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マックミラーは、薬物のオーバードーズによる自分の死を予言していた?

〜はじめに〜

今回は、私がこの世で一番愛するラッパー/ビートメイカーであるマックミラーについて記事にしたい。
というのも、彼についての日本語の情報があまりに少ないと感じている。
もちろんアリアナグランデというスーパースターと交際していたことも事実だが、そればかり取り上げるのではなく、彼がどんな人間で、どんな人生を歩んだのか、最近彼を聴き始めたリスナーのために書き残しておきたかった。
本記事では、マックミラーのキャリアについてさらっとおさらいした後、彼の薬物中毒との戦いについて、そしてそれが彼の音楽にどう影響を及ぼしているかについて書こうと思う。
本記事が、彼を愛する日本人リスナーにとって有益で、彼の魅力を更に知れる文章になることを願う。

〜マックミラーの簡単な歴史をおさらい〜


マックミラーは、アメリカはピッツバーグ生まれのラッパーである。ミックステープのリリースを経て、デビューアルバム「Blue Slide Park」で全米1位を獲得したものの、歌詞のほとんどの内容が「パーティ、酒、女」だったこともあり、音楽評論誌に軒並み散々な低評価をつけられた。(Pitchforkでは、1/10という酷評を受けた)そして、ここから彼の音楽人生はスタートした。

しかし、その後リリースした2作目の「Watching Movies with the sound off」や、ミックステープ「Faces」、3作目のアルバムである「GO:OD AM」で高評価を得ると、
4作目のアルバム、「Divine Femmine」ではJazz, R&Bにも接近したオルタナティブなHipHopを提示し、ファーストアルバムを1/10と酷評したPitchforkにも7.8/10という評価を受けている。

そして、アリアナグランデとの破局を経て、2018年8月3日にアルバム「Swimming」をリリース。前作を更に進化させた内容の本作は批評家からも高い評価を得て、完全に過去の「フラットラッパー」の汚名返上に成功した。(インタビューでは、デビューアルバムを度々ネタにされることもあったが。。。)

〜マックの死と、「Circles」のリリース〜

「Swimming」リリースから約1ヶ月後の2018年9月7日、マックは2018年に26歳の若さで亡くなった。死因は複数のドラッグを同時に摂取したことによるオーバードーズだ。
その日は彼の新しいPVを撮影する日だったらしく、マネージャーが彼の自宅を訪れると、部屋で倒れている彼を見つけたという。
彼は当時アルバム「Swimming」をリリースしたばかりで、ツアーも控えていたタイミングの出来事だったこともあり、そのニュースを聞いた時私は俄かには信じられず、ただ呆然とするのみだった。

その後、2019年には「Swimming」と同時期に制作された「Circles」がリリースされた。本作は、マックの生前に上記2作の共同プロデュースを行なっていたJon Brianが未完成だった「Circles」に手を加えた形でのリリースとなった。そのため、マック本人がどこまで曲を完成させていたのか、我々には分からないままである。Jon曰く、マックは2作を「Swimming in Circles」というテーマに沿って制作していたという。

〜歌詞に見られるオーバードーズの予言〜

前置きが非常に長くなってしまったが、タイトルにもあるように、彼は作品の中で自身の薬物中毒とその地獄について、またオーバードーズで自身が死ぬ可能性について、複数回言及している。
まずは、ミックステープ「Faces」から、一曲目の「Inside Outside」の歌詞を見ていこう。

Yeah, yeah
Shoulda died already
(俺はもう死んでるはずだ)

I shoulda died already, shit
(くそ、俺はもう死んでてもおかしくない)

I shoulda died already
(俺はもう死んだようなもんだ)

Came in, I was high already
(こっちにおいで、俺はもうハイ(※ドラッグ摂取による酩酊状態)だよ。)

Everybody trippin' and my mind ain't steady
(みんなトリップしてて、俺の感情は不安定なんだ)
From my sin, shoulda been crucified already
(今までの俺の罪を考えれば、
今頃もう十字架に貼り付けになっててもおかしくないんだよ)

次に、アルバム「GO:OD AM」から「Perfect Circle/Godspeed」の歌詞を紹介する。

They don't want me to OD and have to talk to my mother
(俺の友達は、俺にオーバードーズで死んでほしくないんだ。そしたら、俺の母親に話さなきゃいけないだろう。)

Tell her they coulda done more to help me
And she'd just be cryin'
(友達はきっと俺の母親に言うんだ、「マックのために俺たちはもっと何かできたはずなのに」って。そしたら母親は泣きながらこう話すんだ。)

Sayin' that she'd do anything to have me back
(「私の息子が戻ってくるなら何だってする」って言いながらさ。)

〜マックミラーの死は、自死か、事故か。〜

上記のような、オーバードーズによる死去の予言めいた歌詞が残っているものの、
彼は望んでオーバードーズした訳ではないということが、以下の歌詞からも分かるだろう。アルバム「Swimming」収録の「Small World」のアウトロで彼はこうも歌っている。

Yeah, nine times out of ten I get it wrong
That's why I wrote this song , tell myself to hold on
(俺は、10回チャンスがあれば9回は間違えるようなやつで、だからこの曲を書いた。自分に「もう少しこらえるんだ」と言い聞かせるために。)
I can feel my fingers slippin'
In a motherfuckin' instant, I'll be gone
(指が滑っていくのを感じる。ほんの一瞬の出来事で、俺は死ぬかもしれない。)

同じく「Swimming」収録の「Self Care」では、自分を大事にすることについて歌ってもいる。

Tell them they can take that bullshit elsewhere (Yeah)
(あいつらに、そのクソみたいなもん(恐らく薬物を指している)をどっかに持って行けって伝えるんだ)
Self care, I’m treating me right yeah
(自分を大事にするのさ。正しく扱ってやるんだ。)
Hell yeah. We gonna be alright
(最高だ。俺たちはきっと大丈夫だ。)

〜最後に〜

例に出したオーバードーズの予言と、薬物中毒を克服するために抗う彼の心のせめぎ合いについて考えるとなんとも悲しい気持ちになる。彼は自殺ではなく、事故であったと今回の記事では結論づけたい。
彼は、アリアナグランデとの破局、メディアの酷評、若くして大金を手にし、壊れてしまった生活、それらの悪魔たちと必死に戦い続けた。そしてその結果として素晴らしい作品を生み出してくれた。
彼にとって、唯一心が休まる瞬間が音楽を作っている瞬間だったに違いない。
彼はこの世を去ってしまったが、彼の作品はいつまでも私たちの心に生き続けるだろう。

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