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1.感覚知覚心理学

1.クレショフ効果について

ソビエト連邦の映画作家レフ・クレショフが発見した認知バイアスのひとつで、ある映像がその前後に位置する他の映像の意味に対して及ぼす性質をいう。たとえば、同じ無表情の顔のショットの前後に、①温かいスープ、②棺に入れられた老婆、③遊んでいる少女、のショットを提示すると、同じ無表情のショットがそれぞれ①空腹の表情、②悲しみの表情、③愛情を示しているように知覚された。

2.プルフリッヒの振り子について

サングラス等で片目を薄暗くすると、知覚の時間差が生じる。減光すると、感覚強度は弱くなり、感覚化時間が長くなる。これを利用し、振り子が常に右あるいは左に動いている映像を、片目を減光させた状態で観察すると、立体視が可能になる。つまり、振り子は円を描くように見えるという現象が起きる。

3.群化の法則

群化の法則とは、対象を認識するために、小さな単位をより大きな単位にまとめあげようとすることを指し、プレグナンツの要因によって影響される。プレグナンツの要因には、近接、類同、閉合、よい連続、共通運命などがあり、視野全体ができるだけ単純に、全体として最も秩序あるまとまりを形成するようにはたらく。しかし、「より単純」「よりよい」などというものは実際には定義しにくく、どのように知覚されるかの予測が難しい点、多くの例が単純な線などで構成されている一方、現実世界はより複雑である点、要因間での変換点が存在している点など、問題も多く指摘される。

4.位置の恒常性

目を移動させると網膜像は相当な速さで網膜上を移動することになるが、我々は物が動いているのではなく自分が動いているということ、すなわち位置の恒常性を理解している。これについては2つの有力な説があり、1つはシェリントンの流入説、もう一つがヘルムホルツの流出説である。前者は目を動かすときの動眼筋の緊張・弛緩感覚が大脳に伝わることによって、後者は目を動かせ、という大脳の命令そのものによって、動いているのが外界ではなく自分なのだということが理解できる。

5.前注意的過程について

Neisser, U.が提唱した、浅い水準で幅広く刺激を処理する自覚化されない注意の過程のことである。Lazarus & Mccleeryは、実験参加者に無意味綴りと電気ショックを対提示することでネガティブ語を作成し、このネガティブ語には恐怖反応が生じることを確かめた。そして、中立語とネガティブ語を提示した時に参加者がそれぞれに恐怖反応を示すかどうかを調べた。提示された単語をきちんと認識した場合は、中立語には恐怖反応はなく、ネガティブ語に恐怖反応が出た。また、中立語とネガティブ語を見間違えた場合、どちらを見間違えても恐怖反応が出現した。特に、ネガティブ語を中立語に見間違えても恐怖反応が出ることから、前注意的過程の存在が示唆された。この過程の有名な現象としては、知覚的防衛と驚異的刺激検出優位性効果が挙げられる。前者は、タブー語や情動的刺激は検出しにくいというもので、知覚前に情報処理が抑制されているという点から、後者は情動的刺激が検出しやすいというもので、知覚前に情報処理が促進されているという点から、それぞれ前注意的過程の存在が示唆されている。

6.仮現運動について

物理的に対象が移動しているときに体験する動きの知覚である実際運動と対比されるもので、2つの静止対象が、異なる位置で、ある時間間隔を置いて短時間提示されるときに知覚される運動のことである。たとえば、踏切の警報器や映画などである。ウェルトハイマーが実験的に研究した。仮現運動は一般に単純経路を採用するが、手がかりがあり、合理的な解釈ができる場合は必ずしもそうではないということから、文脈効果が指摘されている。さらに、主観的輪郭も仮現運動することが発見されており、高次システムの関与の可能性が示唆されている。実際運動の知覚と変わらない滑らかな運動の知覚の場合は、φ現象と呼ばれ、コルテの法則により規定される。

7.RBCモデルについて

人間は物理特性の変化には影響されずに、どのような視点から見ても「同じもの」として認識できる視点不変性を持っている。そのうちの1つの考え方がビーダーマンが提唱したRBCモデルである。対象の認識は、「ジオン」と呼ばれる基本的な形を、脳内で組み合わせてなされるとした。ジオンは全36種類存在すると言われており、その組み合わせですべてのものを表すことができる。ジオンの種類と位置関係は視点に対して不変であるため、どのような視点から見ても同じ組み合わせが出来上がる。

