ERCの若手向けグラントは年間4000万円

さいきん意外と日本語を話す機会が多い。日本学研究科にそれなりに人がいるし、Korean studiesの人も日本語ができたりする。まだセメスターが始まっていないからだけど、オフィスにいる間に一番喋る機会が多いのは日本語。

着いて早々、別の先生がオファーする予定の授業と中身がかぶりそうなことが明らかになり、内容を調整している。まあまだリーディングリストは作り途中だったから大して難しくない。どちらかと言うともともとやりたかった移民史に方向に近い形で修正できる見込み。

さて本題。ERC(European Research Council)というところがPhD取得後2−7年後の若手研究者向けにStarting grantを提供していることを最近知った。これは分野も国籍も関係なくPhDを持っていれば誰でも応募できる。受入先の機関(応募時に承諾を受けておく必要がある)は欧州内でないといけないが、例えば日本から応募して、採択されてから移り住むのでもOK(しかもその場合には追加のグラントが出る)。採択率が1割ちょっとという学振PDと同じくらいの競争率でありながら、5年間に渡って毎年4000万円相当の研究費(および間接経費としてその25%)を支給してくれるという極めて高待遇なグラントである。書類は死ぬほどめんどくさそうだが、EU内の大学ならこういう申請に特化したオフィスがあってそこの支援を受けられるはず。

4000万あったら人件費、史料調査のための旅費、チーム外の研究者を招聘してのワークショップの開催費用、コピー代、書籍代等々に使っても、十分以上の額。むしろ使い切れない気がする。

(これは研究費にしてみたら競争率が高いということなのだろうか。ポスドクの応募だと一つの椅子に何十人も応募しているからなんとなく採択率が二桁あるとよほど間口が広いように思えてしまう)

総額2億円相当という額は科研費で言うと基盤Sという最大カテゴリの上限額にあたり、人文系の若手が採択されることはおよそ想定されていないものだと思う(いまググったら基盤Sの採択率は直近で14−5%のようだhttps://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_28/h28_kibans_haibun.pdf)。

例えば主に歴史系と見られる'The study of the human past (SH6)'というカテゴリでは、2016年には24件のstarting grantが採択されている。(レビュアーのパネルには知ってる名前がない…東アジアのプロポーザル誰が見るんだろう:https://erc.europa.eu/sites/default/files/document/file/erc_2016_stg_panel_members.pdf)

採択されると申請者がPIとなって、ポスドクおよび博士課程の学生を雇ってチームで研究をすすめることが想定されている。雇うポスドク・PhD学生の給料はERCのお金の中から支弁でき、自分の給料は大学に入る間接経費から払われるようだ。例えばベルギーのKU Leuvenの申請者向け資料はこれ(https://www.kuleuven.be/english/research/EU/f/extra/erc/erc-recruitment-kuleuven.pdf)。

The KU Leuven offers a 5 year position, a tenure track academic position or a tenured academicposition for selected profiles, the level depending on your track record and the policy of theFaculties and Departments.
Your position will be paid by KU Leuven, not from the ERC grant, should you be successful.

とある。つまりうちをホスト機関にして採択されたら、テニュア・トラックのポストを用意しますよ、と。

2週間前にボスと話していたときに言われたことやこういう研究費の情報を総合して考えると、就活に対する考え方が少し変わってくる。日本のアカデミアでは、学振PDのようなポスドクレベルで受け入れ先をまず見つけるものを除けば、空いたポストに応募する以外の就職の方法はほぼない。出来レースであったとしても、誰かが動いたポスト・新規でできたポストに応募する、と言うかたちは変わらない。

ところがヨーロッパの場合は、そういう通常の応募方法に加えて、まずお金を確保しそれをもって「自分にポストを作れ」と大学に要求することがあり得る、ということらしい。ドイツだとDFG(ドイツ研究振興会)にHeisenberg Professorshipというスキームがあって、要するに財団のお金で教授ポストを5年間作ってもらうというもの。http://www.dfg.de/download/pdf/foerderung/programme/heisenberg/vortrag_heisenberg_professur_en.pdf

まあこれで救われる人は少数なのだけれど。ドイツでは教授のポストが限られていて中堅の研究者がなかなか昇進できずに苦しんでいる、という話はよく聞く。教授に就任する人の平均年齢は51歳らしい。


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