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自閉スペクトラム症の症状は,幼児期に軽減するのだろうか。

 自閉スペクトラム症(ASD)は,自閉症という名前で呼ばれていた頃は,かなり稀で重い障害だと考えられていました。80年代の最初の頃は,診断された大半が知的障害を伴った方で,成長後も日常生活の広範囲にわたって支援が必要である「障害者」として生きると思われていました。

 しかし,今では,知的障害をもたない(あるいは知的には平均より高い)ASDの方もたくさん存在していることがわかっています。そして,

 成長とともに症状は軽減するものの,やはり社会生活に様々な支障が出るため,継続した支援が必要であることがわかってきました。

 そのため,ASD症状の重症度変化に注目した研究が盛んに行われるようになっています。

 カリフォルニア大学のWaizbard-Bartovらが手掛ける自閉症フェノメプロジェクトは,近年行われるようになったASD関連の大規模な縦断研究のひとつです。その成果の一部として,ASDの幼児における症状の重症度変化の研究が,Journal of Autism and Developmental Disorders (2021)に報告されています。

 

PsyPostの紹介記事より

 この縦断研究は、自閉症の少年と少女の症状の重症度の変化を調査しています。自閉症の125人(86人の男子と36人の女子)を対象として,約3歳と6歳で、子供たちは自閉症の症状の重症度と認知能力(IQ)について評価しました。社会性、コミュニケーション、運動スキル、日常生活スキルのスコアを含む適応機能についても評価されました。

 ASD症状は,個人によって大きく異なり、症状の重症度は軽度から重度までさまざまです。そのため,評価方法として,子ども一人ひとりの症状の重症度を,最初の評価からフォローアップまで変化した程度を数値に変換することで、重症度変化スコアをつけました。結果は,3つの異なるグループがあると推定されました。

  1. 重症度スコアの変化が1ポイント以下の安定したグループ(54%)。

  2. 重症度スコアが2ポイント以上減少したグループ(29%)。

  3. 重症度スコアが 2ポイント以上増加するグループ(17%)。

 これらの調査結果は、ASD子どもたちの症状変化を調査した最近の研究と一致しており、

 ASDの子ども達の約46%が,有意な症状変化を示したことになり,約83%が安定傾向および改善を示したことになります。

 この3つのグループを比較すると,

 グループ間で支援の質や量によっての差は生じませんでしたが、症状が軽減した第二グループには、女児が多く含まれていました。

 このグループには、ベースラインとフォローアップの両方で平均IQが高く、フォローアップ調査で適応機能が成長した子ども達が多くいました。
 その一方で、第三グループには、女児の数は有意に少なく、平均IQスコアが低く、成長とともに適応スキルが低下していました。
 最後に、第一グループは、男児と女児の比率が等しく、適応スキルが安定しており、時間の経過とともにIQの上昇を示す傾向がありました。

 臨床上では、自閉症の女児の方が思春期前後より,男児よりも多くの障害を経験すると考えられています。したがって、この研究結果は,女児が有意に症状軽減を示すのに,なぜ女児の方が困難に出会う率が高くなるのだろうかという疑問が生じます。そこで,

 この結果から、自閉症の女の子が自分の症状を「カモフラージュ:覆い隠す」可能性が高いという仮定が導かれます。

 カモフラージュは、ASDの方が社会で自分の症状を自覚して,故意に隠すという対処戦略です。このカモフラージュは,社会適応のために必要なスキルであるとともに,当事者にとっては大きなストレスになり,周囲から障害を気づかれにくく必要な支援を得られない理由になるでしょう。

 いくつかの研究は、ASD児が成長とともに安定した症状を示す傾向があることを示唆しています。しかし,実際には,多くの子どもたちは,症状の重症度に目覚ましい変化を示すのではないかと考えられるようになっています。発達上の異なる軌跡を特定することは、ASD児の症状の増加、減少、または安定を導く決定要因の特定に役立つのではないでしょうか。

Einat Waizbard‑Bartovさんは,イスラエル出身のPh.Dスチューデントのようです。
今後の活躍が期待されますね。


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