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古峯ヶ原の山奥にバス13台を走らせ700人輸送した話

本記事はオリエンティアアドベントカレンダー2023 裏版 8日目の記事となります。

東大OLK3年の折橋旺です。中学入学と同時にオリエンテーリングを始めてから、来春で10年が経とうとしています。
東大OLKの3年生が中心となって毎年開催している東大OLK大会、今年も第45回大会を栃木県日光市・鹿沼市の足尾勝雲山改め「古峯ヶ原」で開催しました。ご参加くださった皆様には改めて御礼申し上げます。
この大会での私の役職は「バスパートチーフ」でした。名前の通り、バスを運行するパートです。
オリエンテーリングの大会において会場とテレインが離れており、バスで参加者の輸送を行うことは珍しくないでしょう。しかし、今回の東大OLK大会のバス輸送は様々な制約があって、なかなかハードなバス輸送となりました。
今回のバス輸送でチャーターしたバスは13台。参加者をテレインに運ぶだけで13台もバスを使った大会は中々ないと思います。
この記事の内容が役に立つのは年に2-3人ぐらいしかいなさそうですが、バス輸送の内情を詳しく書いた記事は珍しいと思うので、何かの参考になればと思います。

出発を待つ13台のバス

バス輸送の難点

バス輸送の難易度はテレインや会場の制約によって左右されます。今回の東大OLK大会では以下のような課題に直面しました。

会場とテレインが遠い

今回の会場となった古峯神社からはテレインの一番近いところでも6km、スタート近くのバス乗降場所として考えていた「勝雲山駐車場」までは10㎞離れていました。その道中は山道で、バスで25分かかります。
折り返しも含めると往復で1時間かかるので、多くの参加者を運ぶためには大量のバスを手配する必要があり、バス輸送が大規模なものとなりました。
ちなみにテレインにもっと近い会場候補地もあったのですが、渉外の結果、早い段階で使用を断念しています。

バスの運行経路

道幅が狭い

会場とスタートは標高差約600m。大型バスはカーブを曲がれないので入れません。村山ジャンボやファミテックの送迎バスと同じサイズ、定員25名程度のマイクロバスが限界となります。
さらに、スタート付近の約800mは道幅が狭すぎてすれ違いができません。すれ違いできない場所でバス同士が出会ってしまえば、バスの遅延は免れないでしょう。

道幅が一番狭い場所(幅5mくらい?)

事前準備

輸送キャパシティの算出

東大OLK大会は参加者が1000人を超える年もありますが、25人乗りのバスで1000人を輸送するためには、約3時間しかないスタート時間帯で合計40往復する必要があります。往復1時間かかることを考えると厳しそうです。
人数制限の必要があります。しかし、コロナ禍始まって以来 人数制限(200人)→中止→中止 と中々本来の規模で開催できていなかった東大OLK大会。少しでもコロナ前に近い規模で開催したいという思いが運営者にはありました。
まず、以下の条件で輸送可能な人数を試算しました。

10時-12時の間、10分間隔で運行

この場合、25人×13便=325人。本来の東大OLK大会の規模には遠く及びません。さらに、参加者300人で黒字を出そうとすると、超高額な参加費設定にせざるを得ない状況でした。
ここで
輸送の時間帯を9:30‐12:00に拡大

バスの運行間隔を5分間隔にする
と条件を変えます。
これで25人×31便=775人の輸送が可能になりました。
この後に細かい制約を考慮しましたが、700人なら輸送可能という結論に至り、本来の規模に近い700人規模での開催が決まりました。バスの時間が朝早くて早起きを強いられた参加者の皆さん、ごめんなさい。
こうして700人規模での開催が決まったわけですが、行きに25分→折り返し5分→帰り25分→折り返し10分で合計65分を1往復に要するため、5分間隔の運行には13台のバスが必要になると判明しました。
1社目のバス会社は7台しか小型バスを所有しておらず、追加でもう1社に6台手配してもらいました。ちなみに、東京発の大会バス以外は会場に近いバス会社を利用するのが安いです。今回は鹿沼市西部に会場がありましたが、今市と鹿沼のバス会社を利用しています。

運行スケジュールを作る

試行錯誤を重ねた結果、以下のスケジュールで運行することが決まりました。本当はダイヤグラムではなく時刻表で管理していたのですが、ここにはダイヤグラムを載せておきます。5分間隔ではなく10分間隔(1便あたり2台で運行)にしたり、途中でドライバーの昼休憩を挟んだりと最初の想定から変えた点も多いですが、700人強の輸送力は確保しています。
また、すれ違いできない区間は約800m程度と短かったためにスケジュールを組む上ではあまりネックはならず、すれ違いでトラブルがないように当日臨機応変に対処するという方針になりました。

ダイヤグラム

こうして、普段は1時間に2-3台しか車が通らない静かな山道に、1日限定で5-10分間隔のバス路線が開通しました。古峯ヶ原の歴史上、もっとも多くのバスが通過した1日となったことでしょう…

泥対策

フィニッシュから参加者を載せる際、シューズやトリムについた泥でバスを汚損することが懸念されました。当初はバスの座席に保護シートを被せることを考えていたのですが、13台全てのバスに保護シートを設置する時間がないので断念。靴袋(資材調達ミスでビニール袋になりましたが)と座席に敷くためのビニール袋を参加者に配布して、各自で泥を落とさないように利用してもらう形になりました。参加者の皆さん、綺麗に使っていただきありがとうございました。

