【名作迷作ザックザク㉙】着想と思い切りは良いが展開は粗い...がそれも味か? 『勝利者の復讐』/『大虐殺』 ~「夜に香り立つ、ニヒル 新東宝の天知茂」特集上映~
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。
昨日は"一粒万倍日"だったと聞いてふ~ん、なO次郎です。
今回は都内名画座の池袋新文芸坐で先週末に催された特集上映「夜に香り立つ、ニヒル 新東宝の天知茂」の上映作品二本(『勝利者の復讐』/『大虐殺』)についてです。
これまで観てなかった二本だったうえにトークショー付きでオトク!ということでなかなかの雨が降りしきる金曜の夜に行って参りました。
で、その出来栄えについてはピンキリな新東宝映画作品ということで敢えて両作品の世評は気にせずある程度の地雷は覚悟しておりましたが、"題材的にスキャンダラスで導入も鮮烈にも拘らず途中から展開がグダグダに…"というなんとも中途半端なもので、ともあれその所感を語っていきたいと思います。
天知茂さん特集ということで、僕にとっての天知さん作品おもひでぽろぽろについても触れつつ、ということで、お好きな方はもとより往年の邦画、新東宝制作のケバケバしい映画たちについて興味のある方々に読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・"7月4日に生まれて"!!
Ⅰ. ボクにとっての天知茂さんあれこれ
私の生まれた月にお亡くなりになっているのでリアルタイムで鑑賞した作品はございません。まずもって54歳という若さでの病没・・・前述のように後年の作品を観るに二枚目だけではない役どころと雰囲気を醸し出されていただけに、もし老境に入られたらどういう姿を見せて下さっただろうかと残念無念です。
私の入居しているマンションがネットとCS一括契約の対応物件だったので何年も前から東映チャンネルに加入しているのですが、そこでヘビロテ再放送されていた刑事ドラマシリーズ『非情のライセンス』がきっかけでした。
天知さんのニヒルな美貌に眉間の皺、その顔圧で画面が保ってしまうがゆえに、作品は込み入ったトリックや複雑な二転三転こそ気迫でしたが、犯人と天知さんとの心理戦ないし心の交歓が最大の見どころだったと思います。
そしてOP/ED主題歌を担当されていることからもわかるように活動中期からは歌手活動にも注力されており、ドラマではその渋い美声が此方の子宮に響きます。
※各話のビターなエンディングにこのイントロのクラシックギターが重なるマッチング! エピソードによって歌詞が1番だったり2番だったりしました。オープニングの『非情のライセンスのテーマ』に関してはインスト曲に途中から歌が加わったという珍しい経緯でそちらも名曲。ちなみにこの「昭和ブルース」のBメン曲の「酒」もシブい名曲です。
ちなみに個人的に好きなエピソードは同第2シリーズでゲスト俳優の若き吉行和子さんとの悲恋を描いた第57話「凶悪の壁」です。
あとは『江戸川乱歩の美女シリーズ』にも手を伸ばしましたが、昏く隠微な世界観が天知さんの雰囲気に上手くマッチしていたのが何よりの成功要因だったと思います。天知さんの逝去後に北大路欣也さんと西郷輝彦さんが引き継いで結果として明智小五郎役の間口が広がりましたが、ご本人的にはやはりまだまだ続けたかったのでしょうか。
というわけで天知さんについては個人的にはテレビシリーズでの連続した、孤独なヒーローのイメージが先行しているため、活動初期の新東宝作品での冷厳な悪役や悲惨な小市民役はなんとも狐に摘ままれたような不思議な感覚があります。
有名な話として、天知さんご本人は当初から二枚目役志望だったのにキャリア初期は悪役が続いたのが大層ご不満だった、とのことでそれについては今回のトークショーで春日さんと上坂さんも触れられていましたが、それを思うと活動中期後期の作品に見入るほうが天上の天知さんご本人的には本望なのかもしれません。
が、その後年の孤独でニヒルでそしてどこかお茶目なところもあるヒーローに到るまでにはやはり新東宝での下積みあってこそ、ということで今回の活動初期の新東宝作品の感想が以下でございます。
※ちなみに叙述のオムニバス恐怖ドラマ『日曜恐怖シリーズ』はセレクション話数のみで全話コンプされてないのが悔し過ぎるので応援がてら…。
配信もされてないけど各話クオリティー高いので勿体無いのよね。(´・ω・`)
Ⅱ. 名画座特集上映からの2作品
"戦後間もない時期の第二次東宝争議の最中に誕生し、1947年-1961年の14年間に800本以上の映画を製作"という背景からしてマニア心をくすぐる映画会社ですが、大量生産ゆえの玉石混交感もまた嗜好心をそそるところで。
新東宝での天知さん主演作の名作といえば『東海道四谷怪談』『地獄』ですが、今回の2作は佳作でもないにしろ意欲作ないし野心作の類です。
※特集のアーカイブ本が有るには有るんだけど既に絶版プレミア化…kindle化してくれねぇかな。
・『勝利者の復讐』 (1958年/新東宝)
(あらすじ引用)
