4. 乳幼児心理学

1.乳児期と幼児期の発達的な特徴について

赤ちゃんが出生してから1歳半頃までが乳児期にあたる。乳児は、「原始反射」という生得的な反応により生命維持に必要な行動をとる。これは数か月で消失し、原始反射で身についた行動を意識的にとれるようになっていく。また、養育者との絆である愛着は、乳児の発達とその後の人間関係の形成に大きく影響する。一方、1歳半から小学校に就学するまでが幼児期であり、この時期に幼児は基本的な生活習慣を形成していく。4歳頃には一人で食事、着脱衣、排泄等ができるようになり、自分でできるという有能感が身につくのと同時に、第一反抗期が到来する。子どもは自己主張し、養育者の言うことに何でも反抗するようになる。このような親とのやりとりや、保育園、幼稚園での先生、他の幼児との交流の中で、幼児の語彙数は急速に伸びていく。発達の速度に個人差はあるが、すべての子どもが同じ順序で同じ発達段階をたどる。

2.乳幼児を対象とした心理臨床の一般的な流れについて

相談室は、問題を持つ乳幼児の親や幼稚園の先生から相談や治療の依頼を受ける。まず、カウンセラーが相談者に受理面接を行い、子供に関する情報を収集する。結果に基づいて子供に対し心理検査や行動観察を行い、場合によっては医療機関で診察してもらい、子供の問題や状態を把握する。そして、治療を引き受けるかどうかの議論を受理会議で行う。引き受けた場合は、子供に対するプレイセラピーや、親や教師に対するカウンセリングで治療にあたる。子供の経過や次回セッションの治療法などは、治療セッションごとの事例会議で検討する。引き受けが困難な場合には他の治療機関を紹介し、治療を中断せざるを得ない場合も、他の機関を紹介するか、定期的なフォローアップを行う。問題が解決すると治療は終了だが、一定期間後に何度かフォローアップを行い、新たな問題や問題の再発などを調査する。問題がある場合には再度適切な処置を行うことになる。

3.高機能自閉症とアスペルガー障害の異同について

子供の発達障害は、大きく「精神遅滞」と「心理的発達の障害」の2つに分類される。前者は発達全般に遅れが見られるが、後者は一部領域に遅れが見られる。後者に分類される「広汎性発達障害」のうちのひとつが自閉症である。自閉症は中枢神経系の機能不全による問題と考えられており、3歳以前に発現する。主な特徴は、社会的関係を形成するのが困難なこと、コミュニケーション機能に質的障害があること、興味や活動の範囲が極端に狭いなど行動に問題があること、の3つである。知的障害を伴う場合も多いが、知的に遅れが認められない場合を高機能自閉症いう。また、知的側面に加え、言語能力にも遅れが見られない場合は、アスペルガー障害と呼ばれて区別される。

4.乳幼児期の愛着の発達について

愛着とは、親子の間に築かれる情緒的な絆である。生後3カ月頃までの乳児は、泣きや注視といった愛着行動を、母親や母親以外の多くの人物に行う。しかし、生後半年頃には自分を世話してくれる母親の声や顔に対してより敏感に反応し、微笑んだり声を出したりするようになる。母親のような特定の人物が、自分の愛着対象であると子供が理解し始めるためである。2、3歳頃までは、養育者や身近な存在に愛着を持つ一方で、見知らぬ人物に対しては恐怖心や警戒心を抱き、養育者との分離不安も生じる。子供が自分の足で動けるようになるにつれ、愛着行動は種類が多くなり、養育者を基地として探索行動を行うようになる。3歳前後の子供になると、愛着行動の頻度は少なくなっていくが、これは思考の発達により、子供が自分の安心の基地である養育者のイメージを思い浮かべるだけで、安心して活動することができるようになるためである。

