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東京少年倶楽部

 2023年2月3日 新代田のライブハウスFEVERにて開催された、Cody・Lee(李)×東京少年俱楽部 presents「GARAM MASALA FIGHT CLUB」をもって、東京少年倶楽部のギター、Gyaryが脱退した。この対バン帰りの満員電車で浅く呼吸をしながら、17歳の女子高生が先ほど摂取した高揚感だけを頼りにがむしゃらにこれを書いている。ライブ中に大号泣をかまして、離脱したマスカラが目の中に入ってしょぼしょぼするけれど、熱が体から消えてしまう前に残しておきたい。なぜなら、Gyaryという女性をただ愛しているから。これは、東京少年倶楽部、並びにGyaryへのラブレターである。

 わたしが東京少年倶楽部に出会ったのは、「夢中飛行」のMVだった。すぐに東京少年倶楽部のサブスクやYouTubeにある楽曲を全て聴き漁って、メンバーのSNSも貪るようにチェックした。そこでは、わたしが17年間持ち続けていた理想の女性像が、そのまま具現化してギターを持っていた。それが、わたしとギャリちゃんとの出会いだった。
 初めて行ったワンマンライブ「Fanclub」にて、わたしは人生でいちばんの圧倒的な衝撃を受けることになる。小さいライブハウス特有の醜い振動と質の悪い音を介して、彼らが届ける音楽に涙が出た。感動してただひたすらに衝撃を受けて圧倒されてワクワクして、複雑な感情が入り混じって涙が出た。「届け!」と叫ぶ幸太郎くんが投げたピックが手元に舞い降りてきて、この世にもし運命の赤い糸があるとするならば、わたしと東京少年倶楽部の運命の赤い糸はこのピックであったと思う。彼らが届けたい音楽を、届ける音楽を、届けようとしなくとも内に秘めた絡まり合う想いを、全て受け取りたいと思った。わたしは元々バンドマンがクサい台詞を言う時間が恥ずかしくて大嫌いだったのだが、幸太郎くんはそのような言葉を惜しまずたくさん言う人だった。でも幸太郎くんの言葉はなんだか違って、幸太郎くんが燃やす闘心や自身の葛藤から得た知見をスッと受け取ることができて、純粋に明日も生きてみようと活力に変換される、そんな言葉だった。理想の女性像の具現化であるギャリちゃんが心からの笑みをこぼしながら鳴らすギターに、言葉は到底いらなかった。わたしの眼球に映る1人の人間に、たまらなく惹かれて、虜になった。歌の配分も少ない、MCでも率先して話をしない彼女だが、ギターの弦だけで優しさや熱量や、純粋な楽しさを十分に伝えてくれていた。
 そこから東京少年倶楽部が行うライブは行ける範囲ならば全て行った。元々バンドや音楽をこよなく愛していたけれど、こんなにライブに通い詰めたバンドは東京少年倶楽部が初めてであった。苦しくてどうしようもなくくだらない泥沼の人生の中で、唯一彼らの音楽の前では素直でいられた。頭で考える前に右手の拳が振り上がって自然と笑みが溢れて涙が出る、そんなことを繰り返した。ベース三好空彌の「孤高のラジオ」では名前を呼んでほしくて、わざとラジオネームを本名にしてDMを送った。東京少年倶楽部がきっかけでバンド用のTwitterのアカウントを作って、事あるごとにツイートをして、東京少年倶楽部公式やこましゅんや空彌くんからいいねやリツイートを貰うたびにスクリーンショットをしてお気に入りに設定した。眠くて布団から出られない朝も、好きな人と付き合った夜も、学校に行きたくないバスの中でも、ライブへ向かう電車の中も、彼氏と別れた夜も、お風呂の中でも、寝る前も、どこでだって東京少年倶楽部の音楽を聴いた。幸太郎くんがライブで毎回言ってくれる「届け!」という叫び声が蘇って聴こえてきて、音楽と叫びに乗せて自分を応援してくれる。とりあえず今日くらい生きてみようよ、というなんとも大雑把で適当な最上級の優しさを摂取してなんとか今日まで生きてこれた。心が挫けて諦めてしまいそうな時、ギャリちゃんを思い出して向上心を呼び戻した。ギャリちゃんみたいな魅力的でお茶目でパワフルで可愛い女性になるのだと、また足を前に進めることができた。
 そんな生き甲斐としてきたギャリちゃんが1月28日突然、2月3日のライブで脱退すると発表した時、そしてメンバー3人がギャリちゃんに対する感謝や愛を綴る中で、わたしは全く受け入れることができなかった。当選して良かったと過去の自分にとても感謝をしたし、同時にもうあの輝かしい空間で世界一のギタリストは見ることができないのかと想像したとき、本気で絶望した。ギャリちゃんの脱退理由や今後の活動は今尚公開されていないがために、ギャリちゃんが表舞台からさえも消えてしまうのではないかと、色んな予測が頭をよぎってまたまた涙が出た。