錠前破りの天才前島清一は、二年の刑を終えて府中刑務所から出て来た。幼稚園の雑役婦として子供の啓子を守る妻の房江は、下宿屋の由美子母娘の温かいもてなしの中で、夫を更生させようとし、前島も又正しく生きようと決心した。だが、職はなく、夫が前科者と知れた房江も解雇され、遂に昔の仲間森田を通じて、表面国際商事を経営するボスの深沢に紹介された…。
生きるのに不器用な男が再起を誓うもまたズブズブと犯罪に手を染めてしまい、それがやがて彼の妻子にも危険が及ぶ羽目に・・・というクライムスリラー。
天知さんはギャングのボス深沢とその一卵性双生児の弟の二役です。しかしながらその一人二役の特性を脚本が上手く生かせておらず、弟の目立った行動しては主人公の妻房江を暴行して自死させたぐらいで、その後に深沢が証拠隠滅のために彼を消してしまって以降はギャング一味と前島父子のよくある追走劇になってしまったのが非常に口惜しい…。どうせなら、
・前島と警察が協力して深沢一味に決死の罠を張る
↓
・その罠にかかって一件落着・・・かと思いきや、一連の犯罪が深沢かもしくはその弟による犯行によることは明らかなものの、それぞれがどちらによる犯罪なのか証拠不十分で立証出来ない
↓
・結局は二人を逮捕起訴できず、全ては深沢の計略通りに悪が悠々と逃げおおせて終幕
というように双子ゆえのアドバンテージを悪魔的に利用したピカレスクロマンに仕立てれば傑作とはならずとも秀作たり得たのではないでしょうか。
そして事件名は忘れましたが、実際に海外で一卵性双生児の兄弟のどちらの反抗か立証出来ずに完全犯罪が成立した事件が有りましたね、たしか。
・『大虐殺(別題: 暴圧)』(1960年/新東宝)
※今のところ各種サブスクでの配信は無し。
(あらすじ引用)
大正十二年九月一日、未曽有の大地震が関東地方を襲い、多くの被災者を出した。かねて社会主義の一掃を企てていた軍部は、この機を活用して目的を達成しようと図った。社会主義者、朝鮮人数百名を検束し殺害、遂には左翼の巨頭大杉栄が甘粕大尉によって殺された。--先輩の和久田に紹介され、大杉の同志になることを許された古川は、これを知ると、新聞誌者・高松、その妹で恋人の京子の言も入れず、軍部打倒のために立ち上った…。
とにかく、冒頭15分の朝鮮人虐殺の場面があまりにも明け透けで圧倒されます。大震災による不安からの流言飛語を容易く信じ込んだ民衆と、それを宥めるという目的のためになんの深謀遠慮も無く軍部が朝鮮系の人々を捕縛して銃殺し、その銃声と悲鳴が問題になると今度はトラックに乗せて河原で開放すると見せかけてまたしても銃殺と火を放っての証拠隠滅…。
肉の焦げる匂いに鼻を摘む現場の軍部高官の描写が示すように、センセーショナルな内容をただ興行収入の一点目標ゆえに採用した当時の新東宝の製作方針が想起され、ただただ啞然です。
その後はようやく地獄絵図から移行しての天知さん演じる若き無政府主義者古川の悪戦苦闘劇ですが、同志を無残に殺されて己の一方的なヒロイズムで思考を単純化・先鋭化させ、想い人をはじめとした人間関係を整理し、女を買って恐怖を紛らわせつつ決心を決め、勝ち目の無い絶望的な闘いに身を投じる・・・つまりは相手とするところが違うだけで、まるでヤクザの鉄砲玉そのものです。
トークショーではテロの軍資金集めのための銀行家襲撃の様子のチープさや、終盤の陸軍省襲撃シークエンスでの見張りの薄さにツッコミを入れてそのへんの緩さを楽しみ処に挙げられておりましたが、出自や経緯は違えど暴力装置に頼る輩が辿る道は同じ、という真理が端的に顕れているところは、本作の真面目に評価すべき点かとも思いました。
余談ながらところどころシーンが細切れなのは原版不良かと察しますが、全編通してモノクロにもかかわらず終盤の陸軍省のシーンで微妙に彩色されているように見えたのはどういう経緯なのでしょうか。
ともあれ、中盤シーンでアイマスク姿でバイオリンを奏でる天知さんが見られるのもフリーク的には有りかと。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回は名画座特集上映「夜に香り立つ、ニヒル 新東宝の天知茂」の上映作品二本(『勝利者の復讐』/『大虐殺』)について語りました。
トークショーでも触れられていました通り、近年俄かに新東宝映画作品が注目を浴びていて名画座でスクリーンに掛かる機会も大幅に増えているようでポツポツソフト化も進行中なのですが、上述のように玉石混交で作品の当たり外れが激しいこともありますので、正直なところ是非とも各種サブスク配信サービスでまとめてラインナップに加えて欲しいところであります。
※ちなみに僕のイチオシ新東宝作品はこちら。
山間の田舎町で観光に来た若いカップルの娘が相次いで失踪するが、実は山奥の部族が旧習から刀鍛冶のために若い生娘を人身御供にしていた。神社の神主が町と部族の仲裁に入るが、町の駐在所長の娘が攫われるに到って部族と警官隊とのゲリラ戦に雪崩れ込むという異色作!!
主人公の駐在警官をニューフェイス時代の若き菅原文太さんが演じています。
天知さん出演作に限らず、他におススメの新東宝作品がございましたらコメントいただければ恐悦至極にございます。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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