EDGEofはフェーズ2へ移行します!
コロナインパクト
非常事態宣言が解除されて、渋谷には目に見えて人が戻ってきました。夜中もやっている居酒屋もチラホラ見かけます。開業直後の閉鎖になってしまったPARCOや駅ビルとかも、そろそろオープンしそうです。こうして、徐々に日常が戻ってくるような雰囲気もありますが、残念ながら完全に元に戻ることはないように思います。少なくとも、ワクチンが開発され、それが一般にまで出回り、集団免疫を獲得するまでの2年くらいは。
ほんと、ありとあらゆる分野で大きな変化が起こっていますが、特に影響を受けているのがインバウンドとイベントではないでしょうか。4月の訪日外国人旅行者数はたったの2,900人で99.9%減だったそうです。世界中、殆どの国が国境を閉じた状態。飛行機の機内は密室(だと思われがち)だし、渡航先でホテルに泊まるのも不安(と感じる人が多い)。そうなると、よほどの必要性が無い限りは、世界中が集団免疫を獲得するまで、海外から人が頻繁に来るような状態にはなりません。
そうこうしているうちに、航空会社がバタバタと潰れてしまうのは間違いなく、民間航空会社の国有化も起こって、1国1エアラインに近い状態になるでしょう。航空券の値段は跳ね上がり、ウィルス不況で多くの人が旅行どころではなくなるので、海外旅行は誰でも気軽に行けるものではなくなります。結果的に、一部の富裕層やビジネスマンだけが空を飛んでいた40年くらい前の状態に一気に逆戻りする可能性があります。
もう一方のイベントはというと、もう航空業界と同じくらい目も当てられない状況です。そもそも人が集まることが禁止。イベント関連ビジネスは生き残りを懸けて様々なチャレンジを展開しています。私も、今年参加する予定だった殆どのイベントがキャンセルとなり、代わりにオンラインでの開催案内がたくさん届いています。しかし、まだ試行錯誤が始まったばっかりとは言え、このオンラインイベントなるものがまぁつまらん。。。
これはイベントに何を期待しているかによって感想もだいぶ違ってくるとは思うのですが、私が世界中のイベントに顔を出すのは、アフターパーティーに向かうシャトルバスで隣に座った人が面白い技術を持った会社のCEOだったとか、乾杯の挨拶の時に話しかけてきた人がたまたま共通の知り合いがいて盛り上がったりとか、そういうネットでは生まれない偶然の出会いのためです。なので、ほぼ一方的に登壇者の話が垂れ流されるだけで、ふとした雑談の発生する余地がなく、新しい出会いが殆ど生まれないオンラインイベントというのは、まったく価値が感じられないのです。
結局のところ、私がイベントに参加する理由は、登壇者の話を聞いて学ぶというのではなく、何か新しいことを一緒にできる仲間を探すこと、これに尽きます。そして、少なくとも私の経験上、何か全く新しいことを一緒にやる仲間というのは、オンラインでは見つけられません。厳密には、見つけ出すところまではオンラインでできますが、一緒に動けるための信頼関係の構築というのは、現実世界で直接会って、その人の存在を生で感じられる方が、圧倒的に効率がいいのです。
EDGEofへの影響
2018年4月に渋谷にオープンしたEDGEofという拠点は、まさにそのような良質な偶然の出会いを様々な形で誘発し、生まれた出会いが具体的なプロジェクトとして形になるようにデザインされたビルでした。イベントスペースやキッチンラウンジ、ルーフトップバーに茶室など、その全てがいかに人を呼びたくなるか、集まった人々のクリエイティビティを刺激するかという観点で設計され、オープンから2年ほどで1万人以上の方々にお越しいただきました。
また、日本のスタートアップ業界でも屈指のグローバル拠点として、スウェーデン国王夫妻を始め、オランダ皇太子、各国の大臣や自治体の首長などが訪れ、30ヵ国以上の大使館と様々な形でやり取りがありました。ピッチを伴う形式のスタートアップ関連イベントだけでも、世界13ヵ国から120社以上がステージでプレゼンを行い、日本のエコシステムとの交流の場となっていました。French TechやAdvantage Austriaといったヨーロッパ各国のスタートアップ支援機構とは特に強い繋がりを持ち、そうした国々のスタートアップが日本に進出する際の前哨基地として、日本進出支援に特化したコワーキングスペースの準備を各国大使館と連携しながら進めていました。
