私、秋葉原にずんだカフェ作るの諦めようと思う

成功するまでは、戻らないと決めていたのに。
気づいたら早朝、仙台駅の新幹線改札口にいた。
ちょうど8時になる頃、東京からの始発電車。

夢に破れた、なんて大層格好つけた言葉だ。
「秋葉原にずんだカフェ、そしてずんだショップを作ること」それが私の夢だった。
ずんだの美味しさを全国民に知ってもらいたい、そう言って、高校卒業してすぐに地元を飛び出し、調理師の専門学校に通いながら、開店への足掛かりを探していた。

とはいえ、高校を卒業したばかりの少女1人、できることなんて殆どない。
店を開くどころか、場所も決まらず、道ゆく人にずんだ餅を売り付けようとしても見向きもされない。
何の成果も得られないまま、一ヶ月、半年が過ぎ、そうこうするうちに、遂に仙台では知らない人がいないような和菓子屋が、ずんだカフェを秋葉原にオープンした。

「上手くいったらいいな」くらいで飛び出して、本当に叶えたいだなんて、思っていなかったのかもしれない。
東京に来て、自分より才能のある人たちはごまんといることを、嫌というほど思い知った。


「私、秋葉原にずんだカフェ作るの諦めようと思う」


夢に破れた、なんて大層格好つけた言葉だ。
スタートラインにすら立てていなかったというのに。
人もまばらな各駅停車は、終点の白石駅に到着していた。

ドアを開けると、台所で朝食を作っていた姉が振り返った。
「あら、ずんちゃん。おかえりなさい。帰ってくるなら連絡してくれれば迎えに行ったのに。」
「いいって別に、急だったし」
「ふぁ〜ぁ、って、ずん姉さま!?帰ってきてたんですか」
夜更かししてゲームしていたのだろう。
眠そうな顔をした妹が二階から下りてくる。
「ちょっと時間が空いたから、たまにはね」
「ところでずん姉さま、いつになったらアキバのずんだカフェ招待してくれるんですか?」
妹は賢い子だが、そうはいっても小学五年生である。私が東京で順風満帆な生活を送っていると、疑っていない。
「結構お店作るのって大変なのよ、きりたん」
諦めるなんて、とてもじゃないが言える雰囲気じゃない。

朝食の後、少し散歩に出た。
頭を整理したい時、私は好きな曲を聴きながら、1時間くらいふらつく。
駅前から少し離れると田畑が広がる。
ずんだの原材料となる枝豆を作っているわけではないけれど、好きな景色だ。
高校までの通学路を歩きながら、友人と進路について話していたことを、不意に思い出す。

自分を見失っていた。
少し思いつめていた。
焦っていたのだ。
家族や友人が活躍する姿を見るたびに。
幸せそうな姿を見るたびに。
私も早く自慢できる姿を見せなければ。
早くずんだカフェをオープンしなければ、私には価値がない。

そんなこと、ないだろ。

それぞれ、目指す場所が違う。
周りと比べることに、最初から意味なんてない。
今日ここに戻ってきたのは、夢を諦めると大切な人に伝えるためじゃないはずだ。
自分が「秋葉原にずんだカフェを開きたい」と思った原点。それを再確認するために、きっと本能的に足を運んだのだろう。

「私、もう少しずんだカフェ頑張ってみようと思う」
「何言ってんですかずん姉さま。誰も最初から止めるとか言ってないじゃないですか」
「まあまあ、よかったですわ。ずんちゃんのずんだ餅は日本一ですから」
「そしたら、早速いろいろと準備しなきゃいけないから、東京戻るね」
「え〜〜〜〜もう帰っちゃうんですか?まだ膝枕してもらってないのに……」
「年末にはまた帰ってくるからさ」

帰るべき場所があること、それは何事にも代えられないこと。
今まで何週間も悩んでいたことを、ほんの一時間で解決してしまうこともある。
帰ってきて良かった。次来る時は、少しでもいい報告ができるように。

玄関を出ようとする私に、最後に、と姉が声をかける。
「道端でずんだ餅売り付けようとしても、怪しくて誰も受け取ってくれないと思いますわ」
それもそうか。まずは郊外のキッチンカーあたりから始めてみようかな。


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