見出し画像

自閉スペクトラム症の早期診断は、社会的症状の改善につながるのか。

 イスラエルのネゲブーベングリオン大学(BGU)の研究者チームは、2歳半までに自閉スペクトラム(ASD)の診断が行われると、後年の社会的症状の改善につながる可能性を報告しました(Autism 1-11, 2021)。ASDのスクリーニングに関しては、多くの国々で1.5歳から2.5歳の幼児の全数スクリーニングが行われ始めています。しかし、ASDの早期診断がASDの社会的症状の改善につながる可能性を示した縦断研究は、今回が初めてかもしれません。
 BGUチームは、ASDの幼児期診断群131人(1.5歳から5歳;診断時平均2.6歳、追跡調査時の平均4.1歳)の子ども達を対象にして、その中核的症状の縦断的変化を定量化して調査しました。定量化には、自閉症診断観察スケジュール第2版(ADOS-2)を使用しています。診断された子ども達は、地域での療育を受けたので、その支援時間を考慮しています。

 その結果、診断の年齢は、ADOS-2評価による症状改善と有意に相関していることがわかりました。次に、早期診断の重要性をさらに評価するために、2.5歳以前の診断群と2.5歳以降の診断群を分けて、評価を行いました。2群間では、子どもの性別、親の年齢や教育レベル、ベースラインでの認知スコアや中核的症状の差はありませんでしたが、1-2年後の中核的症状の変化においては、男女とも2.5歳以前の早期診断群が約3倍の改善を示しました。

 筆頭著者は、BGUのアズリエリ国立自閉症神経発達研究センターの研究者であるイラン・ディンシュタイン教授です。彼の推測によると、幼児期の基本的特徴である脳の可塑性と行動の柔軟性が関係するのではないかということです。

 本研究の意義は、2.5歳以下というASDの早期診断がASDの社会的症状を大幅に改善する可能性を示した点にあるでしょう。ADOS-2での評価を繰り返し実施し、初期のASDの重症度と認知能力を考慮して共分散分析(ANCOVA分析)を実行して継続的変化を評価した点がユニークだといえます。この結果から、2つの重要な示唆が得られます。第1は、ASD診断の平均年齢を下げるために、生後18~30か月のASDスクリーニングを見直す必要があることです。第2は、ASD診断後は、特殊な治療環境になくとも、地域社会で利用可能な臨床的および教育的支援を受けることができれば、ASD児の社会性は大きく改善される可能性があることを認識することです。

 BGUチームは、イスラエルの国立自閉症神経発達研究センターで最先端の研究を行っていますが、同センターは、莫大な助成金を得て研究と臨床の密接な連携を目指して拡張されるようです。今後の研究成果が期待されるでしょう。

将来のアズリエリ国立自閉症・神経発達研究センターのイラスト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?