1.暗号のワルツ

「解く鍵もないのに」を「ほの影のアイロニー」と聞き間違えていた。後藤さん言いそうだから…。

暗号のような、一度自分で咀嚼しなければ伝わらない言葉、ストレートにすぐに伝わらない分、噛み砕いた時の威力は大きい。そのひねくれ方は、照れ臭さ、明後日を向いてしまいたいスレた心、謎解きゲームに興じるある種の子供じみた遊び、と捉えて嫌気がさしているのか。平易に分かられたくない、自分の深淵さみたいなものを表す、マウンティングをとる、でもその結果だれにもわかられず、一人きりのような気がする。

どうしてワルツなんだろう。ヨーロッパの貴族のきらびやかな光景が思い浮かぶ。会議は踊る、されど進まず、と言う言葉がある。ナポレオンが引っ掻き回した後のヨーロッパをどうするかを話し合う会議を開いたが、利害が衝突して進展はなく、舞踏会でいたずらに時間を過ごす各国代表のことを皮肉ったセリフである。また、形式や伝統を重んじる、享楽的なもの、そういったものも感じられる。

もしかしたら。自分のことを平易にわかられたくないがゆえに、暗号のような、自分しか答えを知らない、ゆっくり考えなければわからない言葉を使う自分がいる。そうした謎解きゲームのような享楽性もあり、思惑通り、ズバリと言い当てる人はなかなか現れない。いつのまにか時間はたち、そしてだれもいなくなった。作中主体は、ひとりでワルツを踊り続けるのだ。

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