ファンクラブまとめ

アジカン史上、最も暗く内向的なアルバムと聞いていた。半分は正しいと思う。心の機微のうち、暗い側面をかなり綿密に描き切った作品だと思う。しかし、自意識に引きこもっては作れない作品だと思う。情報化した社会、鈍化した社会、消費社会への警鐘、生の実感など。ショッピングモールに散りばめれたアフォーダンスに従って、われわれはゾンビのように彷徨っている、という言説を彷彿とさせる。自分の枠を出ないとわからないところが多く書かれているし、むしろこれこそアルバムを貫いていると思う。

テーマは「夢とリアル」だろうか。

至る所で「夢」という言葉が使われ、I have a dream. の個人の目標としての夢、一般化された理想の状態としての夢、寝ているときに見る夢、それらが多層的に広がって、作品に奥行きと想像の余地をもたらしている。

逆に「リアル」については、液晶や電子に対して物理的な実態を持つというリアル、傷や痛みという感覚のリアル、他の人からの借り物ではなく自分の本意であるというリアルが使い分けられている。これは、情報化のなお進む、そしてこれからも進んで行くだろう我々に響く主張である。近年のライブ重視、ホンモノ志向など、やっと裏打ちされてきたのではないか。

全体的にモノクロのような暗い世界であり、ジャケットもモノクロであるが、たまに出てくる色彩の描写が逆にビビッドに浮き上がってくる。

彼らは心、思い、フィーリングこそ、嘘偽りのないオリジナルのものであり、それを(今は繋がらなくても)大切に持っておこうと主張しているように、私には思えた。理屈抜きで、直感だけで、野生で生きてみるのはとても大切なことだと、痛感する(筆者はストレスと過労と風邪の診断を受け、家に引きこもっている)。機械に飲み込まれないように。コンピューターの弾き出す最適値から精一杯はみ出してやろうと思う。

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