5.「視覚的断崖」実験について

ギブソンとウォークが行った、赤ちゃんの奥行き知覚能力に関する実験で、赤ちゃんが床に作られた断崖に気づくかどうかが検証された。断崖は、実験室の床に高さの異なる落ち込み部分を作り、大人には色で奥行きが分かるようにした。この断崖の先にいる母親が、ハイハイができる6カ月頃の赤ちゃんを呼んだときに、赤ちゃんは断崖に気がつかず母親の所へ進むか、または断崖に気づいて進まないかを観察した。落ち込み部分は、赤ちゃんが実際に落ちないように、ガラスの板で通常の床と同じ高さになっていた。その結果、赤ちゃんは断崖を恐れて母親のもとに進むことができなかった。赤ちゃんの視力は、2、3歳頃に大人と同程度に発達することがわかっているが、この実験により、生後6か月頃から奥行き知覚能力があることが判明した。

6.直観的思考期の思考の特徴について

ピアジェによる赤ちゃんの思考段階は、乳児期から青年期まで4つの段階がある。その中で、前操作的段階の幼児の思考段階は、2~4歳頃の「前概念的思考」と、4~7歳頃の「直観的思考」に分けられる。直観的思考期の幼児は、ピアジェが行った保存課題の実験によって、不変の量的関係についての判断が、ものの見え方によって左右されるとわかった。さらに、三つ山課題により、幼児は主観と客観が未分化で、相手の立場や視点からものを認識することができないこともわかっている。前操作的段階は「自己中心的表象段階」と言いかえられるが、直観的思考期の幼児の特徴としては、思考が一貫性を欠いて直観的であり、保存の概念が成立しておらず、自己中心性を持っていると言える。

7.自発的微笑と社会的微笑の違いについて 

誕生直後の赤ちゃんの快の感情のはじまりとして、生理的な要因で引き起こされると考えられているのが「自発的微笑」である。「エンジェル・スマイル」とも呼ばれ、空腹が満たされるなどの快の感覚に伴って、赤ちゃんが眠っているときなどに現れる。自発的微笑は生後1、2カ月で減少していき、しだいに人の顔など外からの刺激で微笑むようになる。この微笑みは「社会的微笑」と呼ばれる。赤ちゃんの他者を識別する能力が発達するにつれて、社会的微笑は母親や父親など特定の対象に向けられるようになり、養育者の養育行動をよりいっそう促進する。1歳頃になると、社会的微笑は、安心、信頼できる相手への愛情や親しみを表現するものとして機能するようになる。

8.応答的環境について

自分で自由に動けるようになり、探索行動がより活発になる幼児期において、幼児の好奇心をはぐくむのに重要なのが応答的環境である。これは、子供の疑問に即座に答えてあげられる人的環境のことである。幼児期は探索行動が発展すると同時に、わからないことは何でも質問するようになる。それに即座に答えてあげられる環境が、子供の好奇心や、興味、関心を広げていくために望ましいと考えられている。子供の反応にすぐ応えてくれる人物がいるという恵まれた環境の中で、子供は自分にとりまく環境を積極的に広めるようになる。更に、応答的環境の中で育つことによって、子どもの自己有能感は高まっていき、子どもが自ら活発に行動するための内発的動機づけにもつながるのである。

9.身体的自己がどのように発見されるかについて

誕生後の赤ちゃんは、自分と外界の境界を認識していない、自他未分化な状態にある。その状態から赤ちゃんは、①自分の運動から生じるさまざまな感覚運動経験や、②養育者との情動的な関わりを通して、身体的な自己を発見し自他を分離していく。①について、具体的には、餓えや渇きなどの内部感覚が、自己に注意を向けさせたり、赤ちゃんがさかんに行う指しゃぶりが、能動的な感覚と受動的な感覚を区別できるようにしていく。②については、生理的欲求を感じ泣くことで外界に働きかけるが、すぐには満たされない状態や、期待に沿わないという不快経験を繰り返すことで、感覚や行動の主体としての自己感が芽生えてくるのである。

10.象徴遊びについて

子どもの遊びは、体や知能の発達に伴って変わっていく。感覚運動期の乳児は、感覚遊びや運動遊びなど、感覚を使うことや身体活動を楽しむ。そして、2歳頃から、目の前にないものを頭の中でイメージや言葉として表わす象徴機能(表象機能)が発達する。そのため、前操作的段階の幼児は目の前に存在しないものを見立てることや真似することで遊ぶ「象徴遊び」をさかんに行うようになる。積み木やブロックで家などを作る「構成遊び」や、おままごとのように役割を演じる「ごっこ遊び」などがそれである。子どもの遊びは、身体的な発達や、認知的な発達など重要な意義を持つが、象徴遊びは「役割遊び」とも呼ばれるように、人間関係についての学習をも意味する社会的な意義を持つものである。