バス乗車前に靴の泥を落としてもらう

当日

様々な準備をして迎えた大会当日、事前に立てたスケジュール通りに参加者を運ばなければいけません。
13台のバスの動きをコントロールするために、トランシーバーを用いたバスの運行管理を行いました。スタート、フィニッシュ、すれ違い地点のそれぞれに配置した運営者からバスの通過をトランシーバーで報告してもらい、状況に応じてバスの出発or待機を指示しました。
トランシーバーを用いたのはテレイン内が殆ど圏外だったからです。バス輸送に限らずテレイン内の運営拠点間の連絡はトランシーバーで行いました。バス輸送に関するトランシーバー連絡は問題なかったのですが、拠点の場所や天候によってトランシーバーの通信状況が著しく悪化し、上手く連絡が取れない時もあって大変そうでした。

トランシーバーでバスの発車指示を出すバスパートチーフ

スタートのバス輸送は、最大で7-8分遅れだったはず。スタートでのバスの転回に想定以上の時間がかかってしまい、すれ違い地点でのバスの待機時間が延びて遅延してしまいました。遅れ気味で不味いな、と思っていた矢先に熊の目撃情報でスタートが一時中断になったので、スタートが中断していなかったら危なかった。
フィニッシュ→会場のバスについては、参加者の帰還状況とバスの乗車率を逐次報告してもらい、トランシーバーで発車指示を出しました。スカスカの状態でバスを出してしまうと後の時間帯で参加者を運びきれなくなってしまうかもしれないですし、かといって満員になるまでバスを待機させるとスケジュールが崩壊する恐れがあったので、臨機応変な対応を心掛けました。最大で20-30人のバス待ちの列ができたと聞いていますが、冷たい雨の中、長時間待たされた参加者の皆さんには申し訳なかったです。
熊の目撃情報でスタートが遅れていた上、計センが会場にあったために未帰還者の数をリアルタイムで知ることができず、ちゃんと参加者を会場に運べているのかドキドキしながらトランシーバーで指示を出していました。

反省点

金かかりすぎ

バス13台を丸一日チャーターした上、事前に下見もしてもらっていたので、当然費用もかさみました。
かかった費用は約100万円です。申し込みが700人なので、一人あたり1400円くらいの負担。今回の東大OLK大会の参加費はやや高めになってしまいましたが、バス輸送はその原因の一つです。ごめんなさい。
費用削減のためにはバスの台数を減らすのが最も効果的でしょう。

バスのドライバーが当日朝まで道を知らなかった

「経路図をバス会社の担当者にメールで伝えたから、ドライバーにも当然伝わっているだろう」と思っていたら、当日朝になって「道がわからないのでバスに同乗して案内してほしい」と言われてしまいました。まあ山奥の何もない所まで運転しなければならないので、いくらGoogleMapで経路を示されたとはいえ、道案内ぐらいほしいですよね…
ちなみに過去の東大OLK大会では、スタート輸送のバスがスタートを通過してしまうトラブルが発生しています(詳細)。
ここでミスがあるとスタートが崩壊するので、バス会社との打ち合わせはしっかりやりましょう。

バスに目隠しを設置しようとして失敗した

ロングレッグの想定ルートとバスの輸送経路が被り、スタートに向かうバスから競技者が見えてしまうことが懸念されました。
インカレスプリント2022のスタートバス輸送で窓に目隠しをしてテレインが見えないようにしていたのを参考にして、バス全体に目隠しを設置することにしました。
側面は備え付けのカーテンを閉めればよかったのですが、前方の景色が見えないように設置した模造紙の仕切りの固定が甘く、第1便の運行中の時点で仕切りが崩壊…
さらに、外の景色が全く見えない中で山道を走ったことで車酔いする参加者が多く出てしまい、ご迷惑をおかけすることになりました。
プログラムに「スタートまでのバス輸送の途中で競技中の選手が見える場合があります」と書けば十分でしたね…

バスの車内
夜行バスみたい
ME最長レッグの6→7 
東のランク1がバスの運行経路。最速想定はそのランク1を辿るルートであるため、競技中の参加者がバスから見えてしまう



おわりに

今回のバス輸送にあたっては、多くの運営者やバス会社の皆様にお世話になりました。大規模かつ失敗の許されない輸送をほぼ予定通りに遂行できたのは、多くの方のご尽力のおかげです。また、参加者の遅刻が少なかったこともバス運行の助けとなりました。
この記事を通して、バス輸送の大変さが少しでも伝われば何よりです。バス輸送は、早い段階から準備を進め、トラブルが発生した時の想定を行うことが成功の秘訣だと思います。まあやらないで済むならやらないに越したことはないんだけど!
バス輸送に限らず、第45回東大OLK大会は開催にあたって様々な難題がありました。いや、バス輸送はかなり順調に進んだ方で、他の運営者は自分の何倍も苦労していたように思います。
そのような難題を乗り越えて、(競技不成立のクラスも出てしまいましたが)3年ぶりの開催ができたことに運営者一同達成感を覚えています。本家のアドベントカレンダーで同期が別の視点から東大OLK大会の記事を書くそうです!
そして、第46回東大OLK大会は来年6月9日、長野県佐久穂町で開催予定です。筑波大大会@軽井沢と早大OC大会@佐久の2daysも先日発表され、来年は長野県東信エリアのテレインが一気に3つ増えますね!
OLKでは現在2年生の後輩たちが調査や運営準備を頑張っています。来年の東大OLK大会にも是非ご期待ください!

本記事の執筆にあたり、木植早生様が当日撮影なさったお写真を一部使用させていただきました。


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