映画「あの頃。」を観てきた

松浦亜弥に恋するところが素晴らしい。

狭く物の溢れた汚い部屋。
明らかに身体に悪そうなコンビニ弁当を食べている。
1食食べるごとに1日寿命が縮まるような、先行きのなさを感じるようなそれ。

友達からもらった、アイドルのDVDを何気なく再生する。

しばらく真っ黒な画面に表示される懐かしの「ビデオ1」。
アイドル以外のものはCGのゴテゴテしたPVが流れる。
この間、カメラはロングショット。
寄るわけでも、別アングルのショットで表情が映し出される訳でもない。
カメラは定位置で固定されている。
ブリブリの可愛いアイドルが歌い、踊りだしても
松坂桃李さん、演じる「劔(つるぎ)」は特段、表情を変えたり、身を乗り出したり、けだるげに動かす箸を止めるでもない。
しばらくただ、そこにあるから眺めているだけ。

3分もしただろうか?

彼は、唐突にテレビの音量を上げるのである。

安アパートは、壁も薄いのだろう。普段は13くらいのボリュームを21くらいにする。ただ、表情に生気が宿ったり、テレビや映画で見慣れた恋する表情は決してしない。

彼は黙々と白飯を口に運びながら、見続け、そして涙するのである。
彼は恋したのである。


これぞ、今泉力哉監督の演出であり、スクリーンの向こうが私達の生きる日常と地続きになる魔法。

私はすごく好きだ。

伏線を回収するような、しないような、盛り上がりがあるような無いような、登場人物に共感できるような、出来ないような。

私達の生きてる世界は混沌。

くだらないけど、生きて、死ぬ。

こうした「マンガ的な」記号化されていない、スクリーンの向こうの人が生きている映画が、創られていることに感謝したい。