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ビビビレコード2020

今年は音楽の聴き方が少し変わった。ストリーミングでdigるように聴くより、これぞと思い購入した音源を繰り返し聴いていた。ネットが普及する以前の聴き方に戻ったような、これが1番自分に合った音楽の楽しみ方なのかもしれない。
さて毎年恒例、今年ビビビっ!ときたレコード(ビビビレコード)16枚を選んでみた。選盤は2020年に配信、CD、LPいずれかでリリースされたものから。

Ya No Mires Atrás / Luis Alberto Spinetta
存命なら今年で70歳のアルゼンチン・ロックの巨人スピネッタが晩年に残した未発表曲集。この手の作品にありがちなデモ音源寄せ集め感はなく、オリジナル・アルバムと遜色のない出来ばえ。彼特有の官能的な美メロが堪能できる。

Proyecciones / Banti
アルゼンチン、コルドバ地方出身の鍵盤奏者 Santi Baravalle の Banti 名義による初作。アルゼンチンだけでなくブラジルやウルグアイのリズムを飲み込みながら、欧米のロック・ポップス的な親しみやすさもある。今年イチオシの1枚。

Octógono / Rodrigo Carazo
コルドバ出身で Banti とも親交のあるシンガーソングライター Rodrigo Carazo の3rdアルバム。前2作よりもアコースティックな味わいが増し、サウンドの焦点が明確になった。ブラジル音楽ファンにもアピールしそうな傑作。

Vata / Marcos Ruffato
ミナス地方出身のシンガーソングライター Marcos Ruffato 驚異のデビュー・アルバム。生楽器を中心としたアンサンブルが印象的で、とにかく曲が良い。冒頭の『O Azul』は既に名曲の風格が漂う。ブラジル新旧の名手たちも好サポート。

ímã de nove pontas / ímã
ブラジル、クリチバのサイケロック・バンド。9人編成ということもあり多彩な楽器が入り乱れるダイナミックな演奏。男女混合ヴォーカルも魅力的。今年は南米の現代サイケ・ロックに惹かれた。

Little Electric Chicken Heart / Ana Frango Elétrico
リオのうら若きシンガーソングライター Ana Frango Elétrico の2枚目はネオ・トロピカリアとでも呼びたくなるサイケデリック・サウンド。昔のガル・コスタやヒタ・リーのような感じもありつつ音は現代的。こういうのはとても好み。

Magia Magia / Gus Levy
Ana Frango もコーラスで参加している Gus Levy の新譜も良かった。浮遊感のあるサイケ・ロックとソリッドなギター・サウンドが特徴。怪しげなルックスも良い(笑)

Cinzento / Marcos Valle
僕の中で2020年を象徴する1枚となった大ベテランの最新作。個人的には90年代以降の彼のアルバムではトップ3に入る傑作。Jazz Is Dead や Azymuth との共演盤再発など、ブラジルの若大将は今年も精力的だった。

Living On Mercy / Dan Penn
Dan Penn の26年振りのスタジオ・アルバムが予想以上に素晴らしかった。サザン・ソウル、スワンプ・ロック、シンガーソングライター、このバランスが絶妙で、流行り廃りに関係なく一生聴ける音楽。

Do You Have My Money? / Flanafi
今年1番の衝撃が Flanafi だった。ペンシルヴェニアのマルチ・ミュージシャン Simon Martinez のソロ・プロジェクト。出たばかりの2ndアルバム『Do You Have My Money?』は前作に見られたスライ的な密室ソウル感は薄れ、叙情的なメロディの曲が目立つ。ソウルとプログレを混ぜ合わせた迷宮のような音楽は他にはちょっと見当たらないかも。近年では Sam Gendel と並び、ずば抜けた音楽センスの才人だと思う。

Satin Doll / Sam Gendel
で、その Sam Gendel の新譜は一風変わったジャズ・スタンダード集。もうね、すごいんで特に言うことないです。10月に突如発表された最新作『DRM』も奇妙奇天烈で最高。

Mama, You Can Bet! / Jyoti (Georgia Anne Muldrow)
必ず入れるマルチ奏者ものから1枚。現代のニーナ・シモンとも称される Georgia Anne Muldrow の Jyoti 名義による最新作。エレクトロな印象のGAMよりも、生楽器を主体にしたシンプルなサウンドで、個人的にはGAMよりも刺さった。アルバムの構成もユニーク。

Aspiration / Yoshiharu Takeda
和ものから1枚ということで武田吉晴。18年作品を今年アナログ盤でリリース。一人多重録音による演奏はアルゼンチン音響派にも通じるような美しい音楽。録音が丁寧なのか、ストリーミングで聴いても音の良さが際立っていた。譜面が掲載されたライナーも音楽好きには嬉しい。

Suite For Max Brown / Jeff Parker
前作『The New Breed』(16)も傑作だったギタリスト Jeff Parker の新譜。オーガニックかつエレクトリック、ジャズのようでヒップホップ、聴き手の気持ちをスウィングさせるような実験的なサウンドが魅力。

#KingButch / Butcher Brown
"愛しのBB" こと Butcher Brown のメジャー第1弾。BBはかれこれ5年間聴いてきたけど、さすがにメジャーだと露出度が段違い。全国ネットのラジオ番組で新曲がかかったり、日本語の特設サイトが出来ていたり。今まで新譜はBandcampでひっそりリリースされていたから…(笑)。いちファンとしてとても嬉しい。

Hangout / Deangelo Silva
ブラジル、ミナス地方のジャズ・ピアニスト Deangelo Silva の2ndアルバム。アコースティックだった前作から一変、シンセやエレキ・ギターを大々的にフィーチャーしたスペイシー・ジャズ。個人的には80年代初頭のスピネッタのようなラテン・フュージョン感もあるかなと。クラシカルかつオルタナティブ、Brad Mehldau に影響を受けたというのも納得。


以上、今年のお気に入りアルバム16枚。他にもアルゼンチンものでは Así、ブラジルの Pedro Fonte や Moons のアルバムも良かった。近年稀にみるほど豊作だった2020年、来年も素晴らしい音楽との出会いを期待して。Chao!!