ズートピアがなぜ評価されているのか分からないので観に行った。

結論からいうと、落ちこぼれが頑張って成功するディズニー的なサクセス・ストーリーなんだけど、動物のカリカチュアで人間社会を風刺する映画でもあり、かつ、途中でサスペンス仕立ての捜査ドラマに転じたり、ピクサーお得意のカラフルな映像美と合わせて、まあ目まぐるしい100分間だった。よく出来ていたと思う。劇中に登場する小道具の表記が日本語になっていたり、ローカライズにも新しい工夫が取り入れられていた。芸が細かい。メインテーマ(歌)の邦訳がやや稚拙だったのは惜しかったけれども。

映画の主題はおそらく2つあって、多様な個性が共存するユートピアの提示と、努力すれば生まれにかかわらずどんな夢でも叶うことを謳いあげた、何の変哲もなくディズニーっぽいやつだ。

ただね、劇中ではウサギやキツネなど、特定の動物に対する偏見や差別が描かれていて、それを知恵や努力で克服する姿を追う筋書きなんだけど、ユートピアとして提示される画面に嘘が多すぎて少し辛くなってしまった。

まずな、この映画には哺乳類しか登場しない。個性の共存を描く鳥獣戯画でありながら、鳥や虫、爬虫類のキャラクターがひとりも登場しないわけですよ。作劇の都合なのは分かるんだけど、かなり違和感があった。ちなみにズートピアにはジャングルで暮らす動物たちのために熱帯雨林エリアもあるんだけど、画面から想像するとあの熱帯雨林にも哺乳類しかいないはずだ。でもそれって生態系として大丈夫なのか?

なんつーか、この“個性の共存”のフレームの切り方が、実にアメリカ的だと思ったわけですよ。個性が共存するユートピアを描きながら、あまつさえ首の長いキリン専用の車両まである優しい社会でありながら、哺乳類以外は綺麗にフレームアウトされている図。ホラーすぎるだろ。すべての哺乳類たちにさりげなく“等しい知能”が前提されている嘘も気になった。種族によって身体的な特徴があるなら、その知能にも当然の差異があるだろうよ。

要するに、ズートピアが描くユートピアは、彼らに都合の良い存在だけを集めて「みんな仲良く!お互いの個性を尊重して!努力すれば夢は叶う!」ってことなんだけど、またそれが実に美しく描かれていて困ってしまうわけですよ。それはもう、圧倒的な映像説得力を持った素晴らしい世界ではあった。


しかし、だよ?


アメリカの大統領選候補は国内からイスラム教徒を締め出すと明言している。

誰もが賛美する美しいズートピアに、実は哺乳類しかいない。

俺はこのふたつがとても似ているように思ったんだ。


地上にユートピアを作ろうとすると地獄ができ上がるのは歴史が教えている。

ズートピアはとても良くできた映画だったけれど、ユートピアの美しさを描きながら、逆説的にユートピアの嘘を画面外に証明してしまった物悲しさと後ろめたさがあった。まったく“個性の共存”とか“努力すれば夢は叶う”などはクソ食らえだと思うよ。俺は「世界を少しでも良くしたいの!」などと嘯くウサギは、とりあえず全力でレイプしたいと思ったのだった。

CMのあと、さらに驚愕の展開が!!