【MtG】ミラディン次元唯一の存在

ミラディン次元の住人たち

 マジック・ザ・ギャザリングのカードでは、クリーチャーの「サブタイプ」として種族が表現されています。たとえば人間であれば、「クリーチャー‐人間・戦士」といった感じですね。次元ごと、セットごとに登場する種族・しない種族が異なり、その次元やセットの雰囲気やテーマを特徴づけているというのも、マジックの世界観に奥行きを持たせていますよね。

 金属次元ミラディンにも、たくさんの種族が存在しています。人間、猫(レオニン)、ヴィダルケン、ゾンビ、ゴブリン、エルフといった、マジックの他の次元でも登場するメジャーな種族だったり、アーティファクト・クリーチャーではマイアあたりですね。他の次元の種族と名前こそ同じですが、ミラディン次元の種族は、肉体と融合、あるいは肉体から突き出た金属が見えるデザインとなっており、かなり独特です。

 カードのイラストとしては、このあたりが分かりやすいでしょうか。

画像6

画像7

画像8

 

孤高の種族

 マジックのセットに特定の種族が収録される場合、リミテッドでの部族テーマや、セット全体の統一感の兼ね合いもあり、ある程度の枚数のカードが収録されるのが一般的です。こんなやつもいれば、あんなやつもいる、ということが世界観に奥行きをもたらすからでしょう。

 ところが、ミラディンブロックにはブロック全体を通して、たった1枚しかクリーチャーカードが存在しない、とてもレアな種族がいるのです。

 それが、デーモン(Demon)

 今回取り上げたいのは、ミラディン次元唯一のデーモンこと「強奪する悪魔」です。

画像1

 いいイラストですね。すんごい顔をしてメンチ切ってます。背後に光る紫電のオーラも迫力たっぷり。さすがは唯一のデーモン、いかにも悪くて強そうです。

 顔を見た瞬間に、ほかの有象無象の生物どもは恐怖のあまり逃げ出し、戦場に孤高のデーモンが降り立つというおしゃれなフレーバーの能力もオンリーワン。「アーティファクトでも黒でもない」というフレーズの「恐怖」感が時代を感じさせますが、これはこれでかっこいい。

 コストこそ激重ですが、能力に擬似的な「滅び」を内蔵している飛行クリーチャーと考えたら、なかなかなパフォーマンス…いや、やっぱりちょっとばかり重いか。

 能力イラストフレーバーは文句ないのですが、残念だったのは、このデーモンの棲む次元が、感情のないアーティファクトたちが跋扈する機械次元だったことでしょう。その能力が通じる場面がどれほどあったのか、大いに疑問の残るところです。なんだろう、せっかくかっこいいのに、能力のアンマッチな感じ…そこはかとなく漂う噛ませの香り…。


「唯一の存在」の割には

 というのも、このデーモン、唯一の存在という割には、セット内での扱いはかなり不遇なのです。

画像3

 ブロック第1セットのミラディンで華々しく登場したかと思えば、続く第2セットダークスティールで、思いっきり「粛清」された上、

画像2

 角はチャームにされちゃっています。おそらく「粛清」のときに火の玉(?)が当たって折れた右側の角ですね、これ。

 このとおり、散々な目にあって「強奪の悪魔」は退場しており、もちろん、最終セットのフィフス・ドーンでは一切登場しません。

 マジックの強くてかっこいいデーモンって、7ペイライフ7ドローのあのお方といい、やたらと出オチ感がすごい印象ですが、もしかすると、その流れはこの時代にすでに出来上がっていたのかもしれません。

 なお、「強奪の悪魔」はミラディン唯一のデーモン・クリーチャーなのですが、このカード以外にも1枚だけ「デーモン」に言及したカードがあります。念のため、そちらもみておきましょう。