 そうして迎えた2月3日、とても気が重くて行きの電車で初めて、東京少年倶楽部の曲を聴けなかった。でもわたしが今まで受け取ってきた溢れんばかりの愛と力を、今日こそ素直に渡してみようではないかと、初めてバンドマンに手紙を書いて、初めてプレゼントを買った。紙袋を膝に乗せて揺られる電車の中で耳から流れる東京少年倶楽部ではないバンドの曲は、好きなはずなのに全く頭に入ってこなかった。ただ今日のライブが始まって、又は終わってしまうことへの恐怖感だけを抱いていた。
 4人体制最後のライブ、場所運が悪過ぎて全然見えなかったけれど、時々見えるギャリちゃんの目が潤んでいた。なんだかいつもより笑顔が少なくて、Codyのファンが多かったから拳を振り上げる人が特に前の列の方にはあまりいなくて、最後に見せてあげられる景色がこれなのがすごく申し訳なかった。「I hope I die before I get old」や「Mary」のギャリちゃんのコーラスで、これからはこのコーラスを他の人がやるのだと想像して、涙が止まらなくなった。終盤のMCでやっと幸太郎くんがギャリちゃんの脱退に触れて、彼があまり「永遠」という言葉を使わない理由と、その代わりに「またね」を使うのだということを話した。幸太郎くんはいつもより元気がなくて、こましゅんは全く見えなかったけれど、空彌くんも涙を拭っていた。その後ギャリちゃんはお茶目に泣きながら、脱退理由や今後の活動には触れずに話をした。わたしはギャリちゃんがギャリちゃん自身の話をするのを初めて聞いたから、そこで脱退を改めて実感して、またまた涙が止まらなくなった。「わたしはいつも不安を持ち合わせている人間なんです」と語る彼女に変な親近感を覚えて、ああ、語ることが少ないのに優しさや力が伝わってくるのは、彼女が不安を持ち合わせながらもステージに立ってくれていたからなのだと分かった。「今までぼーっと生きていて、顔がかっこいいとかそういうところが大事だと思っていたけど、本当のかっこいいは心の奥のところだということを東京少年倶楽部が教えてくれた」とギャリちゃんは語る。続けて、「この結果の後ろにあるものたちが運命なのだと、ぼーっとだけど思います」と幸太郎くんは俯きながら話した。この結果がギャリちゃんや残された3人にとって良い結果なのか、良い方向に作用するのかは全く分からないが、ギャリちゃんの脱退によって、お互い本当に大きな損失をして、そして本当に大きなエネルギーを使って無理矢理にでも新しい方向を目指しているのだなと思った。
 泣き過ぎてボロボロになった後でも、全力でCodyを楽しんでいる間は忘れることができた。Codyのアンコールが終わってFEVERの明かりがついた時、また現実に引き戻されて涙が出そうだった。
 紙袋を持ってギャリちゃんを待つ。出演者スタッフ用入り口からゆりちゃんと出てきてくれたギャリちゃんを見た瞬間、悲しさや寂しさはまるで元からなかったかのように吹き飛んで、ただ興奮して、列に並んでいる時から体が落ち着かなかった。ライブハウスのスタッフさんがもう帰って下さいと言う中でも、ゆりちゃんが交渉してくれて、またギャリちゃんはライブ後疲れているだろうに1人1人に丁寧に、とびきり元気に対応してくれた。「Fanclub2」で買ったキーホルダーの裏に名前入りのサインをしてくれて、ツーショットを外カメラでも内カメラでもしてくれた。別れ際手をぎゅっと握ってくれて、涙が出そうだったけれど我慢した。幸太郎くんの言葉を思い出して、「またね」と言って別れた。外に出て振り返って、ガラスの扉越しに見えるギャリちゃんにもう会えないと思うと、ここから動きたくなくなってしまうけれど、「私も東京少年倶楽部のライブにまた来ます」というギャリちゃんの言葉を脳裏で繰り返して、下北沢駅への暗い住宅街を歩いた。

 どうしようもない日常の中で縋る光が消えてしまっても、その光が残してきた痕跡は消えないから、その跡を触って舐めて確かめて、そうやって生きていくしかない。「自分と向き合い続ける 見せかけの派手より受け売りの思想より脆すぎる流行りより、遺すことだけ考えてやってるバンドです」という「Fanclub2」の幸太郎くんのストーリーがまさにそうで、東京少年倶楽部は間違いなく遺せている。光の痕跡を辿った先が何であろうと、東京少年倶楽部が、またGyaryが遺してきた音楽は、言葉は、魂の叫びは、光り続けるのだから、それぞれがそれぞれらしく向き合い続けて、その先でまた交わることができたら1番良いと思う。間違いなく世界で1番愛している女性であるギャリちゃん。わたしのロールモデルのギャリちゃん。あなたのギターと声と笑顔と今日までファンに届けてくれた愛と力は、あなたがGyaryを脱いでも輝き続けます。幸太郎くんの持論に基づいて、「永遠」は極力使いたくないけれど、ギャリちゃんにだけは惜しみなく使いたいな。永遠に愛しています。ギャリちゃんの幸せと笑顔を願って、輝くこれからをいつまでも応援しています。今までありがとう。またね。


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