【最新作云々㉚】コンビニから消えたことさえ気付かれず散っていったエロ本雑誌たち... 時代の流れの中で役目を終えていく雑誌の裏で展開される歪な人間模様に新人女性が喝!!な映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。( ・_・)
KFCが"フライドチキンフェス!!"なるものを展開しててセールだったのでこないだ久々に食べて美味しかった、O次郎です。
今回は邦画の最新映画『グッバイ、バッドマガジンズ』です。
自主製作形式で制作が開始され、完成後に配給元となる日活を巡り合った、とのことで、テアトル新宿で一週間限定、それも一日一回の上映というかなり制限の多い鑑賞条件に却って興味をそそられまして、前情報無しに観てみた次第です。
2010年代にコンビニで販売された男性向け成人雑誌の編集者達をテーマにしているがゆえに業界の裏事情的な猥雑さと各キャラクターの濃さは多分に映画的というかマンガ的ながら、既にはるか昔に峠を過ぎたエロ雑誌が静かに潰えていく様を淡々とありのままに捉えた媚びの無い作風はまさに自主映画の面目躍如というところだと思います。
この手の雑誌で言うと、ゴシップ好きが高じて特に大学生ぐらいの頃には『実話ナックルズ』や『ヤバすぎる?!芸能界の闇』的な書籍をコンビニや古本屋に立ち寄った際についつい立ち読みしてましたが、そうしたサブカル誌に携わる人々の報われなさの悲哀の物語と考えるとなんとも切なくも、効率化の行き過ぎたビジネススキームの皺寄せの一景色として感じた説得力だったりなんだったりの感想を述べてみようと思います。ネタバレ含みますのでご容赦をば。
それでは・・・・・・・・・・・・"タイガーキック"!!
Ⅰ. 作品概要と各キャラクターに込められたメッセージいろいろ
2010年代ともなるとDVDはもとより動画配信も既にバリバリな時期なので素人目にもエロ雑誌は下火な時期なのは察せられますが、冒頭から既に末期的です。
部数急落による採算悪化で慢性的な人手不足による徹夜常態化のオーバーワーク、作中での「DVDに雑誌が付いてる」という揶揄のセリフに象徴されるような付録有りきによるメーカーの絶対的優位化での不自由さ、営業経費削減による独自記事の削減とチープ化、やり甲斐の無さと薄給を背景とした他者移籍や引き抜きの日常化etc…といった感じで、他の業界でも各エッセンスを置き換えればそのまま通じるような末期的ブラック状態です。
となるとそんな社内に残っているのは相当な曲者か腹黒い人か、あるいは何もかも諦めてしまった世捨て人のような人たちばかりで、活気こそ無いものの爛々とした異様なムードは醸成されており、外から見世物根性的に覗くにはなんとも面白い世界ではあります。
中でも個人的に特に印象的だったのが春日井静奈さん演じる鬼上司澤木のキャラクターです。
"自分自身でそそられるものを書け!"とダメ出ししまくって主人公(演 ‐ 杏花さん)を叱咤する姿からして若い頃からさぞ敏腕で気骨溢れていたたことを匂わせますが、主人公の配属初日に彼女に言い放った「エロ雑誌が作れればどんな雑誌でも作れる」の一言は核心を突きつつ非常に重いものです。
とどのつまり仕事内容の過酷さを評しているだけのようですが、その響きの重さに新卒社員がハートを掴まれてしまうのもなんともその実はブラックながら真実を衝いていて関心するやら辛いやらいろいろと考えさせられます。
また彼女自身、女性向け成人誌立ち上げという夢を持っているということで、"辛い現実の中に崇高な目標を掲げて頑張る"というこれまた身に摘まされる弁証法的な世渡りの知恵が観ていて厭なリアルなのですが、現実の現場取材ゆえのキャラクターの真実性の凄みの片鱗のような印象を受けました。
そしてただリアルなだけでなく笑いのセンスも秀逸というかなんとも独特であり、元スチールカメラマンのイケメン編集者向井(演 ‐ ヤマダユウスケさん)が妻帯者ながら主人公と他意無く関係を持とうとしたところに刃物を持った奥さん(演 ‐ 岩井七世さん)が世間話の如く乱入して彼を刺してしまうシーンは事態としては殺伐としながらもどうにも滑稽で笑いを禁じ得ず、観ていたテアトル新宿劇場内でも一番の笑いが起きていました。
その他、オーバーワーク的な観点では巨漢の若手編集者酒本(演 ‐ 西洋亮さん ※余談ながら僕が観た上映回終了後に劇場出入り口で丁寧にお客さんのお見送りをされていました。)も非常にリアルで親近感の湧く人物です。慢性的な業務両過多の職場では他者の仕事を引き受ける人の良い人物が割を食ってしまいますがまさに彼がその好例であり、物語中盤で彼の動画編集のミスで回収騒ぎとなってしまいますがそうした"起こるべくして起こる重大ミスが現実化することによって苦行から解放されることをどこか内心で望んでいる"というブラック現場の当事者の現実を体現する存在として彼というキャラクターに集約されていました。
編集部崩壊後にとあるコンビニで主人公と再会する店員の彼の憑き物の落ちたような清々しい彼の姿は、淡々と業界の崩壊の様を描き出している本作の中での貴重なカタルシス描写かもしれません。
そして本作で一番の発見だったのが"古株役職者の横領の動機"についての一幕。
中途採用の編集部員戸塚(演 ‐ 善積元さん)が集局局長河田(演 ‐ 山岸拓生さん)の横領に気付き、最終的にそれが原因で彼が解雇となって去っていくのですが、その去り際に横領の動機について「新しい編集社を立ち上げたかったんだ」と実にあっさりとした様子で語ります。
こうした古株の役員の背任は、てっきり薄給に見合わぬ重労働への腹いせや中年ゆえの職場と家庭のダブルストレスを受けての遊興費欲求が原因だとばかり思っていたので、こうした真っ当な理由はなんとも意外に思えました。
もちろん、大前提として横領には違いなく厳密には私的の部類なのですが、酸いも甘いも知って冒険することをすっかり忘れたであろう中間管理職の人物がそれでも世に訴えかける手段を持つために不正に手を染める、という実情に、一応のフィクションとはいえなんとも意外な内心を感じたものです。
とここまで書いてきて主人公については全く触れていないので印象が薄かったのかというとそうでもなく、確かに中盤まではゆっくりと周囲に毒されていく様に他の悪の強いキャラクターたちと比べるとパンチの弱さは否めませんでしたが、上記の動画編集ミス問題を受けてのAVメーカーから受けたペナルティーのくだりで素晴らしい気風を示してくれました。
編集部内のミスとはいえ大事な職場を撮影場所として差し出し、終始上から目線であれこれ要求してくるメーカー側に対して唯々諾々と受け容れ、あまつさえその一部始終を話のタネとして笑い合っている他の部員一同を「プライドが無さ過ぎる!!」と一喝するのです。
どんな業界のどんな職場でも決して失ってはならないモラルは若者こそが弁えている…そんな真理を体現するキャラクターだったのではないでしょうか。
Ⅱ. おしまいに
というわけで今回は邦画の最新映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』について語りました。
こうして内容を振り返ると、社内の人間模様の典型の標本のような感じもあって、それが作品全体のシニカルさにも繋がっていたのかとも思います。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。
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