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『Get Back』 -Mellow / TOMOO-

Mellow / TOMOO
作詞:TOMOO
作曲:TOMOO

 楽曲を聴いて思い浮かんだことを羅列した、まとまりのない文章。歌詞解釈のつもりですがまとまりがなさすぎて解釈と呼べるようなものではないかもしれません。
 この文章のクオリティはさておき、とても良い詞と曲ですので、聴いたことがない方は是非。



1.1A

真っ暗な部屋の隅で
電話越し 取り戻すよ
いつのまに 見失った
君の色彩を 君の輪郭を

 真っ暗な状況で電話越しに聞こえるのは相手の声だけのはず。しかし、感じ取れたのはむしろ「君の色彩」と「君の輪郭」。
 「取り戻すよ」、「いつのまに 見失った」とあることから分かるように、これらの「色彩」と「輪郭」はもともと見たことがあるもの。更に言えば、単に見たことがあるだけではなく、よく目にしていて身近なものだったからこそ、真っ暗な部屋の隅で電話越しの状況であっても明瞭に思い浮かべることができる。
 ここでの「取り戻す」という言葉からは、①もともと身近にあったが一度離れてしまったものを再び手元に近づけるようなニュアンス(「所有の復帰」的なニュアンス)、②それを自分の意思や力で達成したようなニュアンス(意思的・能動的なニュアンス)、③取り戻すまでに時間や労力がかかったようなニュアンス(「漸く」感)が感じられる。「思い出す」という語と対比すると分かりやすいかもしれない。

 換言すれば、この電話のシーンに至るまでは、そんな身近なものさえも見失ってしまうような状況にあったことが窺われる。冒頭の「真っ暗な部屋の隅」という場面は、そういう状況も暗示しているように思われる。
 対照的に、取り戻した今の安堵が浮かび上がる。


2.1B

言葉途絶えた 隙間で
一番君が近づく気がした

 会話の切れ間。次の一言がこちらに届くまでの間の、一瞬の静寂。
 聴覚しか頼りになるものがない状況にあっては、その一瞬でも永遠のように長く感じられる。通常なら、その一瞬の長さは不安をかき立てる。
 それでも、「君の色彩」や「君の輪郭」、あるいは「君」の存在の気配を手元に手繰り寄せたのなら、この一瞬に居心地の良さを感じながら次の一言をいくらでも待っていられる。待つでもなく待っていられる。
 「待つ」ことは、何かとの時間的・空間的な隔たりがあることを含意する。「待つことができる」というのは、隔たりの向こうのその何かに身を委ねる、自分の意のままにならないその何かの到来を信じられる、ということ。
 隔たりの中に伏在する近さ。


3.1C(1番サビ)

オルゴールのテンポで時間が進む
少しかったるいくらいに間延びしてさ
君のことばはメロウな宝石
かわりなんてないこと 思い知らされるんだ

 テンポが速い曲もオルゴールだとゆったりしたテンポになる。軽やかで煌びやかな音色に似つかわしくない、少し粘度のあるテンポ。
 暗い部屋の隅での「君」との電話は、止む気配のなかった日常の加速を押しとどめて、その小さな小さな切片を何十倍にも何百倍にも拡大する。時間の層からはみ出したような感覚にさせてくれるそれが心地良い。
 あの静寂の終わりに「君」が発した言葉は、何気ない普通の一言だった。しかしそれは、深く染みわたり、小さくも確かな光をこちらに渡してくれる。「君」の言葉だからこそそう感じられるのかもしれない。
 君の存在の気配が身近に戻ってきた今、そう思わされる。


4.2A・2B

大人でもない子供でもない
その声で とかされてしまうよ
「つかずはなれずでもいいね」なんて
予防線の向こうで会いたい

 「君」と私は社会的には大人。しかし、「大人 対 大人」の功利的な接し方はそこにはない。気遣いと愛着のあるコミュニケーション。
 「その声」を聞けば、ふたりの間の隔たりは、私の心の強張りは、あるいは日頃の諸々の憂いは、融解する。
 この関係を大切にしたいがあまり、踏み込むことに躊躇いを覚える。功利的な接し方へ後ずさりしてしまいそうになる。傷つけたら、傷つけられたら、嫌いになってしまったら、嫌われてしまったら。「君」なしには生きられなくなって、「君」が私から離れてしまったら。
 そんな打算を超えたふたりでいたい。


4.2C(2番サビ①)

オルゴールのテンポで時間が止まる
尖ったと思えば また滲んでる
君の心はメロウな三日月
上手にさわれないけど

 進んでいるようで止まっているようでもある、あの時間。
 身近にあるからこそ、お互いの「心」の移ろいをより敏感に感じ取る。それは、時には相手を傷付け、時に相手を癒す。
 新月から満ちてきて半月に近づいていく三日月のように、まだ満ちていないふたりの関係。太陽の光を受けて輝く月のように、一方の心に応じて他方の心も状態を変える。
 そんな「君」の心を、今はまだ上手に扱うことはできないし、これからも難しいかもしれない。それでも。


5.2C’(2番サビ②)

オルゴールのテンポで時間が進む
少しかったるいくらいに間延びしてさ
君のことばはメロウな宝石
かなしいわけじゃないのに
また涙が出そうだ

 どれほどゆっくりでも、間違いなく時間は進む。そんな中で、進むでも止まるでもない、あてどない会話が紡がれる。
 そのなんでもない言葉達に、一度は悲しみに費やした涙がなぜか再び溢れそうになる。




それでは。

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