5.教育心理学

1.防衛的悲観主義について

物事がうまく進み、悪い出来事よりも良い出来事が起こるという信念を持つ楽観主義と、その逆である悲観主義では、楽観主義の方が心身の健康やパフォーマンスがよいとされてきた。しかし、アメリカの心理学者ノレムにより、適応的な悲観主義である防衛的悲観主義が提唱された。防衛的悲観主義は、これから迎える遂行場面に対して低い期待を持つが、「失敗する」という不安を利用してモチベーションを高め、悪い事態を避けるために熟考と入念な準備を行うことで、目標達成につなげる心理的方略である。防衛的悲観主義者が悲観的思考をしないとパフォーマンスが下がることは、Spencerや外山の実験で明らかとなっている。

2.TK式診断的新親子関係検査

TK式診断的新親子関係検査とは、親の養育態度を診断し、親子関係の改善に役立てるものである。子ども用の検査は、原則として学校で一斉に実施し、父母についてそれぞれ答えさせる形式である。養育態度は拒否、支配、保護、服従の4領域8つに類型される。拒否は不満と非難、支配は厳格と期待、保護は干渉と心配、服従は溺愛と盲従にそれぞれ分かれる。それぞれの得点からパーセンタイルを出し、安全地帯、中間地帯、危険地帯に配置する。また、親の態度の矛盾や両親の養育態度の不一致についても確認する。

3.アンダーマイニング現象について、実験例を挙げて説明

アンダーマイニング現象とは、報酬を与える等の外発的な動機づけを行うことで、もともと持っていた内発的動機づけが低下する現象である。Deciは、参加者を実験群と統制群に分け、それぞれ3日間ソーマキューブというパズルに取り組んでもらう実験を行った。1日目は両群とも同じ作業をし、2日目は実験群に対してのみ、成果を上げることで報酬が与えられた。3日目はどちらも報酬なしでパズルに取り組んでもらった。3日間の実験の中で、参加者はパズル以外に好きなことをやってもいい時間が与えられ、実験者はその間に参加者が自発的にソーマキューブに通り組む時間を観察した。その結果、実験群は報酬のある2日目のみその時間が長く、3日目は1日目よりも短かった。統制群は3日間同じ程度の時間ソーマキューブに取り組んでいた。このことから、ある活動に対する報酬に金銭が用いられると、人間はその活動自体に本心からの興味を失うことが明らかとなった。

4.ヤーキーズ・ダッドソンの法則について

一般に、すべての課題にはそれを行うのに最適な覚醒水準があり、覚醒水準と課題の成績の関係は逆V字型になるという法則である。ヤーキーズとダッドソンにより提唱された。また、課題が困難なほどその覚醒水準が低くなるということも言われている。Glucksbergの実験では、機能的固着を克服する必要のある「ロウソク問題」を課題とし、実験参加者を報酬の有無で2群に分けた。その結果、報酬の無い群の方が成績がよかった。この結果から、難しい問題を解くには、不必要な報酬などで過剰に動機づけられていると、かえってパフォーマンスが低下することがわかった。

5.グッドイナフ人物画知能検査

人物を描かせることにより、子どもの知能を動作性の知的発達水準を測定しようとするものである。F.L.Goodenoughの研究を踏まえて開発された。人物像の部分など50項目36点満点で採点する。子どもの描画行動は、1歳半頃から意図のない「なぐり画期」で始まり、そして感じた通りに表現する「誤った写実期」と、知っている通りに描こうとする「知的な写実期」である「象徴画期」を経る。8~9歳頃には、見えた通りに描こうとする「写実画期」を経て、絵を描くための認知機能と微細運動が発達していく。このような発達過程による明細化、統合化などの変化が明白であるために、適用年齢は、個人差が出現する前である、精神年齢3~9歳の子どもとされている。

6.井の中の蛙効果について

個人の学業レベルが同程度である場合、所属している学校の学業レベルの高低が個人の有能感に影響を与え、さらにはモチベーションや成績にも影響を与えるという現象である。つまり、レベルの高い集団に所属すると、優秀な人たちとの比較のため、否定的な自己評価を形成し、モチベーションが低下し、一方、レベルの低い集団に所属すると、劣った人たちとの比較のため、肯定的な自己評価を形成し、モチベーションが高まるということである。心理学では、「小さな池の大きな魚効果」と呼ばれ、デイビスの研究が始まりである。また、オーストラリアのマーシュにより組織的に実証された。もちろん、レベルの高い集団に属することで、有能感にポジティブな影響を与える栄光浴効果もあるが、ネガティブな効果の方がより一層強いことが明らかになっている。

