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【最新作云々⑲】どいつもこいつも"頭上の悪魔"に首ったけ!! 搾取されてきた者たちが搾取する側に廻った時、醜悪な現実が露呈する... 牧場の兄妹がUAPの大捕物に挑む映画『NOPE』 

 結論から言おう!!・・・・・・・こんにちは。⊂(・ω・*)∩
 『昭和40年男』『昭和50年男』という男性誌が有りますが、もし『昭和60年男』が創刊されたらドンピシャ世代、O次郎です。

『昭和40年男』の創刊号の表紙は当代世代の永遠のヒーローである藤岡弘、さん。
我々の世代だと誰だろう・・・強くてモラリストで衰えを感じさせない男性………居るかな?(´^`;)


 今回は最新公開映画『NOPE』についてです。
 これまで『ゲット・アウト』(2017)や『アス』(2019)等、表向きにはホラージャンルの形を取りながら一貫して黒人の視点から人種及び社会問題を取り上げてきたジョーダン=ピール監督の最新作です。
 今回も主役は黒人の若い兄弟ですが、彼らが見舞われる受難を描きつつもどうやらその暗喩的批判の矛先は彼ら自身にも向いているフシが有り…。本筋である正体不明の物体との暗闘と、時おり挿入される過去のTV番組で起きた放送事故とはまったく別個に見えますが、同じ解釈のまな板の上に乗せてみると色々と見えてくるものがありそうです。
 あくまで自分なりではありますが、本作を観てみてそこから感じ取った底意と、そしてもちろんホラー映画として如何な具合だったかその所感を語ってみる所存です。解釈の一本として読んでいっていただければ之幸いです。ネタバレ注意なりよ。
 それでは・・・・・・・・・・・嵐の中で輝いて!!

"頭上の悪魔"といえばということで。
中学生の頃に観てアプサラスよりもそれを狙うジムスナイパーに惚れちゃって、
初めて買ったMGプラモがジムスナイパーだったのもいい思い出。


Ⅰ. 作品概要

 父親が急死したことで図らずも広大な牧場を経営することになった兄弟が正体不明の浮遊物体による動物・人間の収奪を目撃し、そこに電気屋の店員や有名な撮影監督も巻き込んでこの怪異をスクープしつつ被害を食い止めるために牧場での大捕物を開始するお話。そこに牧場の隣で西部劇のテーマパークを経営する男性が過去に見舞われたTVコメディーでのチンパンジーによる出演者殺害事故が要所で挿入される、という構成。

 監督のジョーダン=ピールは未だ40代半ばの若手ですが監督した過去の二作品はいずれも評価が高く、コメディアン出身なだけあって作品内随所で観られるコメディーセンスと皮肉たっぷりな展開は職人監督とは違う瀟洒さを感じさせます。

ゲット・アウト』(2017)
とある黒人青年が招かれた白人の恋人の実家で体験する異常な歓待と待ち受ける恐怖。
"反差別が助長する差別"の歪さを衝いた映画監督デビューの秀作。
アス』(2019)
そこそこ裕福な一家が旅行先で出会った自分たちにソックリな家族に襲われる惨劇。
簡単に言うと、"自分たちのリスクは最小限に、利益は最大限に"というあらゆる交渉の罪深さを
自覚させてくれるお話。お互いにリスクを負ってお互いに儲けましょう。

 キャストについては、主演のダニエル・カルーヤのみ過去作からの再抜擢ですが、他の主要キャストは本業が歌手だったり悪役俳優の重鎮だったり名脇役だったり舞台畑の方もと多岐に渡っており、普段日本で封切られる大作映画ではなかなかお目に掛かれない通好みな感じです。

行き過ぎたテクノロジーが生み出す不条理のオムニバスドラマで、
世にも奇妙な物語』的なTVドラマシリーズのブラック・ミラー
その記念すべき第一シーズンの第2話「1500万メリット」は極度の管理社会から脱出がテーマ。
本作を監督が高く評価して自身作品への起用を決めた、とのこと。
村上春樹先生の短編を原作にしたバーニング 劇場版』(2018)
スティーブン=ユァンの飄々とした雰囲気で掴み処の無い飄々としたキャラクターは
本作での役に通ずるところがあるかも。

