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選択バイアス・・栄養疫学において考えられる例

先日、選択バイアスに関するNoteを残しました。たまたま先日、読む機会のあった次の論文にそのバイアスが疑われるので追記+備忘録という意で記しておきます。

Buijsse et al., Plasma 25-hydroxyvitamin D and its genetic determinantsin relation to incident type 2 diabetes: a prospectivecase-cohort study, Eur J Epidemiol, 2013;28:743-752 (PMID: 24002339)

この研究は遺伝学的な内容を含んでおりその説明は避け(註1)、同じようなバイアスを抱える例を仮想します。

選択バイアスが潜んでいるであろう話

背景:高齢者に対しビタミンDのサプリメントは骨密度低下による骨折の予防に役立つかもしれない。ビタミンDのサプリメントを摂ると骨折のリスクを下げ(註2)、さらにビタミンDの血中濃度が低い人ほど、その効果も強いという仮説を検証した。

方法:集団Pの50~70歳の女性たちN人において、ビタミンDのサプリメントを摂取している女性ほど、Y年間の間に骨折するリスクが低いかどうか検証した。生活習慣、ビタミンDのサプリメントの利用暦について質問票を用いて調査した(質問票の妥当性は別の研究で確認済み)。身体測定や生活習慣の情報、血液サンプルも集めた。ビタミンDの血中濃度を測定し、次の2つの相関関係について解析を行った。
 研究参加者全員を対象にビタミンDのサプリメントの使用と骨折リスクとの関係
② ビタミンDの血中濃度が低い人に限定して、ビタミンDのサプリメントの使用と骨折リスクとの関係

結果:記述的な解析によると、ビタミンDのサプリメントの使用の頻度・程度は、肥満や運動するか否か等々の情報とまったく関係がみられなかった(Fig 1)。解析①ではビタミンDのサプリメントを摂っている人ほど、骨折のリスクが僅かに低い程度であった。②ではそうした関係はみられなかった。

結論:集団Pの女性に対してビタミンDのサプリメントが有効であるという強い示唆は得られなかった。

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Fig 1.上記の研究で考慮している因子の関係を示した図。ビタミンDのサプリメントが骨折のリスクと関係するか否かというのが研究で問う内容であるため、そのつながりは除去。食生活、社会経済的な因子等は省略。仮に運動とビタミンDのサプリメントの使用が関係していたら、「交絡」というバイアスを生みます。ビタミンDのサプリメントを摂取と骨折のリスクとの関係をみているつもりが、運動の程度も関わってしまうためです。
(こうした図の考え方は→註3)

バイアスの一端

この研究では①、②のそれぞれでビタミンDのサプリメントを摂っている女性、そうでない女性の骨折するリスクの比較を考えています。しかし2つの比較は質として同等とはいえません。②では選択バイアスが潜んでいると考えられます。

ビタミンDのサプリメントを摂りながらも、ビタミンDの血中濃度が低い人ってどんな人でしょうか?

傾向として、まったく外に出ていない人、それに関係して運動していない人、肥満の人などが多くなります。そうでないと、ビタミンDの血中濃度が低くならないからです。そのため、「ビタミンDの血中濃度が低い人」という解析対象の選択によって、サプリメントの利用と他の生活習慣との相関を生んでしまいます。その相関がバイアスの原因となります。

冒頭の論文では実際にこうした解析が実施され、抄録にも掲載されています。残念ながら上記のバイアスの可能性は問題として取り上げられていません。これでは科学の質、著者らの見識を疑わせる様相を呈してしまいます。そうした印象を与えないようせめて気をつけたいですね。

おしまい。

註1)この研究では遺伝学的な手法を用いて、ビタミンDの代謝が糖尿病の疾患と関係があるかということを検討しています。「メンデルのランダム化」と呼ばれているもの(私の医学書院への寄稿)で興味深くはありますが、この研究でも他の研究でもけっきょくビタミンDの代謝に関する遺伝子と糖尿病のリスクとの関係を見出すには至りませんでした。

註2)ビタミンDは「太陽のビタミン」と呼ばれ皮膚からも生産されます。太陽を浴びるか否か、太陽光が強い地域にいるか否かで皮膚での生成量が変化します。そのためビタミンDの血中濃度は生活習慣の多くの因子と相関をみせます(別のバイアスの要因になる)。

註3)選択バイアスについて図で説明するアプローチも紹介は・・既存のものをぜひご参照ください。例として:
鈴木越治 et al., 日本衛生雑誌, 2009;64(4):796-805
・KRSK (id:KRSK_phs) 【点と矢印で因果関係を考える】因果関係がないときにデータから関連が生じるパターンとその対策まとめ:因果ダイアグラム(DAG)によるバイアスの視覚的整理 https://www.krsk-phs.com/entry/structural_bias (accessed on 4 Jul 2020)

写真はGettyより。

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