7.社会心理学1

著作権が心配で挙げられなかった社会心理学の用語まとめ、今更挙げてみます。主要引用・参考文献は『堀洋道(監修)(2009)吉田富二雄・松井豊・宮本聡介(編著)新編 社会心理学 改訂版』です。

1.潜在的態度

自らが意識している顕在的態度に対する言葉。意識が介在しない態度のことで、グリーンワルドとバナジによると、「内省的に同定できない過去経験の痕跡で、社会対象に対する好意的あるいは非好意的な感情や思考、行動を媒介するもの」。潜在的態度の代表的な測定法が潜在連合テスト(IAT)である。グリーンワルドは、潜在的態度が顕在的態度より現実の行動をよりよく予測することを明らかにしているが、政治などの社会的な領域でなければ顕在的態度の方が妥当性が高いことも示されている。

2.態度の3成分

態度とは「ある対象の好き嫌い」のことで、ローゼンバーグとボヴランドは態度の構成要素として①感情的成分、②認知的成分、③行動的成分を挙げた。①は対象への感情、②は対象に対する信念、③は対象への接近・回避といった行動計億であり、人はこれらの3成分の相互的な一貫性を保とうとする傾向があるとしている。

3.計画的行動理論

エイゼンにより提唱された、行動の予測についての理論である。行動するには、まず行動意図があり、その意図は「態度」、自分にとって重要な他者からの期待である「主観的規範」、自分でもできそうかどうかという「統制認知」という3つの変数によって、規定されるとしている。(その前の合意的行為理論では、態度と主観的行動規範が行動意図を生み出すとしている)

4.態度の接近可能性

フェイジオが提唱した考え方。人からある対象に対する態度を尋ねられた時に、すぐ返答できる場合、その態度は接近可能性が高いといえる。接近可能性が高い態度は、行動の予測力が高いことが明らかになっている。

5.均衡理論

ハイダーによる態度に関する理論。関係には、単位関係と心情関係という2種類があり、単位関係は所有・近接・類似・因果性などの関係、心情関係は好き(+)嫌い(-)の関係と捉える。そして、自分Pと態度対象X、他者Oという3つの関係の積が+のときは均衡のとれた状態、-のときは不均衡の状態と考え、このようなときにPは不均衡状態を均衡状態にするために、3つの関係のうち1つを変化させる。

6.認知的不協和理論

フェスティンガーによる理論。2つの認知要素に論理的な矛盾がある場合、すなわち認知の不協和関係があると、人は不快な状態になるため、それを解消しようとする。方法として、①関連する認知要素の重要性を減少、②情報に新しい認知要素を追加、③不協和の要素の一方や両方を変更。フェスティンガーとカールスミスはこれを実験的に検証した。実験参加者は、時間がかかり非常に退屈な課題に参加させられ、それが終わると別の学生に「課題は面白かった」と伝えるよう教示された。その報酬が1ドルの群と、20ドルの群が設定された。その結果、1ドルの群の方が課題を面白かったと評価していた。これは、退屈な課題と「面白かった」と伝えたという認知の間に不協和が生じたため、本当は楽しかったと感じることで、不協和を解消しようとしたということになる。

7.自己知覚理論

ベムによる理論。人は他者を知覚するのと同様に、自分の行動や状況という外的手がかりから、自分の内的状態を推測するというもの。内的手がかりが不十分で曖昧な社会場面で生起する、「自己の感情」を知覚する過程は、「他者の感情」を推測するのに似ていると考えた。フェスティンガーとカールスミスの「1ドル実験」については、「不協和」を仮定せず、本人が自分の行動と報酬の額などを考えあわせて行った推論の結果である、という立場をとった。

8.スリーパー効果

信ぴょう性の低い送り手からの説得効果が時間を空けて現れること。時間の経過に伴って送り手に関する記憶が失われ、メッセージそのものの効果が表れてくるためだと考えられている。

9.論駁的両面メッセージ

主張内容を支持する情報だけで構成される一面的メッセージ、主張に反する情報を盛り込んだものを両面的メッセージといい、後者の中でも主張に反する情報とそれを明確に論駁する情報が含まれたメッセージのことをいう。望ましい認知的反応を多く生起させたり、反論への抵抗を教えたりすることによって、非論駁的両面メッセージよりも効果的である。非論駁的両面メッセージは、一面的メッセ―ジよりも効果が低い。

