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政府が隠したい?鳥インフルエンザの知られざる感染経路 解明した研究者「農水省は耳を傾けてほしい」

 「もう20年も経つのに、農水省は何もしない!」。ことし4月15日に都内で開かれた「日本衛生動物学会大会」で、檀上の研究者がいら立ちを口にしました。2004年に高病原性鳥インフルエンザの感染に「ハエ」が関わっていると警告したにもかかわらず、農水省が無視し続けている――。一体どういうことでしょうか。

■膨大な殺処分

 今季もまた、鳥インフルエンザの季節が始まってしまいました。既に佐賀、茨城、埼玉、鹿児島で発生し、18万羽が処分されています。
 昨季、鳥インフルエンザの発生は過去最悪の状況でした。4月8日の時点で、全国84農場で発生、殺処分数は最多の1771万羽に達しました。卵の価格が高騰するほどの膨大な数です。
 2021年に自分の農場で発生し、2度目の発生となった千葉県の農家は、全羽殺処分後に再導入したばかりの採卵鶏50万羽をまた処分しました。
 農場は「ウインドウレス鶏舎」。窓もなく、ほぼ密閉された鶏舎です。「農水省の指針に従って万全の対策をしたはずなのに、なぜ発生するのか」。どんなに対策をしても発生してしまう事態に、農家は頭を抱えています。

■ハエが原因

 学会では、「何が鶏舎内へウイルスを運んだのか?」と題する特別企画が行われ、多数の研究者が調査・研究報告をしました。
 ▼発生農場周辺で流行時期となる冬に活発に活動する「オオクロバエ」「ケブカバエ」が高密度で発生していたこと、
 ▼これらのハエが渡り鳥の飛来する周辺の池から鶏舎まで飛翔する能力があること、
 ▼発生農場周辺で採取したハエ類の体内から鳥インフルエンザウイルスを多数検出したこと、
 ▼養鶏がこれらのハエを好んで捕食すること――などを、国立感染症研究所や九州大学の研究グループが緻密に調査。ハエが原因であるエビデンスを積み上げました。
 研究者は「ウインドウレス鶏舎の農家は皆、ハエはいないと言う。しかし、オオクロバエはブンブン浮遊しないので、素人は見つけられない。我々なら5分で見つけられる」と語ります。対策に悩む養鶏農家をはじめ、多くの関係者は「密閉型の鶏舎で、しかも冬なのに、ハエが原因であるわけがない」と考えている――。ここが対策を遅らせている第一のポイントです。

■ハエを無視する農水省

 では第二のポイントは。それは農水省の姿勢です。
 発表者の一人、小林睦生・国立感染症研究所昆虫医科学部名誉所員は、「世界で初めて、発生農場周辺のハエからウイルスを検出したのが2004年。しかし、農水省は20年間、何の反応もしなかった」と語気を強めます。

【緊急提言 鳥インフルエンザの予防対策の盲点】
https://www.jesc.or.jp/Portals/0/center/library/seikatsu%20to%20kankyo/202101kinkyu.pdf

 確かに、農林水産省のHPに掲載されている「発生予防対策の重要ポイント」には、渡り鳥が水辺に飛来し、そこからネズミなどの小動物が農場に持ち込む絵が描かれていますが、ハエはありません。
 田村議員の国会での追及で、啓発ポスターには小さくハエのマークが入りましたが、なぜか農家向けの防疫指針も、衛生管理基準もそのまま。国立感染研が指摘する対策(後述)も全く採用されていません。同じ国の組織なのに、国立感染研と積極的に情報交換しようともせず、どんどん周知しようともしない。むしろなるべく目立たないようにしています。
 研究者「ハエが原因だとすると、膨大な予算がかかると考えているからでしょう。だができる対策はある。農水省は耳を傾けてほしい」。

■対策を見直すとき
 国立感染研が提案する対策は以下の通り。
 ▼養鶏場近くのため池、用水路等に飛来してきたカモ類が岸辺に排泄した糞を殺虫剤で処理する。オオクロバエは1日当たり1.2~1.8km飛翔することがわかっており、ある程度広い範囲を防除する。
 ▼金網で覆われている開放鶏舎では、月1回程度、金網に殺虫剤を処理する。緑色のビニールで被覆された亀甲模様の金網の場合、ハエの侵入時に必ず金網に止まるため、殺虫剤がハエの肢などに付着する。金網の微小な汚れをある程度掃除した後に薬剤を処理する。
 ▼ウインドウレス鶏舎では、出入り口、空気取り 入れ口など外部とつながっている部分の防鳥ネット等に殺虫剤を処理。またはペルメトリン(バーメスリン)製剤を練りこんだオリセットネットを使用する。
 ▼発生農場では、敷地や鶏糞の集積場に大量の石灰を撒く処理が行われているが、 この処理はクロバエ類の分散を助長し、近隣の養鶏場にウイルスを運ぶことにつながる。殺処分開始前に殺虫剤を鶏糞の集積場等に処理し、ハエ類の防除を行う。

 小林名誉所員は「発生後の殺処分も、本来であれば徹底したトレーニングが必要。自治体の職員まで作業に駆り出されている現状は、人獣共通感染症発生の危険性がある」と警鐘を鳴らします。
 田村議員は3月14日、5月11日の衆院農林水産委員会で、続けてこの問題を取り上げ、対策を根底から見直すことを要求。「多くの養鶏農家は、ハエが感染ルートになっていることを知らない。少なくとも、専門家の知見を周知するべきだ」と求めました。