【最新作云々⑤】全編通して快楽要素全開の超娯楽大作は”強く正しきアメリカ”へのトリップを誘う・・・ 夢より素敵で危険な『トップガン マーヴェリック』
結論から言おう!!・・・・・・・こんにちは。∑(゜Д゜)
漫画『ベルセルク』がスタジオスタッフやご親友の森恒二先生の手によって連載再開、というニュースを聞いて、「小島秀夫監督が脱藩された今、コナミさんには万難を排して相当の批判を覚悟で監督の手に依らないメタルギアシリーズの新作を作ってほしい」と思っちゃった、O次郎です。
この週末、よ~~~やっと『トップガン マーヴェリック』を観ました。86年公開の大ヒット青春アミーゴ映画の続篇、ということで堅っ苦しい考察や自説は極力抑えめに、個人的にゴイスー!と思った点とムムムッと思った点を愛のままにわがままに書いてみようと思います。
ていうか、よりたくさんの方に読んでもらおうと思ったらこういう最新公開作でしかも大作の話を主体にすべきなのに、いつもはあからさまな逆張りというか下手の横好き話が多くなってしまってて軽く反省・・・。
もうすっかり感想も出揃ってしまっているかもしれませんが、「俺はこう観たぞ」ということで見方の一つとして読んでいただければ之幸いでございます。ネタバレを含みすので未見の方は鑑賞後にどうぞ。
それでは・・・・・・・・・・・・ズ~~~~~パッッック!!
Ⅰ. 作品概要
愛・友愛・誇り・筋肉・娯楽・大空・自由・人命・エリート・追悼・懐古・宥恕・不屈……アメリカの正の遺産をこれでもかと敷き詰めた超娯楽大作です。
本作を観て厭な気持ちになろう筈がなく、圧倒的な迫力と全世代に対する現役感・自己肯定感によって観た人につかの間の全能感を約束してくれるドーパミン成分配合のヒャッハームービーです。
全面的に実機を使った迫力は凄まじく、それを補佐するCGとの違和感も無く、現代では現実的には起こり得ないであろう戦闘機同士によるドッグファイトを、現代の最高水準の撮影・演出技術で現実のものとして見せてくれます。
また、その空のロマンを繰り広げるトップガンたちの友情と恋のドラマは、その瑞々しく美しい極上の上澄みを抽出することでどの世代にも普遍的に響く人間模様としてダイナミックに訴えかけてきます。
それはさながらまさしく戦闘機の如く、明日を闘い抜く力とひたすらに高みに上昇していく翼のために物語が最適化され、それに不要なネガティブエッセンスが無駄な贅肉としてすべて排除された完全無欠のアメリカンドリームの塊です。
ただただ前だけを向いて進みたい時にこれほどふさわしい映画は無く、また同時に、客観的に自己省察したり見たくないものに向き合おうとする時にこれほど不向きな映画も無いでしょう。
Ⅱ. 個人的ヒャッハー!な点
・トム=クルーズによるマーヴェリック役の再現性の高さ
とにかく、あの不敵な笑みに溢れる自信、上手くいってるとついつい調子に乗っちゃう一方で落ち込むときにはとことんまで落ち込むナイーブさ。
出演映画のほぼすべてが主演作である彼にとって作品間でのイメージの重複は不可避な問題だが、本作ではまさに”マーヴェリック”としてのトム=クルーズを全編に感じ、権利を買うほどの彼のこの作品への思い入れの強さが演技にも十二分に顕れている。
特に恋人を前にしての少し照れたようなはにかむような笑みはまさに36年前の前作での若きマーヴェリックのそれの延長線上に有り、彼の常日頃の”サイエントロジースマイル”を見慣れていてなお、そこから際立つものが有る。
"マーヴェリック"というキャラクターの再現のために本作のストーリーが構築された、といっても過言ではないのではなかろうか。
・”相棒の遺児”の説得力を生んだマイルズ=テラーの存在感
かつて自分が事故で失った相棒の遺児で、容貌の相似やピアノ趣味といった判り易い設定を与えられながらもそれが軽くならず、マーヴェリックを憎みつつもぶつかり合ってともに視線を超えることで言葉でなく行動によって和解していく姿。
ドラマとしてはあまりにも捻りが無くド直球ですが、それだけにこのキャラクターに説得力を持たせた彼の演技と存在感は筆舌に尽くしがたく、トム=クルーズの風格に見合った”若き相棒”を体現していました。
コードネームに象徴されるように、青春群像劇は往々にして各キャラクターが記号化されて提示されがちですが、彼の存在感に引っ張られる形で他の若きトップガンたちの人間性も引き立ったように思います。
・努力に勝る近道無し
機体の性能は向上していくのでそういう意味でのスタート地点は時代とともに進んでいくものの、登場するパイロットの操縦技術や危機対応能力は”強くてニューゲーム”状態には出来ず、いつの時代も経験を積むしか道は無し。
本作では若きトップガンたちの操縦技術の向上と信頼関係の構築、自分という存在の自覚が見事にオーバーラップしていて、成長物語がいつの時代にも普遍的なものであることをあらためて教えてくれます。
そして本作はトップオブトップが常に努力していることだけでなく、目標のために努力すべき点を抽出してそれに自分を最適化する”努力のための努力”を体現している点、まるでビジネス書のような見方も出来そうです。
Ⅲ. ”番狂わせ”の快感
本作の主役戦闘機は1999年に運用開始されたというF/A-18E/Fで、そのロートルで敵方の最新鋭の防空システムおよび戦闘機に挑まなければなりません。