11.発達の原理

発達とは人間の身体や心の構造・はたらきに生じる連続的な変化である。発達の原理とは、発達という現象を説明するために考えられた原理で、以下の8つが有名である。発達は①個体と環境の相互作用から起こること、②未分化な状態から分化し、分化した状態が統合される過程であること、③急ではなく徐々におこるという連続性、④一定の順序があるという順序性、⑤一定の方向があるという方向性、⑥部位によって異なる速度で進むということ、⑦個人差があるということ、⑧臨界期があること、である。

12.愛着行動

特定対象との近接を維持するための行動を愛着行動という。大きく分けて泣いたり微笑んだりする①発信行動、注視したり後追いしたりする②定位行動、抱きついたりしがみついたりする③能動的身体接触行動がある。一般的に考えられる愛着の発達段階は4つあり、生後2,3か月までは対象を区別しない①と②、生後3~6か月は特定対象に行われる①②、生後6か月~2,3歳までは特定対象への①②③、「人見知り」や「分離不安」「探索行動」が行われはじめ、3歳頃から目標修正的な協調性が形成され、愛着対象のイメージだけで安心できるようになる。

13.親の養育行動の分類

バウムリンドは、親の養育スタイルを①「要求・統制性」と②「受容・応答性」という2つの軸の高低で4つに分類した。①②ともに高いスタイルは「権威ある養育」で、子どもは自律的、主張的、友好的に育つ。①が高く②が低いスタイルは「権威主義的養育」で、子どもは一定の能力はあるが、内向的、自発性にかける、自尊心が低いといった特徴が出る。①が低く②が高いスタイルは「寛大な養育」で、子供は自己中心的になりがちである。①②ともに低いスタイルは「無関心的養育」で、集中力がなく、目標をもてない子どもになると言われる。

14.幼児図式

赤ちゃん独特の身体的特徴のことである。大きな頭、黒目がちの目、ふっくらした頬、短く太った四肢、ぎこちない運動、柔らかく弾力的な体表などである。この幼児図式は、親に養護的な感情を喚起させ、親の養育を引き出す重要な刺激となる。

15.幼児期の運動能力

杉原は運動能力は①運動コントロール能力と②体力の2つから構成されているとした。①は産出されたエネルギーを効率よく使う能力で、中枢神経系により支えられており、幼児期から児童期にかけて急速に発達する。②は運動を実行するのに必要なエネルギーを算出する能力で、末梢器官の動きに支えられており、青年期以降に急激に発達する。つまり幼児期は動きを引き出す①が育つ時期と考えられるため、運動発達に影響を与える運動経験を積むことが重要である。近年子どもの運動能力の低下が指摘されているが、この要因として、外遊びが減少していることで、運動経験が減少し、動きの獲得の減少につながっていると考えられる。

16.アフォーダンス

ギブソンが提唱した造語で、実際の環境の中に存在するもので、実際に行動している知覚者にとって次に行う行動を引き出す価値のある情報のことである。コップの水は我々に飲むという行為を引き出してくれるということは、コップの水がアフォーダンスを持つということである。人間の身体活動の一部は、環境との相互作用の中から引き出されているのである。

17.対人関係的自己

自己認識のひとつで、ナイサーが提唱した概念である。幼児期のごく早い時期に現れ、特有の感情的関係の信号とコミュニケーションによって特定される。この概念に基づいて、森は幼児のからだの共振についての研究を行った。その結果、子供のからだの動きは、社会的な相互作用を通して得られる環境との行為可能性(行為が起こりうる可能性)の情報を知覚するために環境と接触していると指摘した。つまり、人的環境の1つである保育者や友達の動きは、それを知覚した本人の動きを引き出すということである。