スタートアップだけでなく、ファッションやミュージックなど様々なジャンルのアーティスト、クリエイター、研究者といった方々も頻繁に訪れる、グローバルなイノベーターの交流拠点に成長していました。海外でも少しずつ知名度があがり、様々なメディアにも取り上げられ、イベントなどで出会った人から、「Ah, EDGEof, I've heard of it」と言われる機会も増えてきていました。
しかし、コロナの影響で誰も日本に来れず、来れたとしても人が多く集まる場所にはいけないという状況となり、グローバルな出会いの場という場所としてのEDGEofビルのバリューが全く発揮できなくなってしまいました。2月まで週に3~4回はイベントを開催し、月に数回は海外要人の訪問があるようなビルが、3月に入った途端、ほぼ使われない状態に陥ったのです。建物自体は無傷で(何なら多目的トイレを新調したばかりでした)、見た目には何一つ変わったところは無いのに、イベントホールからも、キッチンラウンジからも、去年は毎晩のように盛況だったルーフトップバーからも、人影が完全に消えてしまいました。
この異常事態を受けて、EDGEofファウンダーメンバーとしての決定は、物理的拠点からの早期脱却でした。冒頭に書いたように、EDGEofにとって重要である海外からの来訪が以前のペースに戻り、不特定多数が大勢集まるような拠点でイベントやパーティーが行われるようになるためには、あと2年近くかかる。渋谷の一等地にあるこのサイズのスペースを、それまでただ遊ばせておくわけにはいかないから、何かしらの不動産活用をする必要が出てきます。しかし、コロナ禍において実現可能な不動産の利用方法を考えれば考えるほど、私たちのチームが持っているものとは異なる、いわゆる不動産運用のプロとしての手腕が必要でした。
不動産屋ではない私たちがそのような業務を無理やり自分たちでやろうとすると、本業であるクリエイティブなプロジェクトの創出がおろそかになる恐れがありました。EDGEofの本質はあくまで、ビルという大きな装置を使って誘発された出会いから様々なプロジェクトを起こしていくこと。重要なのは事業プロデュースの方であって、ビルそのものではない。それが相当な損失であるとしても、建物の維持を優先してプロジェクトを生み出さなくなるというのは、レストランの建物を気にしてシェフが料理を作らないような話で、完全に本末転倒でした。
ビルからの撤退
ビルからの離脱を決めた後には、大幅な事業構造の見直しも必要となりました。地上8階建て、屋上にはルーフトップバーがあり、地下に日本庭園があるようなビルとなると、ご想像の通りメンテナンスだけでも大変な手間がかかります。主な用途であったイベントにも多くのメンバーが関わっており、建物が無くなるに伴いチーム構成が全く異なるものになってしまうことは明らかでした。同時に、資金調達の面においても、世界的な株価の大暴落のあおりを受けることは明白で、幾つかのプロジェクトはキャンセルになるであろうこともすぐに想像がつきました。ファイナンス面だけでなく、ビルありきで動いていたプロジェクトも幾つも進んでおり、仮に予定通りの出資を受けられても実行できなくなってしまいます。イベント事業はもちろんのこと、ラウンジを軸に準備を進めていたメンバーシップも、当然ながら成り立ちません。事業の本質こそ、人と人を繋げてクリエイティブなビジネスを創出する事業プロデュースという根幹からずれないけれど、そのやり方や運営体制などの面では地殻変動なみの壮絶な改革が必要となります。
4月1日で2回目のバースデーを迎え、3年目はこれまで蒔いてきた事業シーズが着々と実を結ぶことが見えていた中で、ウィルスという全く想定外の不可抗力によるピボットというのは、体力的にも精神的にもなかなかにタフなものがありました。何よりも、これまで一緒にEDGEofというチームを育ててくれた仲間の多くに別れを告げることは、本当に苦しいことでした。
