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ライバー向け契約知識① 基礎編

 配信やツイッターなどでもライバーさんとライバー事務所の契約のトラブル的な話がよく流れています。詳細は個別に相談いただいたライバーさん以外はよくわからないですし、個別に相談いただいた話は開示できないのですが、トラブルの多くを見ていると「ライバーさんが契約や法律に関する知識が無い」ところに事務所側があくどくやっている、という風に見えるものが多々あります。
 そこで今回からライバーになろうと思っている人や、事務所を移ったりして事務所やライバー事業者とライバー契約を新たに結ぼうという人向けに契約関係の知識をいくつかまとめて行こうと思います。
 今回はその大前提として必要になる知識をまとめています。

 なお、私は弁護士資格を持つものではなく、あくまで自分の仕事上業務委託などにかかわっているのでその知識をまとめたものですので、その点ご留意ください。

1.契約とは何か?

 まずここから誤解している人が結構います。
 契約とは簡単に言えば「法的な効果が生じる約束」です。そして契約は、「当事者同士の意思表示が合致することで成立」します。
 よく契約書への署名捺印などを持って契約と考える人が多いですが、あくまでもそれは契約の仕方の一つでしかありません。
 契約の自由原則という考え方があり、契約は「するかしないか」「誰と契約するか」「どういう内容で契約するか」「どのような方法で契約するか」は全て当事者の自由となります。
 一部法令で規定されている場合を除き、「口頭での会話」「Lineでのメッセージ」「メール」「Webフォーム」でも契約として法的効力を発揮する場合があります。

2.契約書は何のためにあるのか?

 口頭で成立するならなんで契約書作るのかというと、契約書は主に二つの目的で作成されます。

①契約内容の確認

 ライバー契約するとき、そこには様々な条件があります。例えば報酬金額、ノルマ、支払い期日、契約期間、解約条件などなど挙げたらきりがありません。
 それらを全て当事者間で確認し文書に残しておくことで、あとから条件の認識の違いによるトラブルが発生することを防ぐために文章で双方確認します。

②トラブル時の証拠

 何らかの契約内容に関する認識の齟齬が発生したとき、例えば口頭で契約を済ませていると言った言わないの水掛け論になってしまう可能性があります。そういった事態を避けるための証拠になります。
 メール履歴、あるいは口頭であれば証人の存在なども証拠として機能しますが、契約書の存在がもっとも強く安いコストで証明できる証拠となります。

3.ライバー契約とはどういう契約?

 多くのライブ配信事業者ではライバーとして収益を上げるためにはライブ配信事業者、あるいはその代理店であるライバー事務所と契約を結ぶことが求められます。
 この契約、多くの場合「業務委託契約」と一般に呼ばれる契約になります。雇用契約の人や例外的なマネージメント契約の人などは異なる契約の場合がありますが、ここでは業務委託契約の場合について説明していきます。

 ただ、正しくは法律上は委託契約と呼ばれるものはなく、請負、委任/準委任契約の総称になり、ライバー契約は準委任にみなされますがこれはややこしくなるので説明省略します。このノートでは業務委託契約で名称を統一して説明します。
 業務委託契約はライバー事務所またはライブ配信事業者から個人事業主であるライバーにライバー業務を委託するという契約になります。
 よくある勘違として雇用契約と間違っている人がいます。雇用契約は企業がバイトや社員として労働者を雇う場合の契約です。雇用契約の場合、使用従属性という企業側が指示・命令をする権利が大きく認められます。その反面、業務に必要な機器(スマホや回線費用)などは企業側が用意するのが通例となったり雇用者側にも様々な義務が発生します。また雇用契約の場合最低賃金なども法律で定められるため、雇用契約のライバーは一部例外ではいますが、ほとんどいないと思います。
 また雇用契約の場合、雇われる労働者が雇う企業より弱い立場とみなされるため、様々な法律上の権利の保障なども認められています。法律は基本的に弱い立場を守るために定められるものが多いので。
 ですが業務委託契約は対等な事業者間での契約になるので、法律は原則としては双方を対等に扱います(下請法など大企業と中小企業との間については保護があるものもあります)。

 例えば携帯電話の契約なども消費者は弱い立場という観点から消費者保護法など様々な法律により皆さんは保護されています。
 ですが法律的にそのような片方に肩入れするような保護は原則はないという点をライバー契約については認識したうえで契約交渉を進める必要があります。

4.法律と契約の関係

 1で書きましたが、契約とは法的効果を生じる約束です。つまり契約に違反することは法律に違反したのと同等に扱われます。ただ、契約と法律が食い違っている場合はどうなるでしょうか?
 例えば解約条件について、ライバー契約(純委任契約)の場合、次の民法の規定が適用されます。

第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
 一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
 二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

 これは委任・準委任契約は当事者間の信頼関係があって初めて成立するものという考え方から信頼関係がなくなったら直ちに解約できるべきだよねということで即日双方どちらからでも解約できるというのが法律の基本になっています。

 でも契約書には解除についていろいろと制限が書いてあることがあると思います。この場合は契約書の内容が優先されます。ですが契約で解除について特に合意していない場合にはこの法律が適用されます。つまり法律を契約で上書きすることができます
 ただし例外として強行法規と呼ばれる法律が契約より優先される条項もあります。そのような法律で規定された条項については法律が優先され契約書に同意があってもそれを無効とすることができる場合があります。

5.契約が有効に機能する条件

 契約が契約として有効になるには三つの条件を満たす必要があります。成立要件・有効要件・効果帰属要件です。効果帰属要件は代理人を立てての交渉などの話なので説明を省きます。

A.成立要件

 契約とは、「申込み」の意思表示と「承諾」の「意思表示の合致」によって成立します。ある方が申し込みをし、その条件が提示され、もう一方がそれを承諾した場合に成立するということです。
 双方が表示している内容にずれがある限りは契約は成立しないことになります。

B.有効要件

 つぎに契約が成立したとしても、その契約が有効か?という点が重要になってきます。
 まず当然ですが、法に反する契約は無効になります。例えば殺し屋への殺人依頼、売春契約などは法律上は無効となります。
 またそれ以外にも「通謀虚偽表示による無効(民法94条)」「錯誤無効(民法95条)」「詐欺または強迫による取消(民法96条)」など法律により無効あるいは取消できる場合があります。
 例えば相手に脅迫されて無理やり契約させられた、騙されて契約を結ばされた等の場合、あるいは認識に誤りがあって契約をしてしまった場合などです。
 この辺は難しいので次回以降の説明の中で少し触れていきます。

 さて、まず今回はライバー契約にあたり最低限必要だろうと思う契約に関する情報をまとめました。
 次回以降はこの内容を踏まえた例を挙げながら少し掘り下げて説明していきたいと思います。

よろしくお願いします。