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【お茶師日記6】毎日が失敗

2019年5月8日

 ここで製茶の仕事を始めてから一番の、大きなミス(お茶の製造上の失敗)をしてしまいました。
 今までもちょこちょこと小さな失敗はありましたが、影響が小さいか挽回可能な程度でした。しかし今回は大きなミスです。
 茶工場では、毎日のようにトラブルが起きます。それは「機械の不具合」と「人為的ミス」のどちらかが原因です。そしてトラブルやミスが一つ起きると、それが次のトラブルやミスを生み、連鎖的に拡大することが多いのです。
 機械の不具合でよくあるのは、茶葉の搬送のトラブルです。「蒸し機から茶葉が排出されていない!」、気がついて確認すると、蒸し機への投入機に生葉が詰まっていたりします。
人 為的なミスで常に起こるのは、ある工程で熱風量が多すぎたり温度を上げすぎたり、もしくは取出しが遅れて、乾燥しすぎてしまった、というものです。逆に、乾燥不足とか、早く出しすぎてしまった、とかであれば次の工程で修正できますが、工程を進めすぎてしまうと、修復不可能な場合が多いです。

 この日は工場へ入ると、社長が「120キロ機で3つ製茶しておいてね」と指サインで示しました。すでに1ホイロ目が揉捻機に、2ホイロ目、3ホイロ目がそれそれ別々の粗揉機に入っています。
 3ホイロ程度なら120キロの非自動化ラインでも1人で回すことはそれほど難しくありません。特に最初のうちは楽です。粗揉機は手触りで時間とともに風量を調整する必要がありますが、揉捻機は設定時間が来たら取り出せばいいです。中揉機に入ったら、手触りを確認しながら風量とガスの炎を絞っていきます、1つ目が中揉機、2つ目が揉捻機、3つ目が粗揉機というくらいなら、中揉機と粗揉機を交互に見ながら調整すればいいのです。
 問題は精揉の工程に入ってからです。このラインの古い精揉機は、16口のガスのノズルに手作業で点火し、中揉機から取り出した「中火茶」を8つの釜に目分量でこれも手作業で分配投入し、温度計を見ながらガスの炎の調整をしなくてはなりません。慣れない私は投入と温度調整に非常に手間がかかります。ガスのノズルは炎を絞りすぎると失火してしまうし、炎が大きすぎると茶温を上げてしまいます。
 このときは、1ホイロ目を精揉機に投入し、2ホイロ目を揉捻機から中揉機へ搬送して、精揉機の火と加重を調整しました。さて、と中揉機に手を入れると、ん?カラです! 別の中揉機だったかな?と慌てて残り2基の中揉機を確認しましたがが、どちらもカラです! ん? いったいどこへ? 焦ります! 確かに3つ揉んでいました。一つ目は精揉機に入っているのが見えます。そして3つ目が揉捻機で回っているのが確認できます。ちょうどそこにいた農家の人に声をかけ、一緒に探してもらうと、投入したはずの中揉機の下のコンベア上にごっそりと茶葉が落ちているではありませんか。なぜ勝手に排出されたんだ? あわててコンベアを操作して再度中揉機に投入します。とりあえず一安心して、他の機械を確認し、しばらくして再度先ほどの中揉機に手を入れてみると、うわ!すでにガサガサに乾いてるじゃないか!あわてて中揉機から排出します。ちょうど社長が通りかかって「こりや乾きすぎだ、精揉ですぐ(分銅を)引いて!」。
 精揉機でリカバーすることができるでしょうか。精揉機へ投入し、すぐに分銅を引いて加重をかけ、様子を見ます。釜によっては若干柔らかさがあります、どんどん乾いてしまう釜もあり、茶温も高すぎます。社長がまた通りかかって来て「この窯、量が少なすぎだ!」
 慌てて精揉機へ配分したため、量をしっかり見なかったのです。そもそもの量が少なかったのです。社長が一部の釜を休止し、取り出して他の釜へ配分します。
 結局、リカバーできず、何とも形の大きい、艶も伸びもないお茶になってしまいました。

 冷静に考えてみると、2ホイロ目はすでに粗揉機で乾かしすぎていて、中揉機では、水分センサーが働いてすぐに自動的に排出されたらしいのです。それをわざわざ、また入れ直して乾かしてしまったわけです。
 さらに、慌てたために精揉機の温度の確認や量の配分が適正にされなかったのです。
 そのお茶は「かぶせ茶」で、力の入った商品になるはずだったものでした。損害はいくらになるのだろう。もしかしたら「もう来なくていいよ」と言われるのでは。などと不安になりました。
 その日の帰り際、社長に謝ると「何かあったら慌てないこと。ミスがミスを生む。まあケガがないことが一番だ、早く機械に慣れてね」と帰り際に言ってくれましたが、大きく落ち込んで帰りました。
 それからも毎日、「今日は失敗のないようにしよう」、と注意しているはずなのに、その後も毎日いろいろな失敗を重ねています。

#茶工場 #お茶師 #日本茶インストラクター


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