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日記2020+2/1/16

『たったひとりで生きていける朝』

私は遥かに広がる金色の砂漠にいた

風が静かに吹いている

運ばれた砂粒たちが約束のように集まり

なだらかな丘が与えられた

生まれたての丘のなめらかな頂上の温度

私はそこにあぐらをかき風を嗅ぐ

たったひとりで生きていける朝だった

砂漠は私であり私は砂漠であった

砂は語らない

風は喋らない

陽射しは話さない

私は砂漠を含み砂漠も私を含む

たったひとりで生きていける朝はついに来たのだ

驚きはしなかった

たったひとりで生きていける朝の訪れは私そのものなのだ

すべてのはじまりは偶然であり

すべてのおわりは必然だ

ものごとはおよそ回路を巡る陽電子と陰電子に過ぎない

回路が焦げつくまでの束の間にぐるぐると回り続ける電流へ問いかけても返される答えはない

私は砂漠だ

風と約束をちぎる

私は回路だ

電子の旅路をみまもる

私は溝だ

雪溶け水の通過をゆるす

私は焚き火だ

燃え尽きるまで投げ入れられるすべてを撫でる

風が吹く

私はたったひとりで生きていける朝がやがて去ることを知る

私はまた私に戻ってしまう

たったひとりで生きていける朝に

私と世界はひとつになれた

哀しむことはなかった

私はたったひとりで生きていける朝として世界を見渡す

風がほどけていく

陽射しがきびしくなっていく

砂粒が色褪せていく

私は瞼を閉じてたったひとりで生きていける朝を葬った

そして寝返りを打った

私は集合住宅の一室に置かれたベッドの上で瞼を閉じたままあくびをした

そしてもう一度寝返りを打つ

ほんとうにたったひとりで生きていければいいと願いながら

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