オーボエリードメイキング講座#1 削りでのアプローチ4パターン解説
記事を書くにあたって
今後noteを使ってオーボエのリードメーキングの記事を書こうと思います、倉成です。自己紹介はこちらの記事をごらんください。
私は大学卒業後、オーボエの演奏活動や指導などもしておりますが、現在はリード製作の収入の方が上回っています。リード製作を職にしてかれこれ10年以上経ちますが、今までの得た経験をなるべくわかりやすいように記事にまとめていこうと思います。
また、勝手ながら2、3件程度の記事は無料で公開しますが、それ以降は有料記事としての公開を予定しております。有料としての価値のある記事を書いていく所存ですので、どうぞよろしくお願い致します。
それでは本題に入ります。
リードメイキングにおいて知識を文章化するのはとても大変で、「こういう場合こうする」といった記事を書くにも、そもそも「こういう場合」自体が文章化言語化が難しい事がほとんどです。例えば、「リードが重い場合どこ削ればいいですか?」と言われても、残念ながら文章のやり取りのみでは答えようがありません。
リードが重いとはなんなのか、発音しにくいのか、息抜けが悪いのか、音程が低いのか、息抜けが良すぎて息が素通りする状態なのかetc...といった具合に、正確に症状を伝えることがなかなか難しいですし、改善目標を、華やかにしたい!とか、もっさりしてるのを取りたい!とか、よくわかんないけどあまり良くないから良くしたい!とか、抽象的な表現になってしまいがちです。
一方で、対面するリード講習会やレッスンでは、実際リードを見たりご本人が吹く音を聴くことができますので、この問題はこれが原因ですと判断することができます。新型コロナウィルスの影響が終息に向かえば、リード講習会等を企画しますので、症状別の対処法に関してはその機会に個別にお話しできればと思います。
本リードメイキング講座では、上記の理由から、この場合こうするという話は控えめになるかと思いますが、リードメイキングにおける私の基本的な考え方、アプローチの仕方などを中心に解説していきたいと思います。
記事に関する内容はあくまで私個人の意見であり、これが正解というわけではありません。また、ショートスクレープのタイプのリードしか製作していないため、ショートスクレープのお話しかできません。予めご了承ください。
第1回は「削り」という言葉をキーワードに、アプローチ4パターンについて解説します。
1.削って薄くする
最も基本的な考え方です。厚い部分を削って薄くし、鳴るようにします。
必ず削る前に厚いのを確認する必要があります。中央部分なら表裏2か所、それ以外なら4か所同じところがあるので、全て確認し、比較してから削る必要があります。これを怠ると、「あーこっちの部分めっちゃ残ってるけど、厚さ同じにするため削るとペラペラになっちゃう~」が発生します。
何をもって厚いとするか、ですが、上記のように見た目で判断するのが基本です。普通の状態で見る、上下ひっくり返して先端から斜めに見る(繊維のどの部分なのかが非常に見やすいです)、光にかざして影を見る、先端のみ使えますが水につけてからプラークに差して色を見る、等です。
他の方法としては楽器で吹いてみたりリードだけで吹いてみたりして、振動を止める箇所を判別(言葉にすると簡単ですが、ここが一番難しいと思います)そして手を加えていくような形になります。
リードを深く加えてクロー(クローイングとも言います)で確認する方法もあります。ビャーと派手な音が鳴るのですが、ただ鳴ればOKというわけではありません。クローは上の倍音の音色と、下の倍音が鳴るかどうかを確認します。個人的には、音色が上の倍音と下の倍音の和音が鳴っている時に派手にビャーと鳴っているより、コロコロコロといった感じで穏やかになっている方が好みです。
クローで上の倍音が固い音である場合は、スクレープから先端までの上半分に残っている部分があり、下の倍音が鳴らない場合はスクレープから先端までの下半分にどこか残ってる部分がある可能性があります。
ただし、クローが鳴らないから悪いというわけではなく、リード単体の長さおよそ71~2mmから、リードを楽器につけてオーボエ全長の長さに変われば、反応が変化して鳴るようになったという場合もありますので、あくまで目安になります。
反応しない部分、振動を止めている部分を確認後、削って落とし、鳴るようにしてリードを調整するのが、1番の削って薄くするの考え方になります。
2.削って重くする
削るというと、イメージとして抵抗感がなくなって軽くなるだけに思えますが、削ることで重くすることもできます。
(重いという言葉は万能で、本来はあまり使いたくないのですが、イメージがつきやすくするためと文章を読みやすくするため、今回は重いという言葉を使わせていただきます。)
重くするために削るというより、リードの症状の改善のためにアプローチするために手を加えることで、結果的に重くなったという表現が正しいといった感じになりますが、この場合大きく分けて主に3つの方法が考えられます。
2-1.先端
先端を薄くすると反応が良くなり、特に低音の反応が良くなります。しかし切れ味の良いナイフでさらに薄くしていくと、抵抗感に変化します。