7.原因帰属について

原因帰属とは、ある結果が生じたときに、何故起こったのかについての原因を推論することである。ワイナーは、原因帰属を原因の所在(外的・内的)と安定性(安定的・変動的)の2次元によって4つに分類した。原因が内的で安定的なものとしては能力、内的で変動的なものとしては努力が挙げられる。また、外的で安定的なものとしては課題の困難さ、外的で変動的なものとしては運が挙げられる。たとえば成績が悪かった時に、その原因を自分の能力に帰属するよりも、努力に帰属した方が、次は努力して良い結果を得ようと期待できるため、モチベーションが高まることがわかっている。これは、学習性無力感とも関連する。

8.目標設定について

ロックによると、勉強や仕事に対する意欲や行動の違いは、目標設定の違いに由来する。目標は、現在の状態と目標とのギャップを認識させ、行動を方向づけ、努力を増加させるという点で重要である。また達成できたときに、その行動を継続させるものである。動機づけを高める目標設定の仕方として、①具体的な数字や期限を明確化すること、②自分の能力に合った挑戦的な目標を設定すること、③自分がその目標に関わり、重要で意味のあるものだと考えらえる目標を設定すること、④コントロールできる目標を設定すること、⑤長期目標と短期目標に分けて設定することが重要である。

9.達成目標理論について

人がどのような達成目標を持つかによって、動機づけやパフォーマンスに大きな影響を与えるとする考え方である。達成目標には、具体的な行動やスキルの向上を目指す熟達目標と、他者との相対的な比較によって、高い能力や評価を獲得しようとする遂行目標がある。熟達目標志向性の人は、自分の努力そのものが有能感を高め、失敗しても課題に挑戦し続けようとする「マスタリー型」という行動パターンをとりやすい。一方、遂行目標志向性の人は、失敗すると否定的な感情や能力帰属を高め、課題失敗後に容易に無力感に陥ってしまう「無気力型」となると言われてきた。しかし近年では、遂行目標が遂行接近目標と遂行回避目標に分けて考えられ、能力についてよい評価を得ることを目指す遂行接近目標は、モチベーションの向上につながりやすいことが明らかになってきた。

10.内発的動機づけについて

動機づけとは、ある行動を引き起こし、その行動を持続させ、一定の方向に導く過程のことである。動機づけの源泉として、ホメオスタシス性動機づけや、報酬と罰が考えられてきたが、Hebbによる感覚遮断の実験により、人は刺激享受に対する強力な動機づけを持つことが明らかとなってきた。また、ハーローのアカゲザルの実験により、内発的動機づけが示された。内発的動機づけとは、その行動に自発的に取り組み、行動自体が目的となっている動機づけと定義される。分類として、感性動機づけ、好奇動機づけ、操作動機づけ、認知動機づけ等がある。

11.知能について

知能に明確な定義はないが、「抽象的思考・推論」「問題解決能力」「知識を獲得するための能力」であることは概ね認められている。知能の構造は、様々な心理学者が述べており、有名なものとして、スピアマンの2因子説、サーストンの多因子説、キャロルの階層因子説などがある。また、ボーリングにより、知能検査で測られたものが知能であるとする操作的定義が導入された。知能検査としては、ウェクスラー式知能検査とビネー式知能検査が有名である。

12.従来の「内発的動機づけー外発的動機づけ」の考え方と「自己決定理論」ではどういう点が異なるか

従来の考え方において、内発的動機づけは行動そのものが目的となっており、外発的動機づけは、行動が目的を果たすための手段となっていた。つまり「目的-手段」の観点から動機づけが分類されており、外部からのはたらきかけによる外発的動機づけは望ましくないと考えられていた。一方、デシとライアンによる「自己決定理論」では、①有能感②自律性③関係性の3つの欲求が充足されることで、内発的動機づけが促進されると考えた。さらに、外発的動機づけを自律性の程度によって、外的調整、取り入れ的調整、同一カ的調整、統合的調整の4つの自己調整の段階に分けて捉え、より自律的な段階の方が、課題に意欲的となり、望ましい動機づけの有り方であると考えた。

13.自己決定理論における連続的な動機づけモデル

デシとライアンは、それまで好ましくないとされていた外発的動機付けにも、自律的な要素が含まれるのではないかと考え、このモデルを提唱した。このモデルでは、自律性の程度によって、外発的動機づけを4つの自己調整スタイルから分類している。最も自律的な外発的動機づけが、「自分の能力を高めたい」といった統合的調整、「自分の夢や目標に必要である」と考えるのが同一化的調整、よい成績をとりたいといった取り入れ的調整、先生や親にほめられるからといった外的調整が非自律的な外発的動機づけである。外発的動機づけであっても、自律性の高いものはモチベーションが高まると考えられる。