18.全体的様式と分析的様式

知覚の発達研究におけるケムラーの用語である。それまで、ウェルナーやギブソンは「未分化から分化」へ進むという説を主張しており、この「未分化」は構造化されていない、混沌としているという意味であった。しかし、シェップ&シュワルツや、スミス&ケムラーは、未分化とは外界の事物の全体的な類似性によって体制化された全体的な知覚であると示唆した。ここから、ケムラーは、認知の発達が刺激間の全体的類似性によって刺激が処理され、体制化される「全体的様式」から、刺激間へ共通する属性によって処理され、体制化される「分析的様式」へと進んでいくと主張した。

19.延滞模倣

前概念的思考期に特徴的な模倣で、過去に知覚された事物のイメージに基づいて模倣すること。たとえば、バナナを電話機の受容器に見立てたり、目の前にいない人のまねをしたりすることである。ピアジェは、模倣はその後始まる「象徴機能」と「言語」の両方の発生条件であると考えた。

20.等価性

2つ以上の区別可能な対象や事象がもつものである。等価性は人々が所有している概念の基礎であり、カテゴリー化が伴う。カテゴリー化ができるということは、対象間に何らかの概念が形成されたとみなすことができる。ブルーナーは、等価性を①知覚的属性、②機能的属性、③概念的属性の3つによることを見出した。また、クラウスマイヤーは、等価性の水準に基づいて低次な概念から高次な概念へと4つの水準を提唱した。①具体的水準、②同一性の水準、③分類水準、④形式的水準の等価性である。

21.感情の発達(ブリッジェスver.)

ブリッジェスは乳幼児を観察して感情の発達の研究に大きく貢献した。彼によると、乳児は生後はまったく未分化な「興奮」状態にあり、そこから「不快」「快」が分化する。生後6か月ごろ不快から「怒り」「嫌悪」「恐れ」、生後1年ごろ快から「得意」「大人への愛情」「子どもへの愛情」が分化する。そして喜びや嫉妬といった感情が分化するとした。

22.感情の発達(スルーフver.)

乳児の表情分析法が進歩し、人間には誕生直後から「満足」「苦痛」「興味」といった3種類の感情の萌芽があることがわかってきた。生後0か月で、周囲の刺激に対して「不愉快さ」「驚き」、また喜びの萌芽として「自発的微笑」が出現する。生後2,3か月になると「嬉しさ」「悲しみ」「怒り」、4,5か月で「嫌悪」といった感情が現れる。6,7か月で「喜び」が表現され、9か月頃で母親への愛着と見知らぬ人への恐れが現れる。生後1年になればすねる、不安、得意といった感情も出現する。1~2歳では自己意識が芽生え、「恥」や「愛情」「嫉妬」といった感情も現れる。2歳では社会のルールを内在化できるようになr「恥」「罪悪感」や「誇り」といった感情も現れ、3歳になるとほぼすべての感情が出そろう。感情の正常な発達には、養育者による暖かい養育行動が不可欠である。

23.乳幼児の感情のコントロール

ソースは視覚的断崖の装置を用いて、母親の示す表情を幼児が理解し、行動に現れるかを調査した。その結果、1歳の幼児でも母親の表情から感情を推定し、それに基づいて自らの行動を決定していることがわかった。また、コールは幼児に期待外れのごほうびをあげることで、落胆という感情がどのように表出されるかを検討した。その結果、3歳児は落胆の表出を抑え、笑顔で対応することが多く、また、女児の方がその傾向が強かった。

24.基本的欲求/社会的欲求

欲求は大きく分けて生まれつき持っている①基本的欲求と、学習経験によって獲得される②社会的欲求である。①はさらに個体が生きるために必要な生理的欲求、種の保存に必要な種保存欲求、よりよく生きるために必要な内発的欲求に分けられる。一方、②は達成欲求、親和欲求、愛情欲求、承認欲求、自己実現の欲求などに分けられる。

25.語彙の発達

子どもは生活の中にある雑多な音から言葉の音だけを抽出し、その音韻的表象を一時的に保持し、対応する意味を考え、意味を付与し、みずから使用する「心内辞書」に定着させる。心内辞書とは、頭の中に記憶している単語に関する情報が貯蔵されている状態のことである。このような操作を行い、1歳半をすぎた子どもは語彙が爆発的に増加する。