 して、本作の作品としてのまずもっての印象ですが、過去二作のようなホラー映画というよりはモンスター映画に近いです。
 序盤こそ正体不明の浮遊物体が巻き起こす動物や人間の取り込みや電子機器異常に怪奇音、謎の飛来物といった怪現象で得体の知れない恐怖を掻き立てますが、中盤に主人公兄妹が一連のチェック&エラーを経てその特性を感得して以降は仲間を交えての件の巨大生物を如何に撮影し、また無力化するかのモンスターアクション映画のスリルにその意味合いが変質していきます。
 牧場の隣のテーマパークの写真撮影や道中の車屋のチューブマン等、それまでのなんでもない描写が伏線として終盤の闘いに生かされる展開は丁寧で面白さに貢献してはいるのですが、過去2作品で見られたような正体不明や不気味に対する底の知れない恐怖は本作では控えめです。
 よって純然たるホラー映画好きには手放しではおススメできませんが、モンスターと戦うアクション映画、それも限られた人数・道具・ロケーションで巨大な敵に立ち向かうケレン味マシマシのシチュエーションスリラー仕立ての作品が好物な方にはバッチリハマると思います。

パッと思いつく類似映画といえば・・・・・・『トレマーズ』か?
"僻地での孤軍奮闘"っていう括りですが、モンスターの造形は
こっちほどショボくはないのでそこはご安心を・・・。


Ⅱ. 果たして作中の両事件が指し示すものとは・・・?

 まず作中冒頭から全編に渡って断片的に挿入されていく事件、すなわち作中の世界での90年代半ばの過去に起きたシットコム(シチュエーションコメディ)TVドラマ「ゴーディズ・ホーム」での撮影中の事故。両親と息子と娘の四人家族と彼らのペットであるチンパンジーが織り成すコメディードラマですが、撮影中に突如怒り出したチンパンジーが両親と娘役の白人俳優を暴れて殺害してしまいます
 このチンパンジーはすなわち黒人の暗喩であり、起こった事件は映像ビジネスにおける白人から有色人種とりわけ黒人に対する長年の搾取への強い抗議ではないでしょうか。そしてその出演者の中で唯一人"ジュープ(スティーブン=ユアン演じる後のテーマパークオーナー)"だけがその凶行から難を逃れたのは、彼が同じ有色人種で同じ被差別側として見做されたからではないでしょうか。

白人の軛から自らの起こした反逆で脱したチンパンジーから"仲間"としてグータッチを求められ、
恐れおののきながらそれに応じる幼き頃のジュープ。
彼らは表向きには他の家族と対等の関係ながら白人とは明確に区別され、
クレジット等では明らかに冷遇されつつも"多様性確保"のために形だけで仲間入りさせられます。
例えば『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)のバッバのように・・・。

 本事件はまた、"搾取する側は、搾取される側が我慢の限界に達してその怒りを爆発させるまで反省することは無く、「事件」になるまで自らの行いが誰かを傷つけるものであるかもしれないと自省して踏み止まることがない"
という事実も示しているように思います。このあたりは監督の前作である『アス』とも通ずるところがあり、"反省を促すために「事件」を起こす"という劇場型犯罪が絶えることが無い原因でもあるでしょうか。

 そして成長した作中のジュープは白人の妻を持ち(それ自体が悪いことではありませんがここでは敢えて暗喩として捉えます)、テーマパーク拡大のために主人公OJからその所有馬だけでなく牧場そのものまで買い取ろうかと提案し、さらには件の飛行生物の存在にいち早く気付いてそれを手懐けるべくテーマパーク内にてその馬や来場客を"供物"として捧げます。
 つまりは、過去に"搾取VS被搾取"の決定的な対立とその不幸な事件を当事者として強烈に体験したにも関わらず、そこからその構造そのものを否定・根絶しようとは思い至らず、あろうことか自らが絶対的な搾取側になろうと立ち回っています
 「不幸な事件を起こさず起こさせないために行動しよう」ではなく、「かつて自分を搾取した側をも搾取する立場に立とう」というスタンスであり、方法は間違っているとはいえ搾取側から自分を守って親和の意を示してくれたかつてのチンパンジーに対して唾を吐きかけているわけです。