10.恐怖喚起コミュニケーション

説得相手に対して、説得を受け入れないことで起きる事態への恐怖を喚起させることで、説得を成功させようとする方略である。恐怖心を喚起させる情報と、対処行動についての勧告情報から構成される。ロジャーズによる「防護動機理論」によれば、①予想される危険性が大きいこと、②勧告を受け入れない場合には危険が生じる可能性が高いこと、③対処行動の有効性が高いこと、を受け手が納得した場合に、恐怖の説得効果は促進されるとしている。一方、過度に強い恐怖を喚起させ、対処が弱いと説得は効力を失う。

11.接種理論

マグワイアが提唱した、説得についても免疫をつけることができるという理論。普段自明の理と考えている事柄について、それに反するような説得を受けると、それまでそのような攻撃をほとんど受けたことがないために、簡単に説得されてしまうというもの。マグワイアとパパジョージスは、免疫措置の実験を行い、自明の理への反論とその反論に反駁する文章を実験参加者に与え、一方、自明の理を支持するだけの文章も用意した。そのような措置を施したあと、自明の理を攻撃するような説得的メッセージを与えると、後者の条件では、自明の理を疑うような方向への態度変化が見られたが、前者の条件ではほとんど説得の影響を受けなかったことがわかった。

12.心理的リアクタンス

ブレームが提唱した、人が自分の自由が脅かされたときに、自由の回復へと動機づけられた状態。説得的メッセージが高圧的で有無を言わせないような内容であると、受け手はメッセージに反対する態度をもつという自由が脅かされていると知覚し、メッセージを示すと考えられる。

13.精緻化見込みモデル

ペティとカシオッポが提唱した理論。人が説得的コミュニケーションを受けたときに、どれほどそのことについて考える(=精緻化する)見込みがあるかによって、その人の説得のされ方が異なると考える。精緻化とは、メッセージに含まれる情報に注意を払い、その情報をすでにもっている知識と関連付け、新たな示唆を自ら生成すること。メッセージをよく精緻化した結果生じる態度変容のプロセスは①中心的ルートといい、一方、その内容とは直接関係のない要因によって生じる態度変容のプロセスを②周辺的ルートという。①を経た態度変容の場合、メッセージ内容についての積極的な情報処理を行うため、論駁の強いメッセージは論拠の弱いメッセ―ジよりも説得効果を持つ。一方②の場合論拠の強弱は態度変容にあまり影響せず、周辺的な要因を手掛かりにして、大雑把であるが経験的に確かであるといわれるルールに従った態度変容が生じる。

14.機能的自律性

人間らしく生きるための社会的要求が、一次的要求と分離し、それ自体が目的化すること。

15.マズローの自己実現

欲求階層説の中で、最も最高レベルの欲求として、人が求める人生究極の目的であり生きがい。自己の潜在能力をフルに生かして、自分らしく行動し、達成し、生きていくことであり、理想の自己を実現すること。

16.マレーの達成欲求

困難を克服しようとするとき、権力を行使するとき、何か難しいことをできるだけうまく、速く成し遂げようと努めるときに、行為者の中に生じるもの。基本的な自我欲求で、どんな要求・欲求とも融合しうるもの

17.達成動機

アトキンソンの提唱した概念で、マズローの自己実現欲求、マレーの達成欲求の流れを汲むものである。達成動機は成功志向と失敗回避に分けられ、その差が最大になるとき、つまり成功の主観的確率が50%のときに、達成動機が最大になると示した。また、動機、期待、誘因の3つの要因で達成動機を規定し、達成動機の強さ=達成したい動機×主観的成功率(課題の困難度)×目標の誘因で示した。

18.親和

まったくの他人と集団を形成し、必要と思われない場合であっても、他者の存在を求め他者と過ごすこと。シャクターは、恐怖や不安を避けるために人が親和すると考え、女学生対象に実験を行った。電気ショックを受けるという教示のちがいによって、高恐怖条件群と低恐怖条件群に分け、電気ショックを受ける前に、誰かと一緒に待つか、ひとりで待つかを答えさせた。その結果、高恐怖条件群の方が、誰かと一緒に待ちたいと答えた。これにより、恐怖により親和傾向が高まることがわかった。さらなる実験により、話さなくとも単に他者が存在するだけで恐怖が低減する可能性があること、そして他者の反応を知ることで、自分の反応が適切かどうか、社会的に比較ができる可能性を挙げた。

19.社会的比較

フェスティンガーにより提唱。人には自分の意見や能力を正当に評価したいという欲求があるが、非社会的・客観的評価方法が不可能な場合に社会的比較が起きる。類似性の高い人が対象に選ばれる。シャクターは、意見や能力だけでなく感情反応にも社会的比較があてはまると考え、社会的比較が親和の原因になっているかどうか実験を行った。