リードの先端は厚さによって以下の特徴がでてきます。
材に厚みがある場合、振動を開始しにくいが、振動を伝える力は大きい。
材が極端に薄い場合、振動を開始しやすいが、振動を伝える力は小さい。
出来上がったリードが過敏に振動してキンキンした音色になっている場合、切れるナイフでさらに先端を削ったり、耐水ペーパーで薄くすることによって、振動を伝える力を取り除いて抵抗感をつけることができます。
2-2.段差をつける
段差をつけるとは、ハートの上の部分と先端部分の境目の、あるいはスクレープのすぐ上の部分に段差をつけることです。段差があると振動を伝える力を止めることができます。ハートと先端の間の段差は主に音色に関わる部分のため、個人個人の好みでいいと思いますが、スクレープ上の段差に関しては先ほどの先端と同じようなパワーバランスが存在します。
スクレープがなだらか:厚みのせいで振動しにくいが、振動を伝える力は大きい。
スクレープに段差がある:彫り込んであるため振動自体はしやすいが、振動を伝える力は小さい。
スクレープのすぐ上の部分は、クローで下の倍音が鳴るかどうかでバランスを確認できますが、鳴らないからといって彫り込んで段差をつけようとすると、実は鳴らない理由が厚みのせいでなく、振動が伝わってないからであるため、悪手だったということがあります。振動がしにくい状態なのかというのと、振動が伝わりにくい状態なのかというのは、かなり判別が難しく、私自身も見誤ることがありますが、段差をつけるというのは振動を止め、抵抗が増えるということは覚えておくと良いと思います。
2-3.サイド
サイドを薄くすると音色が暗くなり、抵抗感が出ます。リードは、サイド2か所と中央で構成される3本の骨組みと、間の肉の部分のバランスで開きを保っています。サイドを薄くしすぎると、その骨と肉のバランスが壊れてしまいます。
サイドは残り過ぎていると音色の固さに関わるので、サイドの厚みをうまく取りつつ、抵抗感に影響が出ないバランスに留めておくことで柔らかい音色を獲得することができます。
しかしながらこの調整は骨組みを削る作業なので、リードの寿命に関わります。サイドに手を加えれば加えるほど、寿命が短い傾向になります。
3.開きの為の削り
厚みを薄くするための目的以外に、開きを抑えたり開きを出すバランスにするために、手を加えることになります。
糸を巻き、バランスとして開きが強くなるような設定であるのに、開きが強く出るバランスの削り方になってしまうと、開きがパカーンと出るリードになりますし、反対に開きが閉じるような設定なのに開きが閉じるようなバランスの削り方になると、いつもサイドを抑えて開きを出さないと吹けないようなリードになってしまいます。
糸巻きの設定の話に関しては今後書いていきます。削りが開きに関してアプローチできる方法は大きく分けて2つあります。
3-1.骨と肉
2-3.にて骨組みの話がありましたが、骨と肉のバランスが、骨が強く出ていると開きは落ち着き、肉が強く出ていると開きが強く出ます。ただハートが強く残っていても開きが出ますので、このアプローチで開きを抑えようとする場合、肉を攻めるか、ハートを攻めるか見極める必要はあります。
3-2.スクレープの形
スクレープの形は開きに大きく影響が出ます。U字、W字が主ですが、U字に関しては、平らに近いU字は開きを抑え、丸みが大きいU字は開きを出します。
W字で判別する場合は、表皮の残ってる中心とサイドの高さを比較し、平らに近いと開きを抑え、サイドが高く中心が低いほど開きが出ます。
リードを削った初日はいいのに、翌日開きが閉じてしまうパターンでは、開きを出す削り方(肉を削り過ぎないようにする、スクレープに丸みを持たせる)を。
翌日開きがパカーンと出てしまう場合は開きを落ち着かせるアプローチ(肉を取る、スクレープを平ら目にする)をしてみると、変化が穏やかになるかと思います。
4.削って厚くする
削って厚くするというのは本来不可能ですが、ある条件で可能になる場合があります。
特定部分を削り過ぎてしまった場合、本来修復は不可能です。しかしながら、相対的にあるポイントに厚みを持たせたいという場合、削り過ぎた部分の周囲を削ることで相対的に残したい部分を浮き上がらせてバランスを保つことができる場合があります。
私の場合では、リードを仕上げ調整した後に、ここに厚みがあれば…という状況になった時、その周囲に削る余地がある場合(その判断もかなり難しい話ではありますが)試してみることがあります。
最後に
今回削りにおいて基本的な考え方4つを解説しました。上記4つ以外には、音色のための削り(2-3.サイドで軽くふれましたが)や、見た目を綺麗にするための削り等も考えられます。
しかしとりあえず今回の基本的な4つを抑えておくと、鳴らないから削ろうという考え以外に、振動を止めるために薄くしようとか、開きを出すため、あるいは落ち着かせるために削ろうとか、そのようなアプローチを用いて様々な問題の対処に非常に役に立つと思います。
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