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わたしってだいぶラブリーな女なんですという話

 わたしってだいぶラブリーな女なんです。わたしのラブリーさを100として、100分かっている人間はこの世にもあの世にもいないでしょう。わたし自身もわたしのラブリーさを100分かっていないのです。残りの人生で分かりきれるといいなと思うけれど、ラブリーさが年々増築していって結局分かりきれずに死んでゆくと思います。
 なぜ急にこんなおかしなことを言い出したのかと言うと、わたしはあまり長生きしなさそうだと思うからです。事故なのか事件なのか、自殺なのか他殺なのかはまるでわからないけれど、自分がお姉さんになっておばさんになっておばあさんになって、或いはお母さんになっておばあちゃんになる未来が見えないのです。未来のことを考えてもわたしは生きていない気がするのです。だから自分のラブリーさが増築されているうちに、残しておこうと思います。

 まず、常に足の爪が赤いところ。手の爪はころころ色や質感が変わって、時には素爪になりますが、足の爪は必ず赤く保ちます。365日中360日くらいは靴下や靴で隠れてしまうから他人に見られることはないのだけれど、これがわたしのお守りではあるのです。どんなに酷い目に遭ってもわたしの足の爪は赤いのだと、誰かを殺したいと思いながら湯船に浸かって涙が出た時、湯船の底で水を介してぼんやりと赤い丸が10個ほど見えたら、少しだけ救われるのです。わたしはまだまだ生きてゆけると思えるのです。

 次に、白のボアのスリッパを使っているところ。どうもフローリングの床と相性が悪くてよく滑ったり転んだりしますが、お洒落は足元からと言うでしょう。客観的に見て、かわいいスリッパを履いてかわいい生活を送るかわいいわたしが好きなんです。

 もっともっとあります。映画に影響されがちなところ。怖い思いをしたり悲しい思いをした時は、必ず500mlの午後の紅茶を飲むところ。嬉しい日は星乃珈琲のストレートティーを飲みに行くところ。人前では勉強している素振りをまるで見せないのに、家ではずっと勉強しているところ。よく1人で泣いてしまうところ。かわいい女の子やファッションの写真だけを載せるSNSのアカウントがあるところ。ベビーフェイスなところ。週に2回本屋に行くところ。お風呂の鏡で絵を描くところ。独り言が多いところ。部屋の壁一面に写真やステッカーやポスターが貼ってあるところ。前歯が1mm欠けているところ。ぬいぐるみを抱いて寝るところ。意外とスタイルが良いところ。良い匂いがするところ。普段声が低いのに歌うと声が高くなるところ。棒状の物を持つと小指が少し立ってしまうところ。メイクが可愛いところ。ツイートがおもしろいところ。

 こんなにラブリーだラブリーだと自己肯定が過ぎるではないかと咎められるかもしれませんが、わたしは意外と自己肯定感が高くはないんです。冗談じゃないよ。自己肯定感が高い振りをしているんです。自分のことが好きで、自分はかわいいと愛している振りをしているだけなんです。それをしていると、無理矢理すぎて心臓がギュッと動くことを拒むけれど、そうしないと死んでしまうでしょう、死ぬのは怖い。怖い思いをすることは怖いけれど、死ぬことはもっと怖い。見えない未来が教えてくれる漠然とした死に鈍く追われながら毎日怖くて、それと同時に憎い人間を今にも殺してしまいそうな衝動によく駆られてしまって、それが来る前に死が追いついてくれたなら良いのだけれどでも、でもやっぱり死ぬのは怖いから、身体が拒んでも心臓が拒んでもわたしが拒んでも、わたしはわたしを満足させなければいけないんです。わたしは17年間生きてきて何事においても満足したことはないし、誰かに満足させてもらった経験もないから、どうにか我儘なわたしを満たしてあげようと努力しているんです。その第一歩が自己肯定感の偽装なんです。この文章も、偽装の証明書なんです。そんな偽装もラブリーです。わたしの顔も身体も声も部屋も性格も生活もぜんぶぜんぶラブリーです。誰がなんと言おうとラブリーです。

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