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舞台「メディスン」感想

シアタートラムで上演されている舞台「メディスン」を見てきました。
かなり打ちのめされてしまって、自分なりに消化するために感想を書いてみます。ネタバレが過ぎるのでnoteで。

最初に部屋に入ってくるちょっとドキドキしつつも期待に満ちているようなジョンの表情。ちゃんと着替えも持ってきて。(もしかしたら一張羅というか、パジャマ以外はあれしかないのかな、とも思った。)なのに、部屋は前日のパーティーらしきものの残骸が。ジョンにとってすごく大切な年に一度の日なのに、その日が大切にされていないやるせなさ。しかも、孤独の中に生きてきたジョンにとってあんなパーティーなんて見たくない情景の一つなんじゃないかなとも思えました。パニックになりそうなところを、一生懸命気持ちを抑えつつも必死で片付けをするジョン。
まずこのときの表情がね・・・だんだん曇っていくけど、でも必死でこらえていて。
メアリーズが入ってきて、急いで着替えようとするのに、それもできなくて、さらに曇っていく表情。
でもこれから生い立ちを話すから、一生懸命書いた台本で、だから気持ちを立て直そうとしているのですよね。ここまでの表情の変化でもうジョンの気持ちが手に取るように伝わってきて、期待からの落胆がね、それでも頑張ろうとしていて、もう見ていて切なくて苦しくて。役者田中圭の表情のお芝居が大好きな私ですが、過去一くらいにやられました。

ジョンが語り、メアリーズが父母やら登場人物を演じるのですが、天井からその人物の声が聞こえてきたり、メアリー2が小部屋に入ろうとすると暴風が吹いたり。そして時々、ジョンはブースに呼ばれて、ヘッドホンをするとメアリーズの声は聞こえなくなるよう。「調子はどうですか、ジョン」とジョンに問う声もする。ここの不条理な設定は舞台ならではだし、このよく分からない感じはそれでいいんだろうなと思います。ここのえり子さんと奈緒ちゃんのパワーがすごい。熱量に圧倒されました。
ただ、その中で語られるジョンの生い立ちは児童虐待にいじめに暴力、そしてたぶん心を病み、両親と村のお医者さんの判断でこの施設に入れられたという壮絶なもの。施設に入ってからも、職員のリアムからの罵倒、救いになるはずだった友達の喪失(これは事実かジョンの希望か分からないなとも思った)など、楽しい思い出はあるのか…と思うほど。それを一生懸命伝えようとするジョン、もしかしたらもう大丈夫と思ってもらってここから出られるのかもと思っているのかな。その一生懸命なジョンと不条理な展開との乖離。パンフレットにも書いてあったけど、ジョンの孤独が際立ちますよね…。
途中で、メアリーが薬を持ってきてジョンが飲み、べーと口の中を見せるシーンがあって。あれ、残薬がないかチェックするために病院とかでやるんですよね。そこがリアルで一気に涙腺に来てしまい、ここから泣きっぱなしでした。
「僕がみんなと違うから」とジョンが言いますが、それがなんだというのか。私は個人的感情も入ってしまっているので、だいぶ感情を高ぶらせてこの舞台を見届けました。この世界の自分とは違うというか自分の中の常識、正義と相容れないものは全て恐ろしいもの、気持ち悪いもの、危険なものとして排除し、自分から見えないところに置くことで安心する、無くなったことにする、というやり方が本当に恐ろしいと思います。
そして、老人ジョンですよ。これはゾッとしました。メアリーズが見ていたのは老人になったジョンだったのか、ジョンが見ている自分とは違う自分がそこにいたのか。毎年行われてきた(と思われる)このセラピーで、もしかしたら今回初めてそれに気付けたのかな。それは「いられるだけいようか」と言って寄り添ってくれたメアリーがいたからなのかも。いられるだけがいつまでなのかは分からない、あの一瞬だけなのかもしれないけれど、あれがジョンとメアリーにとっての救いであってくれますように、と願っています。
ジョンはあの閉鎖空間で、孤独と期待、落胆、挫折を幾度繰り返したのか、そこを考えると胸が苦しくてたまらなくなるのですが、ありがたいことにもう1回観劇できるので、今度はなるべく心を落ち着けつつ、しっかり見届けて受け止めてきたいと思います。