"TV出演者とチンパンジー"が、"テーマパークオーナーと所有馬"に
時代を隔ててすり替わる・・・。
ジュープが経営するテーマパーク「ジュピターズ・クレイム」は西部劇がテーマ。
かつて彼のことも搾取した白人文化を売り物にし、客として来た白人層に金を払わせることで
その反骨的自尊心を満足させているのでしょうか。


 それに対するOJとエメラルドのヘイウッド兄弟ですが、彼らも結局、件の飛行生物を金儲けに利用しようとする姿勢が最後まで拭えません
 これまでの飛行生物に関する被害で分かったことは、

〇普段は雲に同化して浮遊している
〇有機物を吸い込んで捕食し、それと一緒に無機物も取り込むが無機物は後で吐き出す。
〇目を合わせると補足され、捕食対象とされてします。

といった性質であり、それらを踏まえて電気屋店員や有名監督も味方に引き入れつつ飛行生物にゲリラ戦を仕掛けます。
 彼らに関してはジュープよりはまだモラルが有り、馬や人を犠牲にしようとしたりはしませんが、囮にするぐらいのことはしますし、そもそもが"未確認飛行物体(UAP)"を映像に収めたい、それをお金にしたい、それで有名になりたい、という打算で集まっています

 最終的にその飛行物体を追い込んで無力化することに成功し、結果としてそれがその後に集まる報道関係者や野次馬といった予見され得る夥しい数の犠牲者を未然に救ったのは間違い無いでしょう。
 しかしながらOJもエメラルドもその一連の死闘の中で最後まで飛行物体の撮影も諦めずそれに成功しており、それを以て『オプラ・ウィンフリー・ショー』に出演するのだと息巻いていました。
 つまりは、黒人でありしかも"動く馬"という世界最古の映像被搾取の一族の子孫である彼らすらも、"未確認飛行物体"という未知に対して目を見合って真正面から向き合うことを拒み、その映像を世間に売り込むことで搾取側として利用する側に廻ろうとしています

"チーム「打算」" (=゚ω゚=)

 自らの利得のために相手をろくに理解しようとせずに利用しようとすること、それに対して牙を剝く相手に対して反省して謝罪することをせずに力で抗しようとすること、その構造が続く限り作中での"未確認飛行物体"はその後も延々と出現し続けるのかもしれません。

オプラ・ウィンフリー・ショー
主人公二人が出演を企図した"黒人が主催する最高峰の番組"。
この番組に拘ったことからして、そもそも二人が人種に捉われていることの象徴だったのかも。



Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回は最新ホラー映画『NOPE』について語りました。
 果たして監督の意図したものと合致しているかどうかは分かりませんが、表層の"未確認飛行物体VS牧場の兄妹"という大捕物活劇のスリルはもとより、その背景を考えるといくらでもアイロニカルなメッセージが汲み取れる、いかにもジョーダン=ピール監督らしい作品になっていると思いました。

余談ながら何とも厭なリアルを感じさせられたのが序盤のCM撮影現場です。
最初に説明した馬に相対する際の注意事項を守らず居丈高に無理難題を要求するオファーサイドに
苦言を呈するOJに対して「柔軟に対応するのがプロだろ」との上から目線の物言い…。
撮影がポシャッたら双方にとっての不幸だし双方の損失に違いないのだから、
オファーサイドは事前にどういう撮影をしたいか相手に提示しておくのが本当のプロでしょうし、受ける側も当日の現場判断でそれを逸脱しすぎないよう事前に誓約を求めるべきでしょう。
隷属ではなくビジネスなんだから、お互いにリスクを負ってお互いに儲けましょう。

 監督の前々作なんかは当初予定されていたバッドエンドが円盤に特典として収録されていたりしましたし、本作についても繰り返し視聴やカットされたシーンを観られればいくらでも発見がありそうです。また、本作を観てあらためて過去作を観てみて、一連の筋の通った監督の意図を探ってみるのも有りかもしれません。
 ともあれ、取り止めが無くなってきたので本日はこのへんにて。
 他にも、”自分はこう解釈した”みたいなご意見ございましたらコメントいただければ恐悦至極にございます。
 
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




作中のこのシーン・・・・・・『AKIRA』の金田のバイク止めを思い出したよね。(・ω・)









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