ホームレスとLINEライブ

ホームレス生活になって早半年が経とうというところだろうか
その間、マクドナルドさんには何度もお世話になってきた
それこそ全国津々浦々、足げなく通った

そうすると、世の中にはいろんな人がいることを改めて実感した

本日もまた、いろんな人がいるなーと思わせてくれる出来事が起こった


二十歳前後であろうと思われる見た目をした、2人組の若い女性が隣の席に座った

日常会話をしながら、マックをパクパクと食べている

ぼくはその横で小説「宮本武蔵」を青空文庫で読んでいた。
なぜかというと、この日、巌流島に行ったのだ
そこで武蔵・小次郎の青銅像を見たり、島の端っこの海岸沿いで門司の方角をブラブラと見ていた

「宮本武蔵、、かぁ、、いいねぇ、、」

ロックバンド好きの女子高生ばりに周囲の影響を受けやすい私は気づいたら宮本武蔵を読んでいた
おそらく、明日になったらこの熱気も覚めてしまうのだろう、ということでマックにてスマホ片手に読書をしていたのだ

そんな折、彼女らの声がちょいちょい耳に入る

「ねえ、まじ、暇じゃないー?」

「確かにーー。LINEライブでもするー?」

「へえ、、うちした時ないんだけど、やろやろ」


おいおい、うそだろ
LINEライブってあれだろ、ちょっとした有名人みたいな人たちがやるやつ、、
こんな一般北九州女子やって誰がみんだよ

というかそもそも、ここでやるの??
ケッコーガヤついてるよ、金曜夜のマックって


なんてことをフワフワ思いながら、
武蔵が17歳のとき、関ヶ原の地から命からがら生き長らえたシーンに胸を踊らす

「あ、始まった!
ヤッホーー、みんな元気ーー?」

「あ、まじ?もうこれ始まってんのー?
ヤホヤホーー」

「あ、中村がみてくれてるーー
元気ーー?」

「やば、久しぶりー、元気ー?
キャハハハハ」


うるさい
至極うるさい
女子会だ
女子会がマックのカウンターの隣席で行われている

それでも彼女らのパフォーマンスは続く


「えーー、みんな犬スキー?」

「うちスキーー
キャハハハ」

「あ、中村も好きだって!ヒャハハハ」

「まじ! そういえば犬飼ってるもんね中村!キャハハハハ!」

「そうそう、ウーロンでしょ?」

「あーそれ、ウーロン!
まじかわいいよねウーロン、キャハハハ」

「あ、なんか新しい人入ってきたー
ヤホーー」

「この人は猫好きだってよーー」

「中村が猫って美味しいですよねだって!ヤバーー!
ヒャハハハ!」

「キャハハハハハ!」


うう、、うるさい、、
笑い声が特にうるさい
笑い声ってそんな甲高いものでしたっけ
北九州だからか?
北九州だから夜のマックでもLINEライブでキャハキャハしてても当たり前なのか?

人生で初めて上陸した九州地方、人生で初めて経験した隣人のLINEライブ
それらが今後九州に対する偏見につながらないといいが


武蔵が故郷宮本村に命からがら帰るものの、追手に追われ逃げ隠れている緊張の場面にも関わらず、全く情景が浮かび上がらないまま、「中村」と「ウーロン」という謎の人物と謎の茶色い小型犬の像のみが頭の中で勝手に作りあげられていく


「あ、なんかここに1分って書いてるよ
これ1分経つと何起こるんだろうね」

「あと、1分だけってことじゃない?」

「あーまじ??
てかさ、ここのこの髪の色、ちょー良くない?」

「えーー、どこどこー?」

「ここ、ここーー
なんか今いい感じに髪伸びてきていい感じなんだよねー」

「あっ!!やば!
もう1分経ってるよ!」

「えまじ!
カウントダウンできなかったーー!!
キャハハハ!!」

「ヒャハハハハハハ!
できなかったねーー!ヒャハ!」


高いんだよ、笑い声が
女子会すんのもLINEライブすんのも別にいいんだけど
笑い声が高いのが気に食わん
小説を読んでる最中、それによって無理やり現実世界に引き戻されるんだよ


マトリックスの世界だったらこんな強制退出したら死んじゃうかも知んないぞ、ちゃんと受話器を受け取ってかえんないとダメじゃないか!
ここが仮想電子空間じゃなかったからいいものを、、全く!
、、、いや、待てよ。ここが仮想空間じゃないとは言い切れないぞ。
だとしたら、彼女らがぼくをこの世界に引き戻したと感じるけども、引き戻されたこの世界からもさらに引き戻されうる可能性だってある。
だとしたら、ぼくは別の世界軸で彼女らの高笑いによってこの世界から引きはがされることによりその世界に戻ることができる。
ぼくは実はこの高笑いを別の世界において待っているのかもしれない、この世界から離れるために!

なーーんて妄想を繰り返している中、ふと隣をみてみると

何やら、スマホをこちら側に向けながら自撮りをしている


まだ撮るんかい!
これ以上もう自分のことはいいでしょうが!
もっと周りの人のことに気を使いなさい!

と、思ってしまった



ようやく角度が決まったのか、光の当たり具合が気に入ったポイントを見つけたのか知らないが
パシャパシャと自撮りを始めた


「ああーー、なんかカラオケしたいかもーー」

「確かにーー、いこいこーー!」

などと言って、彼女たちは去って行った


嵐のような子たちだった、、

それにしても、今の若者は承認欲求が強いというか、ナルシズムがあるというか、周囲に気を使わないというか
色々勉強になったなあ


ということを思ったので、
ホームレスで周囲に煙たがられ、マックでは数時間充電器場所を確保するなど、周囲への迷惑を気にせず、noteでその生活ぶりを報告し、スキの数で自尊心を保っている自分のことは棚に上げて報告するのでした


結局、宮本武蔵は一巻の半分まで読んでそれっきりです

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