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 今日は家族旅行で秩父に来ている。
 旅館の部屋が端っこで、Wi-Fiも届かないし4Gもないので今日あったことを書くことにした。

 旅館について夜ご飯を食べてから、夜21時ごろに温泉に入った。ほとんど人はいなくて、俺以外にはどうやら同団体の大人2人と子どもが1人だけだった。16時に1度、別の温泉に入っていて、その時に頭や身体は洗っていたから、軽く身体を流して露天風呂に入る。しばらくすると、同じくそこに浸かっていた大人の1人が立ち上がって、露天風呂から外を見始めた。俺はその人の方を見ないようにして、空ばっかり見ていたけど、やっぱり何が見えるか気になったので
「そこから何が見えますか」と訊いた。

「星が見えます」

俺は裸眼の視力が0.2ほどしか無くて、コンタクトも使わないし眼鏡も持ってきていなかったので、あんまり、というか殆ど見えなかった。それよりも、下の方に何が見えるかを教えて欲しかった。なんとなく体裁が悪い気がしたので、
「どこから来たんですか?地元?」と訊く。
普通に考えて人は地元の旅館に泊まらない。
「全然違います。東京から来てて、ここはやっぱり田舎ですね〜、あなたはどこから?」と返事。
「僕も東京からなんです。でも、西側だからこことそんなに変わりません。」と答えた。
「立川とか?」
「まあ、そんな感じです…」

全然違う。


 間


 子どもが露天風呂に入ってきた。俺と会話していた人に、「温泉の人と仲良くなったの!」と言っていた。それから、子どもがどうやら見えているらしい冬の大三角形について話し始めた…

大三角形といえば、俺がまだ小学3年生とかの、まだ毎年家族旅行に行っていた頃に行った長野県の星を見るツアーで見たのも、同じ大三角形である夏の大三角形だったことを思い出した。あの頃は視力も良くてよく見えた。学校の理科の授業では"夏の大三角"とそれのことを呼んでいたから、星を解説している人に、
「"夏の大三角形"ではなくて、"夏の大三角"と呼ぶべきでしょう。」と言ったのを思い出した。
今の俺なら絶対に言わないし、もうその星達は肉眼では見えない。

 …小さな博士が言う冬の大三角形を構成する星の名前は、どれもどっかで聞いたことあるな〜レベルになっていた。博士は話し続ける。次は今見えているらしいオリオン座の話。でも冬の大三角形と違って等級が違うからそんなによくは見えないらしい。俺は、目を凝らせばギリギリ冬の大三角形は見えるかどうかくらいの視力なので、内心諦めつつも解説に耳を傾け、空を見上げ続けた…

 やっぱり全然見えなかった。

博士は次に問題を出し始めた。
「夏の大三角形は、ベガ・アルタイル…」

(きた!!俺は"夏の大三角"には詳しいのだ。
この流れだと残りの一つを聞くだろう。つまり答えはデネブだ!!)

…でも俺はもう大人なので、最後まで問題を聞くことにした。

「…デネブで構成されていますが…」

終わった。

「…デネブと太陽とはどちらが大きいでしょうか?」

問題を最後まで聞いてよかった。この答えは全くわからないが、恥をかかずに済んだから。

大人が
「デネブかな?わかんないよー」
と答えていた。
俺は黙って空を見上げ続けた。

「正解!デネブの方が太陽より大きいのです」

そうなんだ。でももう最後にデネブを見たのはいつだろう。俺はなんか面白いことを言おうとしていたが、2人は立ち上がって、中に戻っていく。

「お先に失礼します。」
と大人が笑って俺に言った。
「おせわになりました。」
と博士。

「ははは……」
俺。

お先に失礼しますと言われてしまったから、早く戻るわけにもいかず、限界まで空を見ながら露天風呂に浸かっていた。


 間


 そろそろ限界がきたので立ち上がる。さっき大人が「星が見えます」と言っていた場所に立つ。


 冬の大三角形もオリオン座も見えた。



 こんなに上を見上げていたのはいつぶりだろう。


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