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製茶の科学【お茶師日記5】

 2019年5月1日

新茶本番
 茶工場が本格的な稼働に入りました。
 日本の煎茶の加工とは、簡単に言うと「蒸した茶葉を形を整えながらひたすら乾燥させる」ことです。江戸時代に開発されたこの製法が、明治になって製茶機械が開発され手作業から機械製造へと移行しました。

製茶を科学で裏付けた人

 現在の製茶機械も基本的な構造は当時から変わっていません。製茶機械の操作技術も経験と勘で伝承されてきました。
 この製茶工程を科学的に理論づけたのが、静岡県の茶業試験場の研究員であった柴田雄七氏です。私も直接教示を受けたことがあります。彼は、製茶工程を熱力学や乾燥工学で理論づけ、数値化しました。俗に「柴田理論」と言われ、その根幹をなすのは、製茶中の「茶温の適正な維持」と「恒率乾燥」です。
 製茶機械の構造は変わっていないと書きましたが、もちろん動力や熱源、センサー、制御装置などは進歩してきました。

お茶は機械が作るのか

 ならば柴田理論に基づいてプログラムすれば、機械がお茶を作ってくれるはずです。
 確かに基本的にはそうです。多くの茶工場では、特に盛期ともなれば、基本な設定をしたら、あとの制御は基本的に機械に任せて、時々調整しながら効率優先でどんどん葉っぱを流すということになります。我が工場には120キロラインと180キロラインがありますが、180キロラインはそのような、自動制御で量をこなせるラインであり、荒茶で市場出荷するお茶を作るラインです。
 しかし、やはり生葉は時期や環境条件によって異なるし、生産目的によって、アレンジが必要なので、工程中に茶葉の温度や水分状態を、随時手触りで確認し、その状態を見て、経験から温度や回転数、風量などを調整する必要があります。特に小売りしている生産者は、日毎、畑ごと、品種ごとに設定を変えて、丁寧な商品作りに努めます。もう一方の120キロラインはそのようなお茶づくりを目的とした機械設備であり、個別のブランドで製品を販売している生産者が自分の生葉を持ち込んで荷口ごとに製茶したり、小さな荷口を受託加工することを想定したラインです。そして私が主に担当するのがその120キロラインです。
 このラインはもともと、別の工場で彼らが使用していた古い機械を移設したものなので、粗揉機以外は自動制御がありません。したがって中揉機では、茶葉の乾燥具合を見ながら、インバーターのダイヤルを操作して風量を徐々に低下させ、茶葉の温度を感触で確認しながらガスの栓をひねって炎を調整しなくてはなりません。また、精揉機も火炉のバーナーに自分で火を点け、釜の温度計に合わせて炎を調整しなくてはなりません。
 なぜ、そんな古い機械を使っているかといえば、やはり慣れているし、葉に合わせた細かな調整が利いて、丁寧なお茶づくりができるからです。

#茶工場 #日本茶インストラクター #お茶師


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