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【最新作云々㉙】謎と暴力に塗れたデジャヴの映像が彼女を思考のラビリンスへと誘う... 記憶喪失の主人公を見舞うサスペンス、スリラー、そしてラブストーリーの万華鏡映画『君だけが知らない』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
 先日、近所の大きめの公園をランニングしていたらシート敷いてくつろいでる中年夫婦の流すステレオからリック・アストリーの「Never Gonna Give You Up」が聴こえて来てズッコケそうになっちゃった、O次郎です。

※やっぱ映像と併せると破壊力抜群だね!オイ!
曲は幼少期だったこともあって記憶に無かったのですが、たしか三ツ矢サイダーかなんかのCMに出演されてましたね。
外タレさんをやたらめったら起用してたバブル期。
父が公務員だったのでどこか他人事だったバブル期…。(´・ω・`)

 今回は最新の韓国映画『君だけが知らない』です。
 事故で記憶を失ってしまった女性が夫の献身的なサポートを受けて日常生活を取り戻し始めるも、行く先々でデジャヴを目撃しながらそれが血腥い光景へと発展し、夫も自分自身すらも信じられなくなっていく…というサスペンス志向の作品です。
 ・・・なのですが、そこから中盤は主人公が自らの命の危機に瀕するスリラーの様相を呈し、ラストはなんと至上の愛を鬻ぐラブストーリーへと帰結します。
 個人的にはスリラーまでで留めておいてほしかった気もするのですが、そこは好みそれぞれということで、少しずつ真相を紐解きつつも二転三転する話運びが興味を引っ張り、二時間以上の長尺の多い韓国映画の中に在って100分でこれだけの風呂敷を綺麗に畳んだ構成は素晴らしいの一言です。
 というわけで複合ジャンルの満漢全席的な韓国映画の妙味をご紹介いたします・・・・・・ネタバレ含みますので避けたい方はご鑑賞後にどうぞ。
 それでは・・・・・・・・・・・・"Together Forever"!!

※毒々しいカラーコーディネート・・・目がチカチカする。
キャリア長いだけあって他にも多数曲があるんでしょうけど、この2曲でもうお腹いっぱいな圧というか。(*゚ー゚*)


Ⅰ. 作品概要

※日本語版が存在しないため、翻訳等でご覧ください。

・ジャブはサスペンスから

 物語は主人公のアラサーの女性スジン(ソ・イェジ)が病院で目覚めるところから始まります。転落事故で頭を打っており、命に別状は無いものの記憶がズッポリ抜けております。事故の前後の数日間の記憶だけというわけではなく、周囲や自分のことすらも忘れており、まさに手探り状態でのスタートです。
 オープニングクレジットからして彼女の遭遇した事故の断片的な映像が映し出されますが、一見して流血沙汰であることがわかり、サスペンス作品としては期待を煽る手法として手堅くありつつ、その後の二転三転するストーリー展開からするとこれがミスリードにもなっているのが実にうまいところです。

ちなみにオープニングクレジットの映像が巧いなで思い出すのが
リーアム=ニーソン主演の『誘拐の掟』(2014)。
元警官の私立探偵が連続誘拐殺人事件の犯人を追い詰める話ですが、
薄暗い画面の中で映し出される曲線のアップを追っていくと
最後に犯人が捕らえたダクトテープでグルグル巻きの被害者女性の恐怖の顔が
映し出されてギョッ!というオープニングでした。
おぞましさで言うと『ノクターナル・アニマルズ』(2016)も強烈なOP映像だった…。

 そんな前後不覚の状況の中で彼女を甲斐甲斐しく世話してくれるのが夫のジフン(キム・ガンウ)です。仕事を抱えながらも彼女が記憶を取り戻すのを根気良くサポートしてくれますが、彼らの住むマンション周辺でのデジャヴュが断続的に主人公を懊悩させる中、次第に彼の言動に辻褄の合わないところが有ることが分かり、ゆっくりとしかし着実に彼への疑念を深めていくことになります。

絵に描いたような優しい夫のジフン。
記憶を取り戻そうと躍起になる主人公を宥める姿はどこか保護者のようでもあります。
物語が進むにつれ、彼が会社を計画倒産させているのではないか、
その高飛びのために自分を連れて海外に高飛びしようとしているのではないか、
そしてその経緯の中で自分が巻き込まれた事故を引き起こしたしたのではないか…
と主人公は思考の迷路に迷い込みます。毎日自分に飲ませている得体の知れない薬も気になり、
ともすれば記憶を取り戻す前に自分を消そうとしているのではないかと…。

