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盗伐と政府の林業政策の関係について

【写真=熊本・人吉の山林、自伐型林業推進協会提供】

 政府の林業政策の基本方針は、要するに伐採施業の大規模化や高性能林業機械の導入、流通の合理化によるコストカット、そして生産量の拡大です。宮崎はこの方針に沿って生産量日本一となっている、いわば優良県です。
 しかし、この方針が、山中でのモラルハザードを招いているのではないか、と指摘されています。どういうことでしょうか。

 政府の方針のもと、伐採業者は競って補助金を申請し、高額の林業機械を導入しています。ただ、うまく補助金をゲットして高性能林業機械を導入したら、次はそれを使わなくてはなりません。巨大な重機を効率的に使うためには、斜面を切って大きな作業道を通し、周囲を広範囲に面で伐採する「皆伐」が必須になります。当然、皆伐する面積が大きければ大きいほど、コストは下がります。

 また、高性能林業機械は非常に高額で、補助金があっても自己負担分が重くのしかかっています。例えば、伐採、枝払い、側尺、玉切り、集積を一台でやってしまうハーベスタという機械がありますが、新規購入すれば安いものでも1000万以上します。しかも、維持費も高額で、導入したからには伐り続けなければなりません。

 1時間で100本を伐採から集積までやってしまうハーベスタを、ずっと稼働し続けるには、一体どのぐらいの広さの森が必要でしょうか。
 その広さの森を確保するため、伐採業者は、山林の所有者を探し出して買取や委託の契約をし、市役所に伐採届を出し、間違って伐らないようGPSで確認しながら周囲の木にピンクのテープを張り、コストをかけて伐採範囲を決めています。ほとんどの伐採業者・林業者は、プロの誇りにかけ、境界を越えて伐採したりしません。
 しかし、政府が税金を使ってどんどんハーベスタなどの林業機械を買わせ、流通も合理化・スリム化を進め、コストカットを推進しているため、材価はどんどん下がっています※。沢山伐って伐って、薄利多売をするしかありません。当然、元の山林所有者に還元できるような利益なんてありません。
 現場は深い山の中。誰も見ていないのです。ここに、盗伐を招くインセンティブがあります。

 被害者の会の海老原会長は、所有している山林がハゲ山になっていることを偶然見つけ、勇気をもって告発しました。どんな圧力を受けても屈せず、同じように被害にあった方々を組織して解決と対策を訴え続けています。
 では、他の地域は?

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 日本の伐採地の7割は植林されないまま、放置されています。
 大規模に伐っても利益は薄い。次に伐るのに最低50年かかる。それに、伐るためだけに買い取った・委託を受けた山林です。なんで植えようと考えるでしょうか。
 高性能林業機械を通すために斜面を切って作った大きな作業道は、雨が降ると川になり、地盤を支える根もないので、どんどん崩れます。谷筋にたまった土砂は、大雨が降ると水をせき止めるダムになり、鉄砲水・土石流を招きます。そうならずとも、谷筋を伝って土砂が少しずつ川に流れ込み、河床が上昇して、知らないうちに下流域の洪水のリスクが増大します。

 NPO法人自伐型林業推進協会は今年、昨年の豪雨によって多数の被害が出た人吉・球磨川水系の集水域となる山林を調査しました。そのときの写真の一部です↓↓↓

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【写真=自伐型林業推進協会撮影】

じゃあ、どうすればいいの。という方は参照→https://zibatsu.jp/

※現在、局面的に材価が上がっています。主に米国の住宅建築需要の増大により、建築用木材の供給が需要に追いつかないことに起因しているとされています。しかし、国内の素材生産業者は高値にもかかわらず供給量を増やすことに慎重です。材価の押し下げ圧力は変わらず存在しており、いつまた価格低下局面となるか分からないためだと言われています。