文章を書く時のおまじない

卒論を執筆していた時にゼミの先生からいただいた言葉を、ふと思い出した。

私は大学時代、「日常生活の社会学」というテーマのゼミに所属し、「ジャニーズとそのファンについて」という内容の卒論を執筆した。

「身の回りにあるもので、自分が興味のあるテーマについて研究するゼミ」だったのだが、その自由度の高さゆえになかなか執筆テーマが定まらない学生もいる中、私は早々に執筆テーマを決定し、資料集めや文章の構成を考え始めていた。
執筆テーマを決定し…というか、そもそも大学に入学する時から「自分の好きなジャニーズを社会学的な視点から研究したい」という思いを抱いていたので、ゼミに入るずっと前から既に決定していた、とも言える。

それでも、卒論を完成させていく過程で悩み、壁にぶち当たった。
研究テーマが自分の好きなものだからこそ思いも強いし、ちゃんと書きたいという気持ちがあった。自分の脳内にあるイメージがなかなか言語化できなくて、手書きのメモとWordをいったりきたりしながら悶々とすることも幾度となくあった。

そんな中、ゼミの先生からいただいた言葉で印象に残っているものがある。

「にょんさんが見てきた世界を書けばいいんだよ」

私は卒論を通して、ジャニーズの本当の魅力を皆に知ってほしかった。テレビで観ているジャニーズの世界と、実際に現場(※1)に足を運んで観るジャニーズは、結構印象が違う。色んなジャンルの歌、ダンス、アクロバット、映像や照明の演出…「こんなにすごいの!?こんなに色んなことできるの!?」とド肝を抜かれる。かれこれ10年ジャニーズの現場に足を運んでいるが、未だに毎公演そう思う。

それと、「ジャニヲタはイケメンを追いかけることに勤しむ人たち」というステレオタイプな世間の目。これにもずっと納得いかなかった。確かにイケメンは好きだ。そこは否定しない。日常生活の中でも、ちょっとかっこいい店員さんがいるとすぐロックオンしてしまう。軽率に笑顔が3割増になる。
でも、ただ「顔が良い」だけで5年、10年と1つのものを追いかけ続けることなどできない、というのが私の持論だ。アイドルの個々のキャラクターだったり、それらが合わさって絶妙なバランスで成り立っているグループの魅力だったり、表に出ている「顔」よりもっと深いところに、追いかけ続けたくなる要素というものがあると思っている。

上記のことを、卒論を通して伝えたかった。ジャニーズは顔だけじゃないこと、1人1人が強い思いを持って「表現」と対峙しているエンターテイナーだということをきちんと論理的に証明したかった。

ただ、「論理的な文章であること」に執着しすぎるあまり、タイピングの手が止まってしまうことが何度もあった。自分の感覚的にこれは事実だ、でも他人を納得させられる客観的資料が見つからない…。
私の掲げた「ジャニーズとそのファンについて」というテーマは、そもそも文献や論文など、引用できる先行研究資料が少なかった。特に、「ファン」の部分については。それだけ、明文化されていない世界なのである。
書こうとすること全てに、その裏付けとなる証拠を求めてしまい、文章を書くことが苦しくなっていた。

そんな時に先生から言われたのが、「にょんさんが見てきた世界を書けばいいんだよ」

あぁなんだ、思ったまんま書いていいんだ。
とりあえず根拠はどうでもいいから、自分が読者に伝えたいことを書き出してみよう。
そうやって文章を作っていくと、自分の中にはこんなにもジャニーズについて思うことや伝えたいことがたくさんあったんだ、と改めて気づかされた。

「にょんさんがそう感じたなら、それが正解だ。だってこれはにょんさんの論文なんだから。」
先生から、そんなようなことも言われた気がする。言われてないかもしれない。でも私は、先生の伝えたかったことはそういうことだと思っている。
正直それまでは、自分の感覚や思いを溢れるままに書いて、読んだ人から反論された時に何も言えなくなる自分を想像して怖くなっていた。
でも、先生の言葉を聞いてその恐怖も小さくなった。「伝えたいことを丁寧に文章にすればいい」、ただその思いで執筆に取り組むことができた。

社会人になってから、自分の内面をアウトプットしようという試みで文章を書き始めるものの、上手く書こうとして手が止まってしまうことが常だった。
「にょんさんが見てきた世界を書けばいいんだよ」、この言葉を今日の朝ふと思い出して、この記事を書き始めてみた。
あぁそうだ、こうやって書くんだった。夢中で卒論を書いていた日々を思い出した。
記事は長くても短くてもいい。おもしろおかしく書こうとしなくていい。
今日みたいに、「あ、これ文章にしてみよう」そう思ったものを思うがままに投稿していこうと思います。

(※1)コンサートや舞台など、生でアイドルを見れる場のことを指す。

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