マガジンのカバー画像

オーガ姫

18
運営しているクリエイター

#ファンタジー小説部門

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(2)

2話 思いがけない求婚

 ヘザーは、体は大きいが、顔つきは10歳だ。

 だからこうして近づいて顔をつき合わせれば、余計にその不自然さが際立つ。

「すみません、お目汚しを……」

 慌てて、頭を下げたヘザーだったが、アルフォンソはそれを遮った。

「ねえ、お名前は何て言うの? 僕はアルフォンソだよ」

「オルコット王国のヘザーです」

「ヘザーはとても背が高いねえ! 僕、大人の人だと思っていた

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(3)

3話 6年後の招待状

 あのお茶会から6年が経ち、ヘザーは16歳になった。

 その間に、10歳年上の一番目の姉が国内最強の辺境伯家から婿をもらって、8歳年上の二番目の姉が豪商でもある公爵家へ嫁いだ。

 ヘザーは三女ということもあり、婚約者も作らず、のんびりと日々を暮らしている。

 

「やっぱり生まれ育った国が落ち着くわ。民はこんな私をオーガ姫と慕ってくれるし、お父さまもお母さまも、お姉さ

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(4)

4話 傾いていく心

「ヘザーさえ良ければ、ウルバーノに乗ってみない?」

 構ってもらう順番待ちをしていたウルバーノを、ヘザーが両腕を伸ばして撫でていると、アルフォンソがそんな提案をしてきた。

 首回りをわしわし掻いてもらってご機嫌なウルバーノには、確かに鞍のようなものがついている。

「乗れるんですか?」

「ヘザーを驚かせようと思って、内緒で訓練していたんだ。この国境にも、ウルバーノに乗っ

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(5)

5話 可愛いには勝てない

 こうなることを全く予想していなかった訳ではない。

 むしろアルフォンソに会うまでは、可能性が高いと思っていたくらいだ。

「アルフォンソさまの幼馴染に、あんなに可愛い人がいたなんて」

 透き通った青い瞳は凪いだ海のようで、金糸と見紛う髪が美しく輝くカサンドラ。

 ヘザーの力強い意志を感じさせる黄金の瞳と、針葉樹のような深緑色の髪に比べ、柔らかな色合いが際立ってい

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(6)

6話 大きいもの愛好家

「ちゃんとした飼い主かどうか、見極めるために?」

「実はウルバーノは、私の愛犬アビゲイルの弟なのです。両国の友好の証として、6年前にガティ皇国からメンブラード王国へ、ウルバーノを進呈しました」

「フェンリルの血が流れている犬が、他にもいるんですか?」

 ヘザーは衝撃を受けた。

 あんなに大きな犬が、そんなにあちこちに存在しているなんて。

 オルコット王国にはいな

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(7)

7話 深い絆で結ばれて

 滞在して数か月が過ぎた。

 数日おきに行われる試験に、ヘザーは合格し続けている。

 最初こそ簡単な筆記試験だったが、数回目の他国言語の試験で、メンブラード王国内の候補者がかなり減ってしまった。

 試験を通過できなかった候補者たちが、仲良くなったヘザーにも挨拶をして城を去っていく。

 それがヘザーには寂しかった。

 

 オルコット王国を旅立ったときは、まさかこ

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(8)

8話 月明りの下の逢瀬

「何なんですか?」

「ヘザー?」

「夜中にこっそり来るとか」

「ごめん」

「これ以上、私を翻弄しないでください」

「ヘザー?」

「アルフォンソさまの気持ちは、カサンドラさまにあるのでしょう?」

 ついに、ずっと心の中に押し留めていた感情が、顔を出してしまった。

 

「手紙に『僕のお嫁さんになって』と何度も書いておきながら、ちゃんと恋人がいるじゃないですか

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(9)

9話 真正面から行く

「ヘザーさま、こちらにいらしたのですか?」

 共同施設の図書室にいたヘザーを見つけ、マノンが声をかける。

 読んでいた本から顔を上げると、ヘザーは近くまで来たマノンに微笑む。

「次の試験のためになればと思って、いろいろな資料に目を通していました」

「熱心ですね。最終選考が近くなって、試験もずいぶん難しくなりましたよね」

 顎に手をやって溜め息をつくマノンだが、実は

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(10)

10話 ヒールで全力疾走

「よろしければ、今のネイトさまの近況などを、お聞きしても? その……まだ婚約者は決まっていませんよね?」

 これはもう決定打だろう。

 カサンドラは、マノンの従兄ネイトに恋をしている。

 やや鼻息を荒くしたマノンが、前のめりになって答える。

「もちろん、まだ決まっていません。ですが、そろそろ候補者を絞る時期に来ています」

「ネイトさまは、どなたかと心を通じ合わ

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(11)

11話 納得いかない顔

「コルネリア、あれほどヘザーさまに無礼を働いては駄目だと教えたのに、まだ分かっていないの?」

 ゆらりとカサンドラが立ち上がった。

 ビクッと怯えながら、それでもコルネリアは声を張る。

「だって一位はカサンドラじゃない! このまま王太子妃になるんでしょ!?」

「ならないわよ、わたくしは他に想う方がいるのだから」

「え!? そんな話、聞いてない!」

「言っていな

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(12)

12話 女子限定お泊り会

「良かったですわ、アルの説得が上手くいって」

「ヘザーさまは強くて優しくて素晴らしい王太子妃になれますよ!」

 国と民に認められる王太子妃を目指して頑張ると宣言したヘザーを、カサンドラとマノンが拍手をして称える。

 これであとは国王陛下が裁可すれば、アルフォンソの婚約者はヘザーに決まりだ。

 そもそもアルフォンソに甘い国王陛下が、ヘザーを拒むとは考えられない。

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(13)

13話 正しくない使用法

 ヘザーは部屋の外に出て、左右へ長く続く廊下を見やる。

 この離宮の中の、ほとんどの人が眠ってしまったのか、物音ひとつしない。

 もしヘザーの耳が何の音も拾わなければ、いよいよ医師と騎士を呼びに王城まで走ろう。

 そう思って呼吸を止め、聴覚に意識を集中する。

 耳殻に手のひらを添え、少しの音も逃さぬよう、全方向へゆっくりと身をひねり、耳をそばだてた。

『ヒヒー

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(14)

14話 名探偵、現る

「ラモン公爵が怪しいと思う」

 唐突にそう語り出したのは、メンブラード王国の国王だ。

 ここは騎士団長の執務室で、アルフォンソは捜査内容を打ち合わせるために、いつも早朝から訪れている。

 そこへ連絡もなしにいきなりやって来て、国王が自分の推理を披露し始めたのだ。

「父上、それは何か理由があっての考えですか?」

 捜査の指揮を任されているアルフォンソは、資料を手繰り

もっとみる

先祖返りでオーガの血が色濃く出てしまった大女の私に、なぜか麗しの王太子さまが求婚してくるので困惑しています。(15)

15話 離れ離れになっても

 道中、大きな問題もなく、ヘザーはオルコット王国へ帰ってきた。

 最後の逢瀬となった、あの夜のアルフォンソを時々思い出しては、懐かしがったり寂しがったりしながら。

 城に着いてまず出迎えてくれたのは、姉たちだった。

 背丈はヘザーの肩あたりしかないけれど、強く美しく逞しい自慢の姉たちだ。

 親愛の意味を込めてバンバンと背中を叩かれ、父と母が待つ私室へと一緒に向

もっとみる