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迷ったらこの歌を



三年前の今日、M!LKはまた五人になった。



あ、もうそんな経つんだ、というのが今の率直な気持ちである。
ネガティブでもなければポジティブでもない、ただただ時間の経過を認識しただけの、感情と呼ぶにはあまりにも味気のない感情だ。


2020年1月31日、『7人7色~Winding Road~』が開催された。このライブをもって板垣瑞生くんと宮世琉弥くんがM!LKから卒業し、新生M!LKは五人体制で新たなスタートを切った。彼らにとって今日が大切な日であることに間違いはないのだが、「おめでとう」はちょっと違うような気がする。代わりの言葉を探しながら、この記事を書いている。


二人の門出を見送った彼らがおかれた環境は、決して恵まれたものではなかった。我々オタクにも、本人達にも、スタダや日本のとっても偉い大人達にも太刀打ち出来ないような大きな壁が、彼らを待ち受けていた。
2020年4月より開催を予定していた『M!LK SPRING LIVE TOUR 2020 Juvenilizm』は、国内外における新型コロナウイルス感染拡大を受け全公演中止。ライブやイベントの予定は片っ端から白紙になり、払い戻されたチケット代は使い所もなく、全く嬉しくない臨時収入(ではない)になった。日々の営みすら自粛を余儀なくされる中でライブなんてものが開催出来るはずなく、彼らは早速出鼻を挫かれた。

それでもM!LKはM!LKであることを止めず、今の自分達にできることを発信し続けた。配信シングルのリリース、オンラインライブの開催、ファンコミュニティの開設。YouTubeや個人SNSの更新も、精力的に行った。かの有名な『佐野飯』が爆誕したのもこの頃だ。記念すべき初回はピッカピカの泥団子を作る配信だった。佐野飯ジ・オリジン、飯ではなかった。

2021年4月、およそ一年ぶりとなる有観客ライブ『M!LK SPRING TOUR 2021 "energy"』を開催。大阪公演のみ緊急事態宣言延長を受け中止となってしまったが、公演を予定していた当日にメンバー全員でインスタライブを配信。M!LKのこういうところが、あたたかくて、適切な表現かどうかはわからないが「行き届いているな」と思った。オタク頻出語彙で言うと「福利厚生すごい」というやつだ。
そして同年8月より開催された『M!LK BEST L!VE TOUR ~Thank you for your smile~』は無事に全公演完走。あのさ、ベストって何? なんだか含みのあるタイトルに一抹の不安を抱えていた人も一定数見られたが、杞憂だった。同年11月、ビクターエンターテインメントよりメジャーデビューをすることが発表された。

ここからのM!LKはすごかった。メジャーデビューという追い風を受け、組織としての実力・魅力を見違えるほど伸ばしていった。メンバーだけではない。ライブチーム、YouTubeチーム、わたし達の見えないところで動いてくださっているスタッフの皆様を巻き込んで、M!LKは自他ともに認める「一流企業」になっていった。
2022年のM!LKも止まらない。それどころかより勢いを増し、マジでOver The Stormやんけ! な爆風で突き進んでいった。2月にはパシフィコ横浜 国立大ホールで行われた『M!LK LIVE 2022 NEXT WINNER』を大成功させ(この日、本当に暴風雨がすごくて会場付近を泣きギレしながらビショビショで彷徨った)5月からは『M!LK SPRING TOUR 2022 "CIRCUS"』、9月からは『M!LK HALL TOUR 2022 満月の夜 君と逢う』と一年に3タイトルのツアーを開催。
8月にリリースされたメジャーデビュー2枚目のシングル『奇跡が空に恋を響かせた』は、彼らが目標の一つに掲げていたオリコンウィークリーチャート首位を獲得し、公式YouTubeチャンネルの登録者数はついに10万人の大台に乗った。

ああ、こんなに幸せで良いのだろうか。数字や結果が全てではないけれど、今まさに売れようとしている、世間に見つかろうとしている瞬間をリアルタイムで見届けられることってそうそうない。センセーショナルに彩度を、密度を上げていく毎日に、わたしは興奮していた。
M!LKを応援している日々がとてつもなく楽しい。元気をもらえるし、メロメロになれるし、笑顔になれる。本当に毎日、これでもかというほどに幸せを与えてくれる存在。彼らを応援するこの気持ちに、マイナスの感情などこれっぽっちもなかった。


わたしは今、一度だけ嘘をついた。



ここで突如自己紹介のターンに入るが、わたしは自分自身のことを割とポジティブなオタクだと思っている。ハッピーレッドには敵わないかもしれないが、かなりハッピーな方だ(良くも悪くも)と自負している。
そんなわたしが、どうしても向き合いきれていないことが、一つあった。


2022年10月16日。
NHK大阪ホールで行われた、『M!LK HALL TOUR 2022 満月の夜 君と逢う』の最終公演。アンコールで勇斗くんが、涙ながらに胸の内を吐露してくれた。

「M!LKも来月で結成8周年を迎えます。今、思えば、いろんな試練や苦労を乗り越えてきたなと思います。8年前からずっとドームツアーがしたいと言ってきましたが、まだドームにもアリーナにも立ててません……正直、悔しいです」

「8年間、毎晩寝る前にM!LKがドームに立つ姿を想像してきました。その姿が見えなくなかった時期もあったけど、今、まずはアリーナが見えてきました。ステップアップをするために次のツアーは大事です。やっぱり、ドームツアーをするためには、み!るきーずの力が絶対に必要なのよ。頼むわ、みんな。次のツアーを満員にするためにぜひ皆さんの力を借りたい。次のツアーを成功させて、アリーナに行って、ドームツアーをしたい。ここからが勝負です!」
と決意を新たにファンへ呼びかけた。そして5人は「夢の実現に向けて一緒に進んでいこう」というメッセージを込めた「ERA」を観客1人ひとりに届けるように歌い上げ、ツアーの幕を閉じた。