しかし、まだ多くの人がコロナを一過性のものだと思っていた3月初旬、まだまだ東京オリンピックのキャンセルがまともな検討すらされていないタイミングで、東京も早々にロックダウンされ、オリンピックどころか海外から人が来れない状況がしばらく続くことになると予想した我々は、全てその前提で対応を進め始めました。ビジネスにおいて、世の中が自分の予想通りに進み、自分の対応が正しかった事が後から証明されるのは普通ならとても嬉しいことです。しかし今回は、心のどこかで自分の予想が外れてくれればいいのにという思いが消えませんでした。
そして大変革に向けて舵を切ってからおよそ2カ月半、ついにXデーがやってきました。本日、5月29日をもって、EDGEofは渋谷EDGEofビルの運営から完全に離れ、まったく新しいフェーズへと進みます。
ビルを出ても、EDGEofは今後も多種多様なネットワークを活かした事業プロデュースを展開することに変わりは無いと書きましたが、その体制が大きく変わります。これまでは、共同代表のケン・マスイとツートップでしたが、よりスピーディーにお互いが得意な分野でのプロジェクトを展開していけるよう、それぞれがEDGEofのDNAを引き継ぐ形で別会社を立てることになりました。これまで同様に連携は取りつつ、今まで以上のペースで新しいプロジェクトを起こしていけるような体制に移行します。新会社設立後もEDGEof自体は存続し、水口哲也や孫泰蔵らを含めた計6名のファウンダーがお互いの強みを活かしながら、プロジェクトベースでチームを回していくというスタイルは今後も変わりません。
私の新会社EDGEof Innovation, LLCでは、そのスタイルをより推し進め、フリーランスのギルドのような組織体を構築しようとしています。また、EDGEofで私が行っていた各国スタートアップの日本進出サポートや、大使館を始めとした行政機関とのやり取りも、今後はEDGEof Innovationを主体に進めて行く予定です。コロナの影響で海外のスタートアップ支援もしばらく停滞していたのですが、2週間ほど前から少しずつ動き始めており、すでに3ヵ国ほど、日本進出支援のアクセラレータープログラムの話も進んでいます。ちなみに、自社ビルの縛りが無くなったので、「ウチのスペースでやってほしい!」というコワーキングスペース事業者の方など、ご興味ある方いらっしゃいましたらご連絡ください。また、自前のビルは無くとも渋谷区を応援する気持ちは変わらず、今後も色々な形でご一緒させて頂く予定です。
EDGEof Innovationの正式なローンチは6月です。すでに海外スタートアップ関連メインで幾つかプロジェクトが動き始めていますが、これまで相当な時間を取られていたビルの運用やイベント、海外来賓対応などの負担が無くなった分、まだ多少キャパの余裕があるので、これを機に何か新しいこと一緒にやろうぜという方、まずはZoom飲みでもやりながらお話しましょう!
最後になりますが、EDGEofが抜けた後、このビルは都内で60棟以上のクリエイティブオフィスを運用されている、まさに不動産運用のプロフェッショナルであるリアルゲイトさんの手によって、新型コロナウイルス感染症と共存するこれからの新しいオフィスのカタチ「NEW STANDARD OFFICE」として生まれ変わります!我々が作った設備の多くもそのまま引き継いで活用して頂きつつ、よりオフィスとしての使いやすさを重視したビルへと変身します。ルーフトップは恐らくそのまま、入居者のみなさんの共有施設として使える形になりそうです。すでに入居の問い合わせが来始めているので、コロナの影響でオフィスを縮小したいけど、せっかくならお洒落で立地も良くて設備も充実しているところをとお考えの方、ぜひお早目のお問合せをお勧めいたします。コロナの時代に、オープンエアのルーフトップが使えるというのは、かなりの売りになると思っています。ちなみに、ネットワーク設備には相当力を入れて作ったので、通信環境に関してはかなりの自信があります笑
本当に予想外の形で大きな転機を迎えることになりましたが、EDGEofの持つネットワークも、事業プロデュースの力も、本質的な所は何一つ変わりません。ビルという蛹から蝶のように身軽に羽ばたいて、これまで以上にスピーディーにダイナミックに色々なことを仕掛けていこうと思っております。
これからも、EDGEofをどうぞよろしくお願いいたします!
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