 それが、ソーサリー「力の確約」です。

画像4

 この「力の確約」でも、たしかにデーモン(トークン)が出てくるのですが、イラストやパワー/タフネスがプレイヤーの手札(野心?)を参照しているあたり、このソーサリー(儀式?)によって「プレイヤー自身がデーモンになる」というフレーバーですね。

 その意味では、純然たるミラディン世界の住人としてのデーモンは「強奪の悪魔」だけだと考えて間違いないと思います。


「その後」の姿

 ミラディンブロックでの「強奪の悪魔」の物語は、上記のとおりなのですが、ミラディンの傷跡ブロックではなんと、その後の姿が描かれています。

 「粛清」をうまくかいくぐったのか、「粛清」後をファイレクシアに「再利用」されたのかは定かではありませんが、ミラディンの傷跡収録の「執行の悪魔」がそれに当たります。

画像5

 見た目は大幅に変わっていても、この「執行の悪魔」こそが「強奪の悪魔」のファイレクシア化した姿だと考えます。

 というのも、

 ① ミラディンの傷跡ブロック唯一の「デーモン」

 ② マナ・コスト(能力込み)が「強奪の悪魔」と同じ「4BBBB」

 ③ 「6/6 飛行」、「他の各クリーチャー」に対する能力

 という3つの共通点があるからです。

"カードから"物語を読む

 ミラディンブロック~ミラディンの傷跡ブロックでは、金属次元ミラディンのファイレクシア化という大きな物語が描かれています。個々のカードの中にも、はっきりと言及されているわけではありませんが、ミラディン時点とミラディンの傷跡時点での姿の両方が描かれているものがたくさんあります。個人的には、公式サイトの背景世界の記事や小説(英語版)など、補完してくれる情報はたくさんあるのですが、まずは一枚一枚のカードから物語を読み取っていく、というのが楽しいと思っています。

 というのも、個々のカードのデザインという限られた空間の中で、次元に起こった物語を描こうと、ウィザーズのデザイナーさんたちが様々なヒントを仕込んでくれているからです。

 このヒントを読み取っていくのが本当に楽しいんです。

 わかりやすいものもあれば、ひねりの効いたものまで様々ですが、よくもまぁ、カードという制約の多いフォーマットの中に落とし込んだものだなぁとニヤニヤしてしまいます。

 さて、この「読み取り」のヒントになる情報は、だいたい次の3つです。

   ① カード名・種族・イラストに共通点がある

   ② マナ・コストに共通点がある

   ③ スタッツ・能力に共通点がある

 今回の「強奪の悪魔」→「執行の悪魔」の例でいうと、

 ①は先述のとおり、ミラディンの傷跡ブロックで唯一のデーモンであるということですから、この2枚のカードの関係を嫌でも勘繰ってしまいますね。まったく関係ないわけがない。

 のマナ・コストについては「執行の悪魔」の方が少なく見えます。しかし、よくよく見ると、戦場に出たときに「執行の悪魔」に乗ってくる-1/-1カウンターは2個なので、能力の起動は最大2回、したがって他のカードの影響を考えなければこのクリーチャーにつぎ込めるマナは「強奪の悪魔」と同じ「4BBBB」になることがわかりますね。

 仮に召喚時に能力分を含めて「4BBBB」を支払えば、他の各クリーチャーに-1/-1カウンターを2個ばらまいた上で、「強奪の悪魔」と同じ「6/6 飛行」が戦場に出ることになります。-1/-1カウンターをばらまく能力は、小粒なクリーチャーにとっては「破壊」と大差ありませんし、フレーバー的には、ファイレクシア的に洗練された能力とすら言えるのではないでしょうか。についても、ほぼ似通っているとみて問題ないでしょう。

 以上のような理由から、「執行の悪魔」は「強奪の悪魔」がファイレクシア化した姿で間違いないでしょう。

 このようなスタンスで、個々のカードの情報を地道に読みとりながら、ミラディンミラディンの傷跡ブロックのカードにみられる変化、語られている物語について考察していきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?