音楽ナタリーより





『ERA』のことが嫌いというわけでは、決してない。好きだ。リリースイベントにも行った。母が一目M!LKを見てみたいと言うから連れて行った(顔が小さくてかっこいいと終始ご機嫌だった。よかったね)メッセージ性も強く、とても素敵な曲だと思う。ただ、あの卒業ライブ以来、なんとなく遠ざけてしまっていたのも事実だ。
シャッフルモードにしている時に流れてきても、BGM的に聴くか、飛ばしてしまっていた。MVなんて、片手で数えられるほどしか見ていないのではないだろうか。本当に申し訳ないが、心身共にめちゃくちゃ健康な時にしか見れない。
シングルリリース直後に二人の卒業が発表されたこともあり、頭の中で「2019年11月下旬の思い出」として一括りにしてしまっているのだろう。そんなつもりのなかったはずの歌詞がどうしても「旅立つ二人」と「残された五人」を想起させてしまう。その度に少しだけ、心を抉られるような感覚を覚える。何度も見ているし聴いているのに、それでも未だにイントロを聴くと身構えてしまう曲だ。
勝手にセンチメンタルな気持ちをなすりつけて、マイナスの方の思い出補正をして、「この曲聴いたらあの日を思い出しちゃうから」なんて幼稚な我儘を言った。
くしゃくしゃに丸めて投げ捨てることはしなかった。嫌いではないから、そんなことはできなかった。ただ、怖かった。だから頑丈な箱にしまって、しっかり鍵をかけたまま心の端っこに置いていた。


勇斗くんの言葉のあと、五人が届けてくれたのは、わたしの知らない曲だった。





『ERA』は悲しい曲なんかじゃない。

こんなにも前向きで、希望に満ち溢れた曲だったんだ。


気づくまで、いや、気づいてはいた。ちゃんと自分の目で見て、耳で聴いて確かめるまで、かなり時間がかかってしまった。
9月10日、東京国際フォーラム ホールAの会場で、わたしはこのツアーのラストを飾る楽曲が『ERA』であることを「ちょっと意外だ」と思った。ツアー最終日、この感想はひっくり返された。今のM!LKの決意を伝えるのに、こんなに相応しい曲はない。


ずっと目を背け続けていて、耳を塞ぎ続けていて、ごめんね。


勇斗くんが言葉を紡いでくれなかったら、M!LKがこのタイミングで『ERA』を披露してくれなかったら、わたしは今でもまだ、本当の意味でこの曲と向き合えていなかっただろう。能天気オタクの仮面をつけたその下で、勝手に悲しくなって、そんな自分が嫌になって。
けれど、彼らの決意がわたしに、向き合う勇気をくれた。
ちょっとだけ、『ERA』を好きになった自分を誇れたような気がした。



思い出には、さまざまなものが付随している。あの時旅先で食べたもの。あの時もらった花束の香り。あの時着ていた服の色。あの時よく聴いていた曲。
アイドルのオタクをするようになってから、特に「曲」をトリガーに思い出を脳内から引き出してくることが増えた。わたしは『ボクらなりレボリューション』を聴くとわちゃくー(『M!LK THE LIVE 2018 〜わちゃ2 & cool これがM!LKっ〜』)を思い出して泣くし、『嫌い』を聴くと禰󠄀豆子がチラついてどうしてもウケてしまう。思い出に正解不正解はない。こんなあべこべなシチュエーションであろうと、思い出は思い出として誰かの中に残る。

これから先、『ERA』を聴いて思い出すのは、希望に溢れた、彼らのまっすぐな目。アリーナを、ドームを、その先を見据える目だ。
もちろん2020年1月31日を、七人だったM!LKを忘れたわけではない。思い出がすべて上書きされ消えてしまったわけでもない。蓋の埃を払って、錆びた鍵は壊して、そんなに頻繁には開けないかもしれないけれど、取り出そうと思えばいつだって取り出せる大切な宝物のまま、心の中にちゃんとある。

わたしが思い出を「上書き」せず「増やす」ことにしたのは、M!LKがそうしているからだ。
五人だった頃を、四人だった頃を、七人だった頃を好きでいた人への感謝を忘れない。過去をなかったことにしない。
その誠実さが、わたしは好きなのだ。




M!LKはキラキラのアイドルだ。コンセプトに掲げる「変幻自在」の言葉の通り、さまざまな角度からさまざまな魅力を見せてくれる。まるでプリズムのように、反射する光は何色にも染まる。それが彼らをキラキラのアイドルたらしめている。
彼らが抱えて歩くそれらは、側から見れば美しい宝石の山かもしれない。けれどその中には、割れてバラバラになってしまったハート型のガラスの破片とか、一人の夜にむしゃくしゃして蹴り飛ばした道端の石ころの欠片とか、そんなものもきっと沢山混ざっているのだろう。

彼らはそれすらも、抱きしめたまま歩き続ける。全部を受け入れて、隠すことをしないで、傷すら糧にする。そしてそれを希望に変える力を持っている。
宝石がぽろぽろと手から溢れ落ちてしまっても、拾い上げてくれるメンバーがいる。鋭利な破片で抱きしめる腕が切れてしまっても、消毒液と絆創膏を持って飛んできてくれるスタッフさんがいる。


M!LKは強い。



ドーム、絶対行けるよ!



M!LKを守り続けてくれてありがとう。
今までの自分達を愛することをやめないでいてくれて、ありがとう。



新しい時代を今まさに作ろうとしているその姿を、微力ながらこれからも応援出来るのなら、これほど嬉しいことはないだろう。



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