ミュータント
二万年後の銀河シリーズ
第1弾
ファウンデーションの夢
第6部 ベイタ・ダレル
第5話 ミュータント
エピソード 38
ベイタ・マロウは、ガール・ドーニックの農園に再び戻ってきた。ガールの屋敷は朽ち果て、かつての栄光はすでに失われていたが、地下にはまだ、かつての「故郷星探査報告書」が隠されていた。
彼女は、その地下深くに隠された古い書類を手に取り、慎重にページをめくった。そこには、ファウンデーション設立当時のガール・ドーニックの秘密の任務が記録されていた。後に、アルカディアがジスカルド・ハニスからこの報告書を譲り受けることになるが、その内容を解読するのは、読者の努力に委ねられるだろう。
時代は変わりつつあった。ターミナスのかつての繁栄は、インドバー家の世襲政権のもとで色褪せ、時代の暗雲が立ち込めていた。しかし、その暗雲に気づいていた数名の人々がいた。心理学者エブリング・ミス、貿易商人ランデュ・ダレル、そしてベイタ・マロウである。
ベイタは、エブリング・ミスのもとを訪れた。ミスの住まいは古びており、書物や資料が雑然と積み上げられていた。彼女は、軽く扉をノックし、静かに部屋に入った。
「私は、ベイタ・マロウです。ミスさんに急なお話がありまして参りました。」
エブリング・ミスは、驚いたように顔を上げ、彼女を見つめた。彼の目は、ベイタの若さと美しさに一瞬驚きを見せたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。
「これは驚きました、こんなぼろやに、よくぞお越しくださいました。もっと堅苦しい方だと思っていましたが、若くて美しいお出ましとは、我が家には少々不似合いかもしれませんね。お座りください。少々散らかっておりますが、どうぞ。」
ベイタは微笑み、慎重に椅子に腰を下ろした。
「実は、誰にも話せない事実をお伝えに参りました。母には内緒でお伺いしました。ドーニックの館が我が家の所有だということはご存知でしょうけど、私はドーニックの直筆の手紙を所持しています。それが、ミスさんにとっても興味深い内容かもしれないと思いまして。」
ミスの表情が少し硬くなった。「ハリ・セルダン宛の手紙、それは珍しいものですね。その写しでしょうか?」
「ええ、その通りです。心理歴史学は全体の帰趨を扱う学問であり、個々人の行動はそれに結びつかないというのが一般的な見解でしょう。でも、この手紙は違うのです。セルダンは、個別の行動にも注目していたようなのです。」
ベイタは、ドーニックが銀河帝国成立前に故郷星から銀河への移民を行った「スペーサーワールド」と呼ばれる五十数個の惑星について調査したことを話した。彼はオーロラ星に赴き、そこで「R」と呼ばれる存在に代わる番犬の群れを発見した。そして、ソラリア星では、医学の過度の発展によって奇形した人間が存在していたことを知った。それは、両性具有の人間だった。
ミスは、無表情でそれを聞いていたが、やがて口を開いた。
「それがどうしたと言うのですか?私の研究には関係がないと思いますがね。」
ベイタは、少し苛立ちを感じながらも、冷静に答えた。
「関係がないとお思いですか?心理歴史学では、奇形や突然変異体が全体の構成に与える影響を考慮していないのですか?」
ミスは、笑みを浮かべて首を振った。
「論外ですね。セルダンやドーニック、アルーリンの学説をくまなく調べても、そんなものはどこにも見当たりません。私が問題にしているのは、第二ファウンデーションの存在だけです。お嬢さん、専門家でない人がとやかく言うべきではありません。」
ベイタは、ミスの言葉に失望しつつも、反論を続けた。
「最近、ターミナスでは第二ファウンデーションの話は聞かれなくなっていますが、他のターミナス所属の星々では、セルダンの誕生日が祝われ、第二ファウンデーションの存在も真実として語られているのです。あなたはそれをご存じないのですね?」
ミスは、しばらく黙っていたが、やがて深いため息をついた。
「まあ、そうかもしれませんね。しかし、私は私の研究に集中しなければなりません。ベイタさん、あなたの話には興味深い点もありますが、私は今、それにかかずらっている時間がないのです。」
ベイタは、少し残念そうな表情を浮かべたが、それ以上の追及はしなかった。そして、静かに席を立ち、部屋を後にした。
次話『第6話 エピソード 39 白とピンクの星』をおたのしみに。
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