「赤き龍へ贈る花冠」(異格リードモジュールテキスト)

 リードは闇の中を手探りしながら慎ましやかに髪を梳き、そして再び胸を張って姿勢を正した。

 その際彼女は、これまでによく見た夢のことを思い出す。姉が自身の後ろにある影に佇ん でいて、自分の頭に乗せられている重い王冠を見つめている。その王冠を被ることにうしろ めたさを感じるも取り外すことができなかった彼女は、仕方なく炎でそれを融かすことしか できなかった。融けた金属が彼女の頬を伝って流れ落ちる。とてつもなく熱いが、冷たい紫 の炎から与えられる安らぎが尚のこと恐ろしかったため、彼女は声を発することができな かった。

 その後、先日高速戦艦の轍に沿って道を進んでいた時に出会った二人の一般人を思い出し た。二人はダブリンの名を知っていて、彼らの土地は以前火に焼かれてしまっていた。そこ でリードに、自分たちの暮らしを壊したのはお前かと聞く。自分の姉が残していく恐怖を熟 知していたため、命の炎を操るドラコは長らく黙り込むしかなかった。だが結局、彼女は頷 いた。なぜなら彼女はダブリンのリーダーだからだ。ターラー人に二つのダブリンは必要な い。

 その時、誰かに名前を呼ばれた。その声に応じて彼女は立ち上がり、狭い木の門をくぐ る。

 ――すると干し草が敷き詰められ、彩豊かな板紙にあしらわれた脱穀場に出た。

 まるで愛する者の衣装のボタンに花をあしらおうとするように、誰もが彼女にリボンを掛 けてくるため、舞台衣装は少し動きづらいものとなっていた。千年前にいた赤き龍の出陣 は、きっとこんなものではなかったのだろう。

 でも構わない。王冠を戴く者の姿など、人々に気に留めてもらうほどのものでもない。吟 遊詩人らに韻を踏んであげるため、伝説にあるドラコの英雄にも長い金髪を残していたこと にしておこう。

 やがてリードは声作りをする。緊張から、尻尾の動きも激しい。今目の前にいるターラー 人たちは、沼地の中で泥水に満ちた一本一本の小川が高速戦艦の轍であることを知らない。 北から漂ってくる黒雲が実は戦争の硝煙であることも。今リードが握っているのが、まさに ターラーの赤き龍の炎であることも。彼らはただ税を払ったあと食事にありつけることと、 豊作を祈るための祭事と演劇が大事であることしか知らないのだ。これまでずっとリードに 付いて来た戦士たちは後方に座っていて、同じように期待の眼差しを彼女に向けている。彼 らは以前リードにこのようなことを教えていた。もしセリフを間違えれば、今年の豊作は望 めないぞと。

 「あなたたちに土地を、そして雨と風を与えよう。」

 その声に応じるように、槍先から炎が燃え上り、観衆たちも不意に静まり返った。その場 にいる全員が同時になんらかの錯覚を覚え、あるいは目の前にいるこの人の身分に対し朦朧 とした予感めいたものを感じていた。

 そうしてリードは頭を下げた。一人の子どもが彼女に色とりどりの花冠を被せてきた。冠 にあしらわれている花は、どれも一つの作物がすくすくと育つ祈りが込められている。

 その花冠はとても軽やかだった。彼女は少しだけ思考を巡らせた後、その村で長年テンプ レと化していたセリフに一言付け加えた。

 「あなたたちに平和をもたらそう。

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