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【最新作云々⑰】愛より自己犠牲より信仰よりも強く根深い人の営み・・・汝の名は"呪詛"なり。 人々の恨みからの業を背負った一族が娘の豹変を機に崩壊していく"全員死刑"の地獄絵図映画『女神の継承』

 結論から言おう!!・・・・・・・こんにちは。(=^・ω・^=)
 国際子ども図書館に行っても初版版の藤子不二雄A先生の『魔太郎がくる!!』は歯抜けの巻があってなんとも歯がゆい、O次郎です。

"再販版では表現がマイルドに"みたいなことを言われると
オリジナルを見たくなるのが人の性。
こちらは残虐表現が元ですが、近年の『アザゼルさん』なんかでは
お下劣表現が過ぎて単行本未収録とかオチが変わったりとかね・・・。

 今回は最新公開映画『女神の継承』についてです。
 過剰な暴力描写と性描写が顕著な韓国映画の中でもとりわけショッキングな描写と、まるで投げっ放しジャーマンのような観客に解釈を全移譲するような幕切れがその大きな特徴の『哭声/コクソン』で知られるナ=ホンジン監督。その彼がプロデュースした、タイの女神崇拝と呪いとの相克をテーマとするスピリチュアルホラーです。
 韓国と比べて"精霊信仰"という形で信仰がより生活に深く根ざすタイの田舎で、とあるうら若い少女に取り憑いた禍物がもたらす凶事に叔母の巫女が立ち向かうものの、やがて災厄は一族全体に降り注ぎそして……
 近々、Netflix独占配信の台湾ホラー『呪詛』がスマッシュヒットを飛ばしましたが、同じファウンドフッテージの体裁を取りつつも呪いの苛烈さと精神的・肉体的な受難の満漢全席ぶりは本作に軍配が上がります
 ホラー全般の中でも、結末のシビアな胸クソ映画、吐瀉物や血飛沫が撒き散らされるゲログチャ系に耐えられる強者な方々、読んでいっていただければ之幸いでございます。ネタバレ含みますので、既に鑑賞済みの方や未見だけど実物観る勇気は無いものの内容は把握したく…みたいな方はどうぞ。
 それでは・・・・・・・・・・こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か!!!

魔太郎と同じ安孫子先生の『ブラック商会変奇郎』は
90年代後半に森田剛さん主演で『シャドウ商会変奇郎』としてTVドラマ化。
単発放送だったので覚えてる人は少ない・・・か?



Ⅰ. 作品概要とその描写の凄惨ぶりの数々・・・

https://synca.jp/megami/

※Wikiのページが存在しなかったので公式サイトでご容赦をば。

 まずはじめに、本作は全編通してファウンド・フッテージの手法で撮られていますが、二時間弱の長尺にもかかわらず画面酔いすることが無かったので、画面酔いしやすい人にも安心の画角です。

ファウンド・フッテージ系の映画のエポックメイキング作の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト
は当時DVD化されてから観ましたがメチャクチャ酔いました…。
全篇観終わるまでに二回ぐらい休憩挟んだかも。
実は『カメラを止めるな!』も前半の一時間で画面酔いしたクチです。
search/サーチ』(2018)
ファウンド・フッテージ系の映画の秀作といえばコレ。
母親を病気で亡くしたことから関係がぎこちなくなった娘と父親。
大学進学した彼女が失踪したことで父親が必死に捜索する途上で娘の知られざる顔が・・・
というミステリアスな展開がPC画面上だけで展開されていく。
同じホラー系では心霊スポットを訪れた撮影隊の受難が題材の『コンジアム』がショッキング。

 冒頭は祈祷師で"巫女"の中年女性ニムにインタビューする形でタイにおける精霊信仰や社会に於ける祈祷師の位置付け、そして"巫女"の立場の継承のされ方が端的に説明されており、この手の不条理ホラー作品にしては入り易いかなり親切な造りになっています。

当代の巫女であるニム
伯母から本来巫女を継承するはずだった姉のノイがその予兆である身体の不調を来した際にそれを拒んでキリスト教に帰依したため、代わりに儀式を経て巫女を継承。
自分が使える女神を強く信奉し、身体の不調や悩みが原因で自分の元を訪れる人たちに
慕われながらも、その一方では長年の姉との不和に悩み、
姪が見舞われた災厄に苦しむ姿は普通のおばさんそのもの。

 そして親族一同でのパーティーの場でそのニムの姪(姉のノイの娘)であるミンの近々の奇行ぶりが明らかになっていきます
 一族の団らんの場で従兄に難癖をつけて罵倒したり、職場へ向かうバスの中で見ず知らずの乗客に手を出してトラブルになったり、挙句の果ては夜間泥酔して職場に勝手に泊まり込んだうえに防犯カメラに連れ込んだ男性たちとの淫行の様子が在り在りと映っていて解雇されたり・・・。

特に中盤のニムが除霊を試みるシーンでも取り憑かれた姦淫ぶりが見受けられますが、
まさに『エクソシスト』のそれを彷彿とさせつつ、描写の振り切り具合はそれを凌駕しています。

 いよいよ状況が待った無し、ということで一族の長兄マニの執り成しを受けつつ、彼女の母親であるノイがニムにお祓いを依頼しますが、その途上でそれまでのノイのニムの仕事に対する無理解や軽蔑、彼女に巫女を押し付けた経緯の陰湿さが浮き彫りになって、結果的に姉妹の溝がより決定的になっていく展開がなんとも観ていて辛いです。

