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なぜ酪農がピンチなのか。飼料高騰による農家負担増を試算してみる

現行制度・対策の詳細

 現在、飼料価格が高騰した時に備えて、「配合飼料価格安定制度」というものが設けられています。この制度は、配合飼料価格の上昇が畜産経営に及ぼす影響を緩和するため、

① 民間(生産者と配合飼料メーカー)の積立てによる「通常補塡」と、
② 異常な価格高騰時に通常補塡を補完する「異常補塡」(国と配合飼料メーカーが積立て)

という二段階の仕組みにより、生産者に対して、補塡を実施するもので、

①は輸入原料価格が直前1か年の平均を上回った場合に発動し、
②は輸入原料価格が直前1か年の平均と比べ115%を超えた場合に発動します。

 田村貴昭議員は、衆院農業委員会で、現状のように毎年飼料価格が上がり続ける状況では、この制度では際限なくコストが上がり続けることになると指摘しつづけてきました。また、通常補填金の原資となる基金は生産者と飼料メーカー、異常補填金の原資の基金は国と飼料メーカーが積み立てることになっているが、飼料メーカーにとってはこの積立金も製造コストに過ぎず、販売価格に上乗せするだけなので、結局は国の負担部分以外は生産者が負担することになると指摘してきました。
 そのため、この制度による補填金が出ても高騰分は埋まらず、農家は赤字経営を余儀なくされる事態が継続しました。下のグラフのオレンジ色部分が「飼料価格安定制度」による補填、グレー部分が農家負担です。
 また、政府は激しい高騰を抑えるため第3四半期の支給金額を一部上乗せ(㌧あたり6750円)したり、国産飼料に切り替える農家に1頭あたり7,200円~10,000円を支給したりしました。総額はおよそ500億円で、補正予算により措置。それがオレンジの点線部分です。
(配合飼料価格高騰緊急特別対策、国産粗飼料利用拡大緊急酪農対策→https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/attach/pdf/kinkyutaisaku-1.pdf

配合飼料価格安定制度による補填金額

 全く足りないことが分かります。
 では、いくら予算が必要なのか。少なくともグレーの不足部分を国の財政出動で埋めようとすると、根本的に制度設計を見直す必要があります。そこで、制度設計は脇に置いておき、シンプルに現在の単位数量あたりの飼料価格から、高騰前の価格を差し引いて、輸入総量を掛ければ一応の規模感がわかるのではないか。ということで、いくつか不明な部分に仮定の数字を置いてみて、昨年1年間の飼料高騰の総額を計算してみます。

農家の負担増・救済に必要な予算の規模を試算してみる

 実は、輸入飼料の価格高騰は、ロシアのウクライナ侵攻の前から始まっていました。2020年の第三四半期まで、およそトンあたり2万5000円程度で安定していました。そして同年の第四四半期に、豚熱による需要減退から回復した中国の需要増とブラジルの干ばつによって2万9669円と高騰が始まりました。したがってまず、第三四半期の2万5078円を「高騰前の価格」として基準としてみます。
 一方、2022年の飼料価格をどう見るかですが、2022年の第一四半期が5万462円、第二四半期が6万846円と異常な高騰を続けており、統計データがまだないもとで中々見通せない。ただ、第二四半期の6万846円という数字は、ウクライナ戦争開始直後の急騰した時点の買い付け金額が反映されている数字であるため、その後国際価格が若干落ち着いたことを考えれば、若干価格が落ち着く可能性もあります。他方、円安が進展していることから、上がる要素もあります。
 そこで、2022年通年の飼料価格を仮にざっくりと平均で5万5000円程度と想定します。また、数量については高騰前はおよそ安定しており、1400~1500万トンとなっています。そこで、2020年の実績である飼料5原料(とうもろこし、こうりゃん、大豆かす、大麦、小麦)の輸入数量である1456万4776トンを使用することにします。したがって計算式は

(55000円/㌧-25078円/㌧)×14564776㌧=4358億723万円(435,807,227,472)

 大体4300億~4400億ぐらいの負担増が畜産業界全体にのしかかっているのではないか、と把握できました。ただ、畜産・酪農の負担増は飼料だけではありません。牧草、藁、おがくず、燃油、電気代と、あらゆる営農資材が値上がりし、子牛用の粉ミルクまで激しく高騰しています。これらの高騰は全く算入されていないことを念頭に置いておく必要があります。
 そう考えると、政府の「緊急」「特別」の対策がいかに中途半端だったかが分かります。オレンジ色の部分、「配合飼料価格安定制度」は、前述のとおり、国が全額出すわけではありません。国の負担分は2020年第四四半期からの累積で970.5億円です。※
 オレンジ色の点線部分、政府の「配合飼料価格高騰緊急特別対策」と「国産粗飼料利用拡大緊急酪農対策」は500億円です。まさに「焼石に水滴」(千葉の酪農家)。差し引きすると2900億ほどがいまだ農家負担のままとなっています。

2月14日、酪農家が農林水産省に集まり、野村大臣と直談判した。田村・紙両議員も同席。

驚くほど通常運転の予算案

 田村貴昭議員・紙智子議員は、衆参の農林水産委員会で何度も予算措置を要求し、大臣に直談判をしに行きました。
 さすがに政府・自民党も、国内から酪農がなくなるようなことは防ごうとするに違いない、何かギリギリのところで予算措置をするかもしれないと淡い期待をしていました。
 ところが、補正予算にも、いま国会で審議中の予算案にも、まったく特別な対策は何もなく、驚くほど通常運転の事業が並んでいるだけでした。
 ことし1月、自民党は農林族の議員が集まって「配合飼料価格高騰対策に関する緊急決議」を上げ、野村大臣に申し入れをして、その直後に岸田首相から対策を指示したと報道されました。
 しかし中身を見てみると、どうやら第三四半期の対策であるオレンジ色の点線部分を第四四半期も続けよという要望のようです。それでは全く足りないと何度も要望されているのに、パフォーマンスでお茶を濁そうという魂胆でしょうか。
 米国の新古品の兵器を爆買いするお金にはササっと43兆円も出すのに、それと比べたら微々たる金額に過ぎない4300億円は渋る。兵站を軽視するのは戦前からのお家芸とはいえ、一体誰に仕えているのかと言いたくなります。

※配合飼料価格安定制度における異常補填のうち2分の1が国負担となるので、高騰が始まったR2年度第4四半期からの異常補填の累積支給総額の半分が国による補填とみることができる。
R2-4 ゼロ(通常補填のみ)
R3-1 326億円
R3-2 394億円
R3-3 239億円
R3-4 96億円
R4-1 269億円
R4-2 617億円
合計 1941億円 国負担分970.5億円

Header photo : The Smithsonian Institution Open Access Media