26.マークマンの制約

子どもが短期間に語彙を獲得できるのは、生まれつきある範囲を除く仕組みがあるからだと考え、その仕組みを制約と呼んだ。制約には次の3つの傾向があるとされる。①対象全体ルールは、新しいラベル(語彙)は、全体を指しているというもの。②カテゴリールールは、語彙は同じカテゴリーに属する対象に対する制約。③相互排他ルールは、対象はただ1つのラベルをもつというものである。しかし、子供は命名される際の文脈などを利用して、③の制約を破棄したり、保持したりといった柔軟な対処の仕方をして語彙を獲得するのである。

27.マザリーズ

養育者が子どもに使う特有の養育語のことである。単純な文法構造をもった発話で、短く、声のトーンが高く、テンポが遅く、誇張した抑揚をもち、内容は「いま、ここで」について繰り返し話すという特徴がある。養育語は子どもにとって模倣しやすく、養育者は子どもの注意を喚起し、コミュニケーションの道具としてマザリーズを用いて、子供の言葉の発達に大きく貢献するのである。

28.ターンテイキング

話し手が交替するという、会話をする際の基本的なルールをいう。スムーズな会話を続けるために重要で、聞き手は、話し手の発話が疑問や質問、小休止、身振り手振りなど合図を受け取ることで、自分のターンだとして話し始める。子どもは、会話のルールを学習中であるため、このターンテイキングのルール違反をよく行うのである。

29.グライスの4つの公理

グライスは4つの会話のルールに反すると社会的な制裁を受けると述べている。①量の公理は、必要十分な情報だけを与えるということ、②質の公理は虚偽の情報を与えないということ、③関係の公理は、相手の発話に関係のあることを言うこと、④様態の公理は簡潔に順序立てて言うことである。

30.ジェームズによる自己分類

ジェームズは自己を「知る者としての自己」と「知られる者としての自己」に分類し、知る主体であると同時に、知られる対象でもあるという自己の二重性を指摘した。ジェームズは後者についてさらに、①物質的自己、②社会的自己、③精神的自己の領域に分類している。これらは、精神的発達の順序をも示しており、③が最も高次の活動に支えられているとした。具体的には、①は身体的特徴、所有物など自己の一部としてとらえられるものとしての自己、②は他の人からどのように見られているかによって規定される自己、③青年期に至って自己の価値観や信念に基づいて、精神的な価値を目指す自己である。

31.自己コントロールの機能

3歳頃になると、自己や他者についての意識が高まり、さらに言語の発達によって子どもは自分で自分の行動をコントロールする力を持ち始める。自己コントロールの機能の1つは自分の意思を伝える①自己主張的、実現的な側面であり、もう1つは自分の意思、願望を抑える②自己抑制的な側面である。①は3、4歳で高まり、その後あまり変化しないが、②は3歳から就学までなだらかに伸びる。自己コントロールは子どもの気質とも関連があり、自己コントロールが高いこどもは、気質的に扱いやすく、母親が子育てにおいて説明的しつけ方略を用いていたことが示されている。

32.役割取得

他者の視点・役割の立場から物事を考えられる能力をいう。フェシュバックは、共感を①他者の感情を判別する能力、②役割取得、③他者と同じ感情を共有し、それを表出できる能力の3つの構成要素から成るとした。2歳半ごろになると、子供は鏡映的自己を理解できるようになり、他の子供にもこうした内的な自己があることに気づくようになり、役割取得の萌芽がみられる。3~5歳はまだ自他の視点の区別ができない自己中心的役割取得だが、6~7歳で区別できるようになる主観的役割取得となる。この時期はまだ自他の視点の関連付けはできない。8~11歳は他者の立場に立って自分を内省できる2人称相応的役割取得、そして12~14歳は第三者の視点に立てる3人称相互的役割取得となる。15~18歳は一般化された他者としての役割取得段階で、多様な視点から自分の視点を理解できる。

33.誘惑への抵抗

大人から禁止されていることを、実際にしないで我慢し続けることで、セルフコントロールのひとつである。セルフ・コントロールは、将来のより望ましい結果のため、あるいは適応的な社会的行動や他者との関係のために、即座の欲求を抑制したり、社会的規範に合致した望ましい行動をとることである。幼児期から児童期にかけてセルフコントロールは著しく発達する。