぐらいに出るはずだった。『小笠原が救った鳥』をフィクションと事実を混ぜて、元気な女の子が保護活動に邁進する姿を描いたストーリーを書き上げて、これで行きましょうと話が進んでいた。

しかし、「フィクションと事実の混合」という点で、ちょっと待ってほしいと現地から連絡が来た。
フィクションだけど、モデルは誰と分かるようなリアルな描写がある。
小笠原にはユニークな人、ぶっとんだエピソードを持つ人が多く、物書きのさもしい根性でそのエピソードを私は脳内のBOXに収納していた。それを思う存分取り出し、楽しい描写として書いたために「これってあの人のことだよね?」という描写が散見していた。

エピソード自体は誰かを誹謗したり、傷つけたりするものではなく、くすっと笑える内容なのだけど、(と私は思った)、たとえばそれを「これってお前のことだろう〜?」と人から言われたらやっぱり楽しい気持ちにはならないかもしれない。
小笠原ネコプロジェクトは美しいストーリーだけではなく、人間同士のいろいろな感情も裏側にはあって、たとえば「しょうがないな、そこまでいうならやってみるか」というような感じで、ようやく自然保護に前向きになってくれた人が、私の書いた本の描写で「これは自分のことなのではないか」と思い、「こんなこと書かれるならやっぱりやめる」となってしまわないとも限らない。
平たく言うと、私がノリノリ(古っ)で書いた部分によって、現地の活動が止まってしまうかもしれない。

だったら、仕方ない、捨てるしかないでしょう。ということで、ほぼ完成していたストーリーはお蔵入りとなった。主人公の女の子のことは気に入っていたし、思い入れのある内容だったけど、今までお世話になっていた現地の人々が「ちょっと……」というなら、しょうがない。

ということで、書き直しとなったのだけど、そこから先、いろいろなシノプシスを書いても、編集者さんは「う〜ん」と首を傾げ、OKが出なかった。
私も心が折れかけて、しばらく手を付けられない日々が続いたある日、編集者さんが
「ネコの方を主人公にしてみてはどうですか」
と、意見をくれた。

え〜〜、ネコを……?
今まではネコに襲われる鳥(保護される側)と、それを取り巻く人々という視点に立っていたのに、襲う側を主人公に?
それに、ネコは、残念ながら襲われる側の鳥より断然人間に近いし人気があるし、
何をやっても「かわい〜!」と言われる存在だし、自分もネコを飼っているから分かるけど、なんてったって癒やしの動物なのだ。
……ということよりも、「自然保護」ではなく『動物愛護』寄りには立ちたくないということがあった。小笠原の活動は「小笠原ネコプロジェクト」という名前がついているけど、守る主体は小笠原の自然で、東京都獣医師会という強力なパートナーがいるからこそネコも駆除されずに新しい人生ならぬネコ生を送れるのだけど、そこに少しでも「ネコが可愛そうだから保護した」みたいな感情論での読まれ方がされてしまうと、本質が変わってしまう。
私は、クマが里に降りてくるから、遠い場所から運ばれてきたドングリを撒きましょうというような活動には断じて賛同しないのだ。
(だからこの本ではネコの保護活動とは一切書いていない。帯や紹介文に書かれているが、これは著者ノータッチの部分なので、後で知って『しまった』と思ったのだが……)

非常に逡巡したけれど、何度か試し書きをしているうちに「あ、ネコにだって言い分はあるな」と思えてきた。
小笠原でネコが外来種として排除の対象になっているのは、固有種、固有亜種の鳥やトカゲを襲ってしまうからだけど、じゃあ、そのネコはどこから来たのかと言うと、人間が捨てたり、管理が甘くて逃げ出して山に迷い込んだりしたからなのだ。

ていうことは、これは人間がしっかりすれば終わる問題だ。
人間の責任をもう一度しっかり認識しようという帰結にすれば、それに巻き込まれて悪者扱いされているネコの言い分も聞いてみようよというストーリーが成り立ちそうだった。

そうして、3匹のネコに登場してもらい、3章の本となった。
1章に出てくるプップくんは、実際に小笠原ネコを引き取った友人のもとで飼われていたネコがモデル、2章は少しでも小笠原ネコプロジェクトに興味があったら誰でも知っている、最初に東京にやってきたマイケルがモデル、3章に出てくるクロだけは架空の存在だけど、イラストのモデルは私が以前飼っていたネコだ。

書いてみて、言いたいことは2つ。
ペットを迎え入れたら、最期の瞬間まで面倒を見ようということ。
そして、自分の住んでいる場所は自分で作っていこうということ(えっ、ネコと関係ないじゃんって?これは、読んでいただければ分かります)。

こうして2023年10月末にようやっと本として世の中に出すことができた。
こんな紆余曲折を見守って、出版計画に載せてくださった編集の方には感謝しかない。
その他にも、この本ほどいろいろな人に助けてもらったものはない。
願わくば、1人でも多くの方が手にとってくださいますように……。

PS.ちなみにイラストは小笠原在住のデザイナーでありイラストレーターの織田和恵さんに描いていただきました。小笠原の自然のこと、自然保護活動のことをよく知っているだけに、素晴らしい絵が本を彩ってくれています!

表紙は1章に登場するプップくん。本当の名前はシップくん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?