 この"主人公の女性が目の前現実の真偽を疑うものの、周囲の人々は自分の庇護者の言葉を信じるばかりで自分の正気が分からなくなっていく"という展開は昔からよく使われるプロットですが、往年の映画では主人公を年端もいかない少女に設定して"この子の気がふれているんじゃないか?"と観客にミスリードするのが定石でしたが、本作では最初は頼りないながらも真実を知るために周囲全てを疑ってかかる大人の女性であり、彼女自身が犯罪に係わっている可能性も無きにしも非ずながら頼もしくも俄然感情移入の余地の有るところです。

記憶の手がかりを探して街をさまよう中で彼女の元同僚の女性に出会い、自分の足跡と結婚の経緯を辿っていきます。


バニー・レークは行方不明』(1965)
シングルマザーの若い女性がちょっと目を離した隙に娘のバニーが行方不明になってしまい、
必至に探し回るも周囲の誰も娘を見ておらず、唯一の味方である彼女の兄も娘の存在を
否定することで主人公は精神的に追い詰められていく…。
『恐怖』(1961)
生き別れになっていた父に会うため、父の屋敷にやってきた車椅子の少女が
父の死体を目撃するも周囲の誰にも信じてもらえず、
遺産目当てに自分も殺されるのでは?という恐怖…。
『生きていた男』(1958)
富豪の若い女性の別荘に見知らぬ男が訪ねてきた。
男は彼女の兄だと名乗り、周りの者もそれを信じ始めるのだったが......。
ちなみに伊東四朗さんが以前ラジオで"生涯観た映画で一番面白かった"と仰っていた一本です。

※まじめさゆえに窮地に陥ってしまう愛すべき隣人たちを描いた短編集。
その中の一篇「マリッジブルー・マリングレー」は、結婚を控えた平凡な男性が恋人とのドライブで訪れた海に既視感を覚え、可能性が有るとすれば数年前に巻き込まれた交通事故で記憶を失った数日間だが、その海で殺人事件が起こっていたことが分かり・・・というお話。
昔ラジオドラマとして放送されているのを偶然聴きましたが、本作を観て思い出しました。

・次にスリラーへ・・・

 自分の記憶と足跡をたどっていく中で主人公は、自分の夫が過去に会社経営の行き詰まりから多額の借金を追い、イリーガルな借金取りから苛烈な追い込みをかけられていたことを突き止めます。

かつて夫が経営していた不動産会社は既に蛻の殻・・・。
夫は徐々に妻が記憶を取り戻しかけているのを知り、
GPSで逐一彼女の動向を注視しています。(゜Д゜)

 一方で夫の会社が手掛けていた高層マンションの建築跡地から大量の資材が持ち出される事件が起こっており、その行方を追う刑事二人の動向も物語に絡んできます。

その捜査の一環で主人公のマンションを訪れた際に飄々としたベテラン刑事が去り際、
主人公と夫の結婚式の写真への違和感を口にするシーンの伏線がなかなかどうして巧みで…。

 捜査の結果、資材窃盗犯は別に居ることが解りましたが、件の建築跡地での殺人事件を目撃したデジャヴの記憶(オープニングの映像にも符合します)が蘇り、真相を究明すべく跡地へ乗り込む主人公でしたが・・・

なんとそこには夫が先回りしていました!!
夫に見つかり、逃げ回る絶体絶命の主人公でしたが、
必至に彼女を宥めようとする夫と対峙する中で彼女から通報を受けていた警察が到着。
彼女の断片的な記憶を頼りにセメントの中から借金取りの遺体が見つかります
果たして借金取りを殺したのは夫ジフンなのでしょうか…?

 ”借金取りからの苛烈な取り立てに耐えかねて我慢の限界に達したジフンが借金取りを建築跡地に呼び出したうえで殺害。ところが、かねてから夫の行動を不審に思っていたスジンが彼の跡をつけていて一部始終を目撃し、ジフンが口封じしようとしたところを逃げ回る中でスジンが転落し、幸か不幸か記憶を失ってしまった”と推理した刑事二人はジフンを連行し、スジンの悪夢のような一夜はすんでのところで事無きを得ました。

失意の中で自宅へ戻ってきたスジン。
とそこへ突然入ってきた男はなんと・・・・・・


・そしてラストはどんでん返しのラブストーリーへ

 明らかにスジンへの敵愾心剥き出しのその男には見覚えがあります。
 彼に殺されそうになりながら必死で部屋の中を逃げ回りながら警察に通報しますが、敢え無く殴られて気を失います。

 夢うつつの中で目覚めるとスジンは縛り上げられ、部屋中にガソリンを撒かれて今にも火を放たれようとしています。
 スジンを亡き者にしようとしている目の前の男・・・彼こそは彼女の真の夫でした。