その圧倒的不利を強いられるスリルに加えて、それを覆しての勝利のカタルシスは疑いようがありません。
ロボットアニメなんかでもよく”主人公期は試作機で、ラスボスはその完成型の機体”みたいな設定が見られますが、それだけ普遍的な感動ポイントということでしょうか。
Ⅲ. 個人的ムムムッ!な点
・状況設定の強引さ
要するに本作は”現代戦において急遽「過去の遺物」が必要になった”というもので、いわば現代アップデートされたルールに適応できないロートルな世代が自己肯定するための格好の材料のようにも見えてしまった。
いわばそれは”災害時の手回しラジオ”のようなもので、非常に限られた状況と分野でしか適用されようもなく、現実ではロートルはロートルでしかないわけで、本作が思想的にアップデートを拒む大義名分になりはしないか、という危惧を感じてしまった次第。
・軍という”不自由”の中で体現される”自由”
冒頭の海軍少将への抗名的なテスト飛行の強硬に加え、無断での作戦のデモンストレーション決行とその成功による事後承認。
主人公のみならず元相棒の息子のルースターも終盤に帰投命令を無視してマーヴェリックの救出に向かい、二人で敵中を突破しての味方の援護による大団円…。
主人公が”命令違反の常習犯”という設定は有るにせよ、彼ももう命令を守らせる立場に在り、そもそもが”上意下達・命令絶対”という軍の組織でそれをやるという最大の矛盾がそこに有り。
”ご都合主義の演出”と言えばそれまでですが、前作で軍の志願者が激増したという背景も有り、本作でもその現実と乖離した結果オーライの命令度外視の誤解が蔓延らないかという気はしました。
・”老い”や”衰え”への断固たる拒否
で、一方で私が本作で感じた最大の違和感がコレです。
主人公マーヴェリックは本作冒頭、極超音速テスト機「ダークスター」のテストパイロットを務めており、誰も到達していない”マッハ10”の世界に挑んでいます。
加えて、かつての同僚の強い推薦で海軍航空基地の教官に就任するや否や、初日の訓練で長いブランクを感じさせない操縦で現役のトップガンたちを圧倒し、その尊敬を一手に集めます。そして当初はあくまでも教官の立場であったにもかかわらず、最終的には当事者として作戦メンバーの一人に収まります。
さらに私生活では、前作で恋仲となった戦術アドバイザーのチャーリーとは切れており、代わりに元ガールフレンドで海軍基地の近くでバーを経営するシングルマザーのペニーとともに、その娘も羨むようなティーンエイジャーの如き華やかなロマンスを繰り広げます。
物語を一貫して”老い”や”衰え”が主要人物の中に存在せず、それらは一応描かれてはいるものの病に倒れる太平洋艦隊司令官トム・“アイスマン”・カザンスキー海軍大将に象徴されるように他人事であり、自分はその蚊帳の外にある事としてハッキリとそれを忌むべきものとして拒絶しています。 特に象徴的なのはヒロインのキャスト交代で、前作のヒロインを演じたケリー=マクギリスもそれについてコメントしているようです。
エンドクレジットに追悼文も添えられていた前作の監督のトニー=スコットの構想では、当初の本作は「ドッグファイト時代の終焉と現代の空中戦におけるドローンの役割に焦点を当てた物語」だったようで、完成した本作とはまさに真逆のプロットだったようです。
”現役感”こそ史上にして唯一の価値、とも呼ぶべき本作の一貫したビジュアルとスタンスは、そのまま主演で製作も務めるトム=クルーズのそれとピッタリ合致しています。
本作はご存じの通り本国と同じように日本でも特大ヒットしており、批評家からも概ね絶賛されているようで、”逆張り”に他ならないことは重々承知しております。
がしかし、物語の上では老・壮・青がキレイに協力し合って理想的な関係を築き上げていますが、現実ではこの”現役感”の奪い合いで社会のいたる所で世代間対立の秘かな温床になりはしないか、という危惧が拭えないのであります。
Ⅳ. 終わりに
というわけで、驚異の大ヒットを続ける『トップガン マーヴェリック』への個人的思いの偽らざるところをつらつら語ってみました。
観た直後は興奮と感動で「娯楽映画のマスターピースがまた一本増えた‼」と得も言われぬ満足感でしたが、落ち着いて上述のように一連の言葉にしてみると、造り物の娯楽という前提理解が無ければ一歩間違えば優勢思想を助長するような危険も孕んでいるのでは、とヒヤッともしました。
とどのつまり本作は、マックやケンタッキーのようにジャンキーでこの上なく美味しいけど身体にはなかなかに危険な成分だよ、という覚悟を以て楽しむべき作品ということではないでしょうか。
ここまで読んでいただいてもし思うところございましたらコメントいただければ恐悦至極にございまする。
ちなみに以前、本作の公開にかこつけて90年に制作された”和製トップガン”こと『BEST GUY』についても記事を書きましたので、よろしければそちらも併せてお読みくださいまし。
この週末に本作と併せて数本、最新公開映画を観ましたので、次回も最新作について語る所存です。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・・・・どうぞよしなに。
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