この改正で日本の森を守れるか

 森林組合法の改正案が衆院本会議で可決され、成立しました。日本共産党と田村貴昭議員は反対しました。

 森林組合法改正案の主な改正ポイントは以下の通りです。
・「営利を目的としてその事業を行なってはならない」との文言を削除
・理事に販売・法人経営に実践的な能力を有する者を配置する
・事業の全部・一部を譲渡する制度の創設
・吸収分割、新設分割の制度を創設
・組合員が組合の事業を利用する義務を負う契約を結べる規定を削除
・役員の競業避止義務に関する規定を削除

■日本の森の現状
 いま、全国の山林では、皆伐して再造林しない、あるいは強度の間伐が行われ、残った木が風で倒れる・病気で枯れる、といった施業が広がっています。山は高性能林業機械を通すため、大きな作業道がジグザグに入れられ、そこから沢に向かって崩れ落ち、残った木も利用できない荒れた状態が拡大しています。
 そしてそれが豪雨・台風の際に土砂崩れ・山津波を引き起こし、河床の上昇と保水力の低下によって、洪水が頻発しています。伐採による環境の激変が生態系をかく乱し、生物多様性を損なっています。何より森林の持続的・永続的な利用を阻害しています。
 森林所有者の知らない間に勝手に大量の木々が切り倒され、それが材木市場に流れるといったモラルハザードが横行し、構造化しています。

https://www.nhk.or.jp/chiiki-blog/700/254460.html

■政府の林業政策・改正案の問題点
 ところが安倍政権は、森を一層荒廃させかねない法律を次々と成立させました。
 一昨年、「意欲と能力のある林業経営者に森林を集約し、大規模化を進める」と豪語し、森林経営管理法を制定しました。昨年は、国民の共有財産である国有林をも売り渡す国有林野管理経営法の改悪を行いました。
 改正案は、これに続くもので、いずれも「未来投資戦略」と規制改革推進会議の提言の具体化です。
 その目的は、森を大規模に伐採し、大型化した川下の木材産業、あるいは丸太ごと燃やすような大規模バイオマス発電に、低価格で大量の素材供給を行うためです。

 この改正案は、現行法の4条から「営利を目的としてその事業を行ってはならない」との規定を削除しました。この規定は組合が組合員の相互扶助を目的とした非営利目的の組織体であることをいい、組合員の利益のための事業を行うことは否定していません。この解釈は既に定まったもので、わざわざ規定を削除する必要はありません。
 また、森林の伐採を含む木材の生産・販売事業について、事業譲渡や吸収分割、新設分割といった営利事業の組織変更制度を導入します。これは不採算事業の整理縮小など、株式会社などの組織変更の手法です。さらに、川下の製材業者、流通業者の者が経営に入り込みやすいよう、競業避止義務も廃止してしまいました。
 森林所有者の共同・相互扶助組織であるはずの森林組合を、企業的な性格の組織へと変容させてしまう改正です。そしてこれにより、より大きな森林組合が、小さな森林組合の林産事業、販売事業に参入することが可能となります。地域に根差していない、営利を目的にヨソから来た業者がみな、誰も見ていない山の中で、森林を大切に守り育てる施業をするでしょうか。

■持続可能な林業政策を
 森林組合の弱体化の原因は、復興期から高度成長期にかけての乱伐が木材の輸入自由化を招き、材価が長期にわたり低迷したことにあります。本法案はそこに何らメスを入れず、植えて50年経ったから伐れ伐れという政府の方針に沿って目先の利益を追うものであり、過去のあやまちを繰り返すものです。
 材価の低迷を放置し、大規模皆伐を推奨するような政策は、誰も見ていない山の中で伐採業者が好き勝手にふるまう=盗伐などのモラルハザードを一層招きます。
 これでは、災害防止、水源涵養、地域の社会・経済・文化の保全など、森林がもつ公益的機能が発揮されず、山村地域の一層の過疎化、空洞化がすすみかねません。
 森を守り育て、高い価値をつけて売る、そうした持続可能な林業を発展させることにこそ、力を注ぐべきです。