20.自己高揚欲求

自分を好ましいものとして捉えたいという欲求で、できるだけ自尊心を高くするような行動のもとになるもの。日本は北米に比べてこの自己高揚欲求が低いことが調査によって示されている。自己高揚欲求の代表的なものとして、平均以上効果、ポジティブ幻想、非現実的楽観視などがある。自己高揚に対して、自分と相手(家族、友人、恋人など)との関係性が、他者のそれよりも良いと考える関係性高揚という言葉もあり、日本人は自己高揚より関係性高揚が高いと言われる。

21.防衛的帰属

人が自己防衛的にものごとを判断し行動する傾向。たとえば、犯罪被害や事故の原因を考える際に、当事者の不注意や能力不足、人格上の問題点などを挙げ、一方で、自分は注意深いし十分な能力があり、人格的にも優れているから大丈夫と安心を得るもの。逆に、犯罪や事故にあわない自分の評価をあげる手法でもある。自己正当化しして安心し、自己高揚するような発想。

22.セルフ・ハンディキャッピング

成績が悪いことが予測されるときに、わざわざ能力が低下するようなことを試験直前にしたり、正確な能力評価ができないような困難な課題を選んだりする自己呈示的方略。能力帰属をあいまいにしてしまう手法。

23.下向きの比較

能力の社会的比較で、自分より上位の人を避け、能力が下の者を比較対象にすることにより、自己をよりよく評価しようとする方略。

24.自己像バイアス

自分の重視するもので他者を判断すること。自分の重視するものは普通、能力の自己関連性が高く、得意とすることだから、自己評価に有利なものとなりやすいため用いられる。

25.反映的名誉(栄光浴)

他者の優れた業績を引き合いに、その人との関連・結びつきを自慢することで、自分の評価を上げようとすること。Cialdiniによる実験。フットボール強豪の大学の学生対象に、電話で大学についての問題を6問出し、低成績群と高成績群をランダムに振り分ける。次に特定のフットボールの試合について勝った試合、負けた試合についてランダムに尋ね、結果を尋ねた。そのときに「わが校が勝った/負けた」を”We"を使うか、"They"や学校名を用いて表現するかを調べた。結果、試合に勝ち群>負け群がWeを使った。また、低成績群はWeを使った率が高く、高成績群では差がなかった。

26.レヴィンジャーとスノエクの関係性のレベル

人が出会いその関係が発展していく過程を4段階で説明したもの。レベル0「接触なしの段階」お互いの存在に気づいていない。レベル1「覚知の段階」相手に気づき、印象を持ったりするが、まだかかわりがない。外見が重要な働きをする。レベル2「表面的接触の段階」あいさつをかわす程度のかかわりをもつ。レベル3「相互性の段階」互いの影響を強く受け、共通の行動や態度が増え、頼り合い、一体感を高めていく。ここで重要なのが自己開示。 

27.合意的妥当性

人の同意によって自分は間違っていないと感じること。自分と類似している人は常にこの合意的妥当性を感じさせてくれる。自分だけの判断では自信がもてないことでも、誰かが賛成してくれると自分を正しいと感じることが出来るからである。そのため、自分と似ている人にわれわれは好意を持ちやすい。下斗米の、大学の友人関係に関する調査では、初期は自己開示をしないまま似ていると感じ、いくるか親しさが増した中期になると、自己開示が多くなり、ますます自分たちは似ていると感じるようになる。もっと親しくなった後期では、それまでと比べて互いの異なる点を意識する人が多くなる。

28.単純接触効果

単に接触する回数が多ければ、それだけ好感をもつという心理的効果。ザイアンスの実験では、12枚の顔写真を、見せる回数を変えてみせる。そのあと顔写真の人物についての好意度を尋ねると、その顔写真を多く見れば見るほど、その写真の人物に好意を感じていた。しかし、とても不快な相手のときには逆効果になりやすい。

29.美は良ステレオタイプ

容姿を好ましく感じると、その中身もよく評価しがちであること。反対に、外見が魅力的でないと感じられる相手には性格や中身を悪く考える傾向がある。たとえば、Dion, Kの実験で、子どもが同じいたずらをしても、容姿があまり魅力的でない子の場合は、生まれつき悪い子だとみなされ、厳しい処罰をされやすいことが示されている。

30.青年期の友人の機能

①安定化の機能:友人は相談に乗ってくれたり、一緒に遊んでストレス解消したり、心理的安定をもたらしてくれる。②社会的スキルの学習機能:友人との付き合いは人との付き合い方を身に着けるよい機会になり、家族に対するのとは異なる、付き合い方の技術を学ぶことになる。③モデル機能:友人関係は今まで知らなかった新しい生き方や考え方を示してくれ、人生観や価値観を広げる機会となる。