8.精神物理学的測定法について

心理的事象の測定値を得る方法であり、対象となるのは、感覚を感じる境目である絶対閾、それ以上になると感じなくなる境目である刺激頂、標準刺激と差異が知覚されるかの境目である弁別閾などである。これらを測定する代表的な方法として①調整法、②極限法、③恒常法、④上下法がある。①は被験者が刺激の強度を自由に調整する。②は実験者が刺激強度を操作する。徐々に強度を下げるのを下降系列、上げるのを上昇系列という。③は実験者が強度を操作する。複数の刺激値を用意し、それらを無作為に提示する。④は上昇系列と下降系列を繰り返す方法である。

9.大きさの恒常性

遠刺激の物理的大きさは変化しなくても、目に映る近刺激の網膜像は小さくなる。しかし、目に映る大きさが小さくなっても、本当の大きさは変わらないと知覚できる。これを大きさの恒常性という。

10.大きさ―距離不変仮説

遠刺激に対して大きさの恒常性が成立している場合、知覚される対象までの距離は、網膜像の大きさに反比例すると考えられる。一方、対象のみかけの大きさが一定なら、その対象の「知覚された本当の大きさ」と「みかけの距離」の比は一定となるという理論。逆に、対象までの「みかけの距離」が先に決まれば、それに応じて対象の「知覚された本当の大きさ」が決まってしまうということ。そのため、距離の手がかりが少ない場面では大きさの恒常性が働かないことがある。

11.比較相殺説

目や頸を動かすと外界の網膜像は変化するが、目や頸を動かすための運動信号との相殺によって、外界の物体の位置が一定に見えるという、位置の恒常性の有力な説明理論。これを支持する例としては、首を動かさずに目を動かすと残像もその方向に見えるという現象や、眼球を指で押すと押したのとは、逆の方向に外界が動いて見えるという現象がある。

12.視覚的補完

不完全な情報を受け取りながら、安定した知覚世界を構築することを補完といい、視覚の場合は視覚的補完という。カニッツァの三角形では、3つの黒円と3つの輪郭の三角形の手前に白い三角形があるように知覚される。物理的に存在しない三角形の一辺を主観的輪郭といい、主観的輪郭が生成されることを視覚的補間という。また、この三角形は周囲よりも白く見える。このように、面の属性が拡散して知覚されることをフィリング・インという。一般的には、視覚的補間とフィリング・インを合わせて視覚的補完という。

14.信号検出理論 Signal Detection Theory

ノイズに埋め込まれた信号を検出する過程として感度を捉えた精神物理学の理論で、Swetsらにより提唱された。観察者がどれだけノイズの中から正しく信号を検出することができるかを知るための理論である。信号があるとき、正しく検出できる場合をhit、検出できない場合をmiss、ノイズしかないとき、間違って信号を検出する場合をfalse alarm、検出しない場合をcollect rejectという。特徴は、感度と判断基準(バイアス)の位置がそれぞれ独立した測度として得られることである。感度の測度はd′で表し、ヒット率をプロットしたROC曲線で観察者の成績を表す。

15.ヤング=ヘルムホルツ説

ヤングは、赤・青・緑の三原色からすべての色が作り出されることから、網膜の各点には三原色の感覚神経細胞だけを仮定すればよいと考え、三原色説を唱えた。この説にヘルムホルツが再度注目したのが、ヤング=ヘルムホルツ説である。光に対して3種類の感覚神経細胞がどのように興奮するかの指標である分光感度を具体的に示した。波長ごとに受容体の感度が異なる。

16.光受容器

人間の網膜に存在する光の受容器である。錐体細胞と桿体細胞がある。錐体細胞は3種類あり、それぞれ感度ピークの波長が異なることから、L錐体、M錐体、S錐体と呼ばれている。

17.ウェーバーの法則

刺激強度と弁別閾は一定の関係、すなわち、ある刺激からの弁別閾は、その刺激の強度に比例するという法則である。300gの物体が306gで重いと感じる(弁別閾が6g)ならば、600gの物体(刺激強度が2倍)なら弁別閾も2倍になり、606gではなく612gで重いと感じるということ。ウェーバー比C(=弁別閾/刺激強度)が小さい方が、弁別能力が高いといえる。

18.フェヒナーの法則

ウェーバーの法則を発展させたもの。ある刺激の物理量の対数と、その心理量が比例するという法則である。R=klogSで表される。つまり、刺激が強くなるほど、感覚の強さの増加度は小さくなるというものである。

19.スティーブンスの法則

感覚の強さ(感覚量)は、刺激の強さのべき関数に比例するとした法則である。フェヒナーは感覚量を直接測定できないという前提であったが、スティーブンスはマグニチュード推定法により、感覚量を測定できると考えた。マグニチュード推定法とは、ひとつの標準刺激に対して、同じ物理的尺度上の刺激を比較し、その感覚的大きさを数詞によって直接推定させるものである。これにより、精神物理的関数Ψは、刺激の種類で決定する指数aと、物理刺激の強さI、比例定数kで、Ψ=kIaと表した。