ある戦慄』(1967)
とある深夜の地下鉄の終列車に乗り合わせた平凡な市民たちと暴漢二人。
密室環境の中、ナイフをちらつかせて各人を脅していくチンピラ二人に対し、
フラストレーションの溜まった若い恋人同士や熟年夫婦がお互いの不満をぶちまけ合う地獄絵

悪漢二人の登場をきっかけに乗客それぞれの内面の悪意が解き放たれる告解室のようで…。

 そこで結局、ミンに取り憑いている禍物を祓うどころかその正体すら掴めず、遂には大物祈祷師のサンティに協力を仰ぐことになります。
 ミンが暴れ出さないよう彼女を自室に閉じ込めて監視カメラを取り付けたりする中、それでも深夜に部屋を抜け出して一族の家中を荒らしまわったり、長兄の幼い息子を連れだして林を徘徊したりと、彼女の憑き物によってまず親族一同が精神的に追い詰められていく様が地味ながらかなり観ていて辛くなります

シングルマザーであるノイにとってはミンは何もよりも大切な存在ですが、
長兄マニやその妻子にとっては徐々に彼女が脅威としか映らなくなっていき・・・

 そしてミンの憑き物による蛮行が凶悪化・長時間化していく中でサンティ主導の大祈禱の儀式への準備が進められていくわけですが、なんとその数日前に事件の頼みの綱でこれまで親族一同を支えてきたニムが、恐らくは禍物の影響によるものの原因不明の死を迎えてしまいます。悲しいシーンながらそこに祈祷のお供え物に湧く大量のウジ虫が画面狭しと蠢き、感情を不快感へと振り切らせてくれます。

 一同がニムの死に動揺する中での儀式当日、一族の自宅には監禁されたミン、此度の禍物の呪詛の根源と思しき建物には昔拒否したことを女神に詫びたノイがそれぞれ周囲に見守られながら鎮座し、儀式が始まります。
 祈祷と呪いの激しい相克が生まれながらも呪いの封じ込めに一度は成功するのですが、憑き物の姦計によって自宅でのミンの戒めが解かれてしまいます。祈祷を依頼した側の弱みに付け込んで分断させる卑劣さはまさに前作『哭声/コクソン』でも見られた描写です。
 それを契機に形成は完全に逆転・・・・・・長兄の嫁はトリップ状態のミンに刺殺され、幼い息子は喰われ、撮影隊は喰種と化した祈祷師たちに血を吸われ、サンティは高所から自ら落下し、長兄もミンの手で屠られ……これまでの描写は純然たるスピリチュアルホラーながらこのラストの虐殺シークエンスは直接的な暴力に満ちており、汚猥と吐瀉物と血飛沫を撒き散らす現世と地続きの鬼畜の所業です

『哭声/コクソン』での祈祷は見目鮮やかな極彩色でしたが、
本作でのそれは淫靡でモノトーンなイメージ。
ちなみにバーサーカー状態のミンによる殺戮のクライマックスは、
実母であるノイの全身にガソリンを撒き散らしてから焼殺…。

人によっては断末魔の彼女の悲鳴が夢に出てくるかも。orz

 というわけでこれだけの家族愛と錚々たる祈祷師たちの献身にも関わらずそれを悉くドス黒く塗りつぶして屠ったのは、その昔一族が人々を虐殺したことによって被ってしまった怨嗟の集積
 それだけでも暗澹たる気持ちになりますが、エンドロールの最中に流れるその直前のニムへのインタビュー映像にて、彼女が女神の声をこれまで一度も聞いたことが無いことが判り、一連の奮闘が神と禍物の闘いの体裁にすらなっていなかったやもしれないという絶望的な徒労感を味わいながらこの物語は終わりへ向かいます・・・。

ニム自身に力があったのかどうかは不明ですが、
彼女の祈祷師としての誠意と親族への愛は本物であったことだけが
本作唯一の救いかもしれません。



Ⅱ. おしまいに

 というわけで今回は最新公開映画『女神への継承』について書いてみました。
 本作を一言で表すと、
 怨嗟 > > > > > > > > ・・・ > 愛
 という感じでしょうか。渦中の一族は少なくとも彼らの代では至極真っ当に生きており、何ら人様から後ろ指を指されるような生き方をしていないので、なおのこと業というものの不条理さを感じさせられてキツいことこの上なしです。
 ただそれでもホラーの商業映画としてのエンタメ性はそこかしこに横溢しており、陰惨ながらもどこかもの悲しく胸に来るエッセンスが有るのはさすがは名プロデューサー・名監督の手腕だと思います。

愛しのゴースト』(2013)
本作監督のバンジョン=ピサンタナクーン氏の大ヒット作。
"ラブコメディ・ホラー"ていうのがなんとも珍妙な括りだけど
そうとしか言えない珍奇な味わい…。

 本作のようなゲログチャ系に限らず、最近のホラー・スリラー・ショッカー作品で他におススメございましたら是非コメントいただければ恐悦至極にございます。
 
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




"女神"といえば数年前に池袋文芸坐で、『アマン』っていう
呪術師の度重なる暴挙に女神の怒りが炸裂するインド映画を観た。
CG雑だったけど原色眩く画面がとにかく強烈だったなぁ・・・


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