 ここでようやく彼女の記憶が完全に戻ります。
 彼女の真の夫は不動産会社の経営に行き詰まり、上述のように建設跡地で借金取りを刺殺します。彼を不審に思って跡をつけていたスジンは彼に見つかって揉み合いになり、咄嗟に彼の持っていた刃物で彼を刺してしまいます。さらにそこに駆け付けたのが彼女の兄(ただし彼女は養子なので正確には義兄)であるジフンでした。
 怯える彼女を宥めつつ、彼女の夫が借金取りにしたように彼の遺体をセメントに埋めて隠蔽するジフンでしたが、人を殺してしまったショックで気が動転したスジンは思わず自殺を図り、止めようとするジフンから後退った結果として高所から転落してしまったのでした。
 そして記憶を失った妹スジンの罪を被り、彼女に新たな生活を用意するために海外移住の手配を進め、彼女が目覚めた際には夫として振る舞ったジフンでした。
 一方でスジンの真の夫は実は致命傷ではなく生きており、彼らが建築跡地から去った直後にセメントから抜け出して人知れず暗躍していた、という訳でした。

 その後、スジンの危機を知ったジフンは警察の隙を突いて逃走し、スジンの元へ駆けつけて彼女を火の手から救い出しました。
 ラストは冒頭と同様、スジンが病院のベッドで目を覚ましますが、彼女を庇って犠牲になったジフンの姿はそこには無く・・・。

二人の本当の関係性を知った後、中盤の二人が海で戯れるシーンを思い出すと
何とも言えない寂寥感が込み上げてきます。

 物語の半ばで主人公は女子高生が中年男性にマンション室内で襲われるデジャヴを幻視し、それが元で自宅マンション内で別の階に住む女子高生の自宅へ誤侵入してしまいます。
 そのデジャヴこそは彼女の過去のトラウマであり、孤児だった彼女を引き取った義父に乱暴されそうになった彼女を救おうと義兄だったジフンが庇い、殺めてしまった光景でした。
 一連の事件は、少年期にスジンを守るためとはいえ義父を手にかける凄惨な光景を目撃させてしまい、成人して後は悪辣な夫から身を守るために相手を殺めてしまった(実際は未遂でしたが)彼女の罪を被ることを決意したジフンの一途な愛の物語だったことが明らかになります。
 彼女を妹ではなく一人の女性として愛していたのは勿論でしょうが、幸せになれる筈の引き取り先で凄惨な事故を経験させてしまった分、なんとしても残りの人生は幸せにそして何より自由に生きてほしい、という家族愛も相当に顕れているでしょう。

 客観的には歪んで見えるかもしれませんが、まっすぐな愛情には違いありません。
 真の夫が生きていたくだりはラブストーリーとしては蛇足というか捏ね繰り回し過ぎな感はあるかもしれませんが、序盤のサスペンスを受けてのスリラー展開からの流れとしてはこの二転三転の変遷で物語が締まったようにも思います。
 ちょっと流れに追いつくのに「んっ?んっ?!」と困惑したのは否めませんが。(´・ω・`)


彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)
"まっすぐだけれども歪な愛"という意味ではこの作品に通ずることろがあるかも。
ただ、こちらの作品ほど主要人物がクズだらけではありませんのでそこはご安心を。


Ⅱ. キャストについてひとことふたこと

・スジン役 - ソ=イェジ

『不夜城の男』(2020)では水商売世界を舞台に
口八丁手八丁で成り上がる主人公のパートナー。
こういうファムファタール的な美女は切れ長の鋭い目がテンプレながら
彼女の場合はどこか柔和な感じなのでどこか親近感が有りますね。

・ジフン役 - キム=ガンウ

死体が消えた夜』(2018)
高圧的なモラハラ妻に支配された夫が入念な計画の下に彼女を殺害するものの、
その死体が突如消えてしまい・・・というサスペンス。
悪趣味な妻の悪戯に辟易する小心者の夫を力演しています。
コレも最後のどんでん返しが秀逸で、リメイク元のスペイン映画『ロスト・ボディ』もおススメ。


Ⅲ. おしまいに

 というわけで今回は最新の韓国映画『君だけが知らない』について語りました。
 韓国映画でそれもラブロマンスというと専ら女性向けのイメージが強いですが、こういう"愛する女性のために口を噤んで罪を一身に背負う男"というプロットは男性からするととてもヒロイックでカッコ良く、謎が謎を呼ぶ展開も相俟って男性にも十二分に楽しめる内容だと思います。

"キミが 涙の時には~ ボクはポプラの枝にな~る~♪" ってか。(*´罒`*)

 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




ちなみに『家なき子』でリュウを演じたワンちゃんは
"ピュンピュン"というタレント犬だったそうで・・・ふ~ん。

もしももしもよろしければサポートをどうぞよしなに。いただいたサポートは日々の映画感想文執筆のための鑑賞費に活用させていただきます。