島の思い出−1:南の島で彼女が持っていたとんでもないもの

今までにいろんな島に行って、いろんな人と会っていろんなものを見た。
取材で行ったこともあるし自費で行ったこともある。
国内外含めて90ぐらいの島に行った。つれづれに、そこで出会って驚いたり、感動したりしたことをちょっとずつ書いていこうと思う。
今回の旅は自費で行ったときのことでもう軽く20年以上前のことだ。だから、細部はうろ覚えだったりする。すいません。

旅も何回も繰り返すと、何を持っていくかが結構重要になる。
できるだけ荷物は少なくしたいし、でも必要なものは持っていきたい。あんまり重くしたくないし、スカーフとパレオとか、兼用できるなら1つでいい。

しかし中にはとんでもない物を持ってきている人もいる。以下は、今まであちこち行った中で、同じものを持っていた人は見たことがない、すごいものを携帯していた女性の話だ。

奄美大島へ行った。空港に降り立って名瀬の知り合いにご挨拶して、すぐバスに乗って南下した。そして、奄美大島の南にドーンちょんちょんという感じで3つある島のうちの1つに行ったのだ。あんまり観光客が行くような島ではなくて、民宿も当時のガイドブックには1つか2つしか載ってなかったから、一番はじめに掲載されていた宿に電話して予約した。

この宿のおじさんが、まあそれは強烈だったのだけどそれはまた別の話で。
道を歩いていて、趣のある石垣……だったと思う、コンクリートブロックとかではなかったような……に、一定間隔で木の棒が立て掛けてあるのを見た。
「これは! 噂に聞いたアレだ!」
そう、ハブ棒だ。ハブが出てきたらその棒で退治するための、公共物(?)なのだ。
うわー……そんなふつーのレベルでハブがいるんだ……とちょっと緊張しつつ宿に行った。
私が案内された部屋は玄関入ってすぐ左の六畳間程度の部屋だったが、廊下に面してふすまがあってそこが入り口で、反対側には窓があって、その外は民宿の私道みたいな道になっていた。

荷物をおいて一息ついて、着替えよっかな……と思うと、さく、さく、と砂を踏む足音がする。民宿のおじさんが道を通っていたのだ。窓の外を人影が通り過ぎていくのが見える。
民宿ってこんな感じだよな……もともとは人の家なんだから。と思いながら着替えるのはやめて、外に散歩にでかけたりしていた。

たちまち夕方になり、宿に戻るとごはんだよと言われた。
というか、あんまり詳細は覚えていない。その日何をしてたかも今となっては記憶の彼方。

大きな居間に行くと、わたしの他に3人女の子がいた。
「こんにちは」
「こんにちは!いつ来たんですか?」
「えーっと、今朝大島について、そのままこっちに来て……」とかなんとか、若い(当時はわたしも若い範疇)女の子同士、すぐに仲良くなって話をしていた。

「私たちは4日前に奄美大島について、しばらくキャンプしてたんです」
「えっ、テントとか持ってきてるの?」
「はい、3人で、キャンプ場にテント貼ってたんですよ。民宿にも1泊したけど」
とてもそんなふうに見えない普通のかわいい女の子たちだったし、そういう子がキャンプするようなスタイルは当時あんまりなかったから驚いた。
「え〜、女の子だけで怖くなかった?」
「大丈夫ですよ、危なくないような人がテント貼ってるところの近くにいたりして」
「へ〜、すごいね。」
すると、一番きゃしゃな女の子が
「でもやっぱりなんかあったらいやなので、ちゃんと準備をしてきました」
という。

「警報機とか持ってきたの?」
「いいえ、竹槍です

えっ??

「そんなもの、どこで買ったの?」というと
「家の裏に竹林があるんで、そこの竹で……」
えーっ、えーっ、自作?!
「うちに、何でもできるおじいちゃんがいるんですよ。器用で、細工物とかもできるから、『おじいちゃん、ちょっと竹伐ってほしいんだけど』っていって、一緒に行って丁度いいやつ選んで『これがいい』って」

「持ち歩けるぐらいの長さに伐ってもらって『先っぽの方をとんがらかしてほしいんだけど』って、槍っぽくしてもらいました」
「おじいさんにはなんて言って……?」
「何に使うかは言わないで……。ただ、作って欲しいんだって。『もっと先を尖らして』っていうと、『……もっとかい? こんなにかい?』って言いながら、シュッ、シュッツって削ってくれて……。内心『一体こりゃ、何に使うんだ』って思ってたでしょうね、ははは」

さすがに、むき身のままでは持ち歩くと危険物扱いになるから、布でくるんで手に持って来たそうだ。キャンプしていたときはテントの出口に立て掛けていたという。
3人とも20代だった(と思う)し、かわいいので、ふらちな野郎がうっかり声をかけてテントを訪れたりしたら、

「エイヤ!」
と、中から竹槍が突き出たことだろう。

しかし、身を守るために持ってくるのが竹槍……。
見た目とのギャップもあって、お腹を抱えて笑ってしまった。

翌日、彼女たちは私よりひと足早く島を出ていった。
港に歩いていくあの華奢な子の右手には、柄布に包まれた1m以上ある竹槍がしっかり握られていたのだった。

次は民宿